第19話 シナリオ中盤で隠しボスと戦うのはちょっとしんどい
遺跡の奥へと進み、私たちはようやく最深部に到着した。薄暗い空間の中、魔力が渦巻いているのがはっきりと感じられる。ここには何か……いや、誰かがいる。そんな緊張感が肌に伝わってくる。
「リリアナ、感じるか? この異様な魔力……ただの魔物じゃない」
カイル様が前に立ち、剣を構えている。彼も私と同じように、何か大きな力を感じているようだ。
「はい、何か……とても強い存在が近くにいます」
私は慎重に答えた。――この場所、間違いない。ゲームの中でも、ここは隠しボスとの最終決戦が始まる場所だった。ここで現れる敵は、街や学院を襲撃してきた魔物を操る元凶――。
「みんな、気をつけて。何が出てくるか分からないけど、油断は禁物よ」
クラリスが冷静に警告し、エリオット先生も魔法の準備を始めている。
「へっ、どんな敵でもかかってこい! 俺の剣で一刀両断だ!」
シモンは大剣を肩に担いで、いつでも戦う準備ができている様子。
その時だった――
ズズズズ……!!
突然、床が揺れ、広間の奥にある巨大な祭壇がゆっくりと動き始めた。祭壇の上には黒い霧が渦巻き、その中心から不気味な光が放たれている。――出た、これだ! ゲームで、隠しボスが登場するシーンだ!
(まさか、この展開が現実になるなんて……!)
私は息を飲み、周囲に警戒しながら祭壇を見つめた。
「よくぞここまで来たな……愚かなる者たちよ……」
広間に響いたその声は、どこか冷たく不気味で、空気が張り詰めるような圧力を感じさせた。そして、黒い霧の中からゆっくりと現れたのは――
漆黒のローブをまとい、異様な魔力を放つ男。
その姿を見た瞬間、私は確信した。――この男こそが、ゲームの隠しボスであり、この世界においては襲撃事件の元凶だ。
ゲームでは「亡霊の魔導師ヴァレンティス」……やっぱり、この世界でも同じ役割を担ってるんだ!
私は心の中で焦りつつ、冷静を保とうと努力した。このヴァレンティスは強力な魔物を召喚しながら戦うタイプの敵だ。しかも、自らも禁忌の古代魔法を操り、プレイヤーを追い詰める厄介なボスキャラだった。
みんなは確かにゲームの進行以上に力を付けている。とはいえ裏ボスと戦うためには力不足なので上手く立ち回らないと……。
「貴様が、学院を、そして街を襲撃していた元凶か!」
カイル様が剣を構えながら、鋭い声で問いただす。
「そうだ……。私はすべてを支配し、この世界を破壊する者……貴様たち愚かな存在が抵抗したところで、無駄なことだ」
ヴァレンティスは冷笑を浮かべ、手をかざした。その瞬間、彼の周囲に黒い霧が集まり始め、そこから次々と魔物が姿を現した。――出た、魔物召喚……!
「また魔物かよ。全員まとめて倒してやる!」
シモンが前に出て、大剣を構える。だが、私はすぐに彼を止めた。
「シモン、待って! この魔物たちは簡単には倒せない。まず、黒い霧を消さないと何度でも復活する!」
――この魔物召喚の仕掛けも、ゲームで見た通りだ。黒い霧がある限り、倒しても倒しても魔物が復活してしまう。それを解除するには、ヴァレンティスの魔法を封じなければならない。
「なるほど……リリアナ、君の言うことを信じる。まずは奴の魔力を封じる手段を見つけよう」
カイル様は私の助言を受けて、すぐに指示を出してくれた。エリオット先生もすぐに理解し、魔法で援護に回る。
「私が奴の魔法を妨害する。リリアナ様、君は魔物の動きを封じてくれ」
「はい、わかりました!」
エリオット先生は魔法でヴァレンティスの古代魔法の詠唱を妨害している。ゲームでは「防御」するしかないけど、現実ではこういった戦い方が出来るからゲームより安全に戦えてる。
私はモフリを呼び出し、黒い霧を纏った魔物たちに突進させた。モフリの炎は黒い霧を焼き尽くし、魔物たちの動きを一時的に鈍らせた。
「クラリス様、私の魔法を援護してくれ! 奴の魔力を一気に封じる!」
エリオット先生がクラリスに声をかけ、彼女もすぐに水の魔法を使って霧を浄化し始めた。
「私だってやれる、全力で援護します!」
クラリスの声が響く中、私たちはそれぞれの得意分野を駆使して戦った。
――今がチャンス、魔物の霧を消しつつ、ヴァレンティスに攻撃を集中するしかない!
ヴァレンティスの周囲に漂う黒い霧。彼を守る巨大な黒霧獣たち。彼らを倒さない限り、ヴァレンティスへの攻撃は無意味になる。
「モフリ、お願い! あの霧を焼き尽くして!」
私はモフリに全力で魔力を注いだ。炎を纏った獅子のモフリが咆哮を上げ、黒い霧に突進する。燃え盛る炎が霧を焼き、黒霧獣の動きを鈍らせていく。
「よし、今だ! シモン、行くぞ!」
「任せとけ!」
シモンが大剣を振りかざし、カイル様も合わせるように切り込んでいく。二人の連携が決まると、次々と魔霧獣が崩れ落ちていく。
「これで霧が……!」
クラリスも冷静に水の魔法を使い、霧を浄化していく。やがて、黒い霧は完全に消え去り、ヴァレンティスの防御が崩れた。
「リリアナ、これで奴に直接攻撃ができる! 次はどうする?」
カイル様が鋭い目つきでヴァレンティスを見据える。
――次は、総攻撃を仕掛ける時。ゲームの中でも、ここでヴァレンティスに一気に攻撃を集中させて倒した。
「今です! 全員でヴァレンティスに攻撃を仕掛けてください!」
私はモフリを再び強化し、ヴァレンティスに向かって突撃させた。みんなが一斉に彼を囲み、攻撃を繰り出す。
「よし、全力で行くぞ!」
カイル様が剣を構え、シモンとエリオット先生がそれぞれ攻撃を繰り出す。クラリスも支援魔法で全員をサポートしてくれる。
「貴様ら……愚か者どもが……!」
ヴァレンティスは苦しそうに叫びながらも、強力な魔法で私たちに反撃を仕掛けようとする。しかし――
「最後の、一撃ぃぃ!!」
私は全力で魔力を込めて炎を放出する。燃え盛る炎がヴァレンティスに飛びかかり、彼を包み込む。――これで、終わらせる!
「ぐぉぉぉぉ……!」
ヴァレンティスの体が炎に包まれ、崩れ落ちていく。彼の咆哮が広間に響き渡り、やがて黒い霧となり消え去った。
「……やった、これで……!」
私はその場にへたり込み、ようやく全てが終わったことを実感した。
ヴァレンティスが消滅し、広間には静寂が戻った。魔物の気配は完全に消え、あの黒い霧も二度と現れてこない。
「……彼はもう、完全に消え去りました。これで、世界は平和になります」
私はそう言って、仲間たちを安心させた。――ゲームでも、ヴァレンティスを倒した後は完全に平和が戻ったから、きっとこの世界も同じはず。
「リリアナ、本当に……ありがとう。君のおかげで、王国を救えた」
カイル様が私に優しく微笑んでくれる。
「カイル様がそばにいてくれて……じゃなくて、みんながいたからこそ、私も戦えました」
――本当に、みんなの力があったから勝てた。ただ魔法力が強いだけの私一人だったら無理だったよ。攻略にゲームの知識を使った? それだって私の力だ!
「これで一件落着だな!俺たち、すごいチームだよな!」
シモンが大剣を肩に担いで、誇らしげに笑う。
「街の人たちも、学院の皆様も、これで安心できますね」
クラリスが微笑みながら、周囲を見渡している。
「リリアナ様、貴女の知恵がなければ、ここまでたどり着けなかったでしょう。本当に感謝します」
エリオット先生も静かに私に頭を下げてくれた。
「皆さんのおかげです……本当に、ありがとうございました」
私はみんなに向かってそう言い、ようやく肩の力を抜いた。ヴァレンティスは完全に消滅し、この世界は再び平和を取り戻した。これで、全てが終わったんだ――。
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