第16話 王子の戦い
黒霧龍を倒し、一息つけるかと思ったのも束の間。街中の人々が再び騒ぎ出し、逃げ惑う姿が目に飛び込んでくる。
カイル様は周囲の状況を素早く確認し、騒ぎが大きくなる前に街の人々を守ろうと動き始めている。王子としての責務を優先している姿に、私は改めてカイル様の真剣さに心を打たれた。
「カイル様……街の安全を優先しましょう!」
私の気持ちも決まった。せっかくのデートだったけれど、今はそんなことを考えている場合じゃない。街の人々を守るために、私たちができることをしなければ!
「ありがとう、リリアナ。君がいてくれて助かる」
カイル様は少しだけ微笑んでくれた。けれど、その目はすでに次の敵を見据えている。私も気持ちを引き締め直し、再び戦闘態勢に入った。
ドォォォン!!!
街の外れから、再び大きな音が響いてくる。私たちはその音の方向に目を向けると、再び魔物の姿がはっきりと現れてきた。
次に現れたのは――地面から這い出してくる巨大な爪を持った、地霊獣エスピオン。ゲームにもいた魔物だ。岩のように硬い体を持ち、鋭い爪で地面を掘り返しながらこちらに向かってきている。
「また面倒な魔物が……」
私は思わず目を見開いた。この魔物は地中から這い出てくる姿が不気味で恐ろしい。
「リリアナ、まず街の人たちを安全な場所へ誘導しよう。その後で、あの魔物を倒すんだ」
エスピオンはなにか目的があるような動きはなく、ただ暴れまわっている。その姿を見たカイル様は冷静に指示を出し、すぐに街の人々に声をかけ始めた。
「皆さん、落ち着いて! こちらへ避難してください!」
カイル様の呼びかけに、街の人々は王子の存在に気づき、慌てて彼の指示に従い始めた。彼の指導力とカリスマ性のおかげで、混乱していた人々も少しずつ冷静になっていく。
「リリアナ、君も手伝ってくれるか?」
カイル様が振り返り、私にも頼りにしているような眼差しを向ける。
「もちろんです! モフリ、誘導を手伝って!」
私はモフリに声をかけ、街の人々を安全な場所へと導く手助けを始めた。炎を纏うモフリは、その強大な存在感で人々の注意を引きながら、安心感を与えてくれる。
「ありがとう、モフリ。よし、これでみんな安全な場所に……!」
避難が完了し、街の人々が安全な場所に移動したのを確認した私たちは、ようやくエスピオンとの戦いに集中できるようになった。
「リリアナ、次はあの地霊獣だ。君の魔法で、奴の硬い外殻を破壊してくれ。僕がその隙を突く」
カイル様が鋭い目つきでエスピオンを見据え、再び冷静な指示を出してくる。私は頷き、全力でモフリに、魔力を注ぎ込んだ。
「はい、やります!」
モフリが再び炎の獅子となり、エスピオンに突進する。硬い岩のような体を持つこの魔物には、普通の攻撃は効かない。だからこそ、私の炎の魔法で外殻を破壊する必要がある――。
「モフリ、いけぇぇぇ!!」
モフリがエスピオンに向かって飛びかかり、その硬い体に牙を立てる。炎がじわじわと岩を砕き、エスピオンの動きが鈍くなっていくのが分かった。よし、もう少しで……!
「よし、今だ! リリアナ、僕がとどめを刺す!」
カイル様が素早く動き出し、エスピオンの砕けた外殻の隙間に剣を振り下ろした。その剣には、彼の魔力が込められている。
ガァァン!!!
大きな衝撃音と共に、カイル様の剣が突き刺さる。エスピオンは苦しそうに咆哮を上げたが、ついにその巨体が崩れ落ち、動かなくなった。
「……やった……!」
私はその場にへたり込んで、またモフリを抱きしめた。もう、本当に疲れた……。カイル様も剣を収めて、私の隣に座り込む。
「リリアナ、本当にありがとう。君のおかげでまた勝てたよ」
カイル様は優しく微笑みながら、私を見つめてくれる。その穏やかな表情が、私の疲れを癒してくれるような気がした。
「いえ、カイル様がいたからこそ……私も頑張れました」
私は顔を赤らめながら、カイル様の方を見た。どうしよう、こんなに疲れているのに、ドキドキが止まらないよ……。
――――――――――
戦いが終わり、街はようやく静けさを取り戻した。カイル様はすぐに近くの兵士たちに指示を出し、街の状況を確認させていた。彼はこの国の王子として、全ての人々を守る責任を負っている。それが、彼の一番大切な使命なのだと感じる。
「リリアナ、ありがとう。これで街も安全だ」
カイル様はようやく肩の力を抜き、私に向かって柔らかく微笑んだ。王子としての役割をしっかり果たした上で、私との時間も大切にしてくれる――そんな彼の姿を見て、私はますます心を惹かれてしまう。
「カイル様、本当に……お疲れ様でした」
私は小さく頭を下げた。カイル様は優しく頷きながら、私に手を差し出してくれる。
「さぁ、今度こそゆっくり休もうか。せっかくのデートなんだから、もう少し楽しまないとね」
――えっ!? まだデートを続けてくれるんですか!? さっきまで激しい戦いを繰り広げていたのに、こんなにすぐ切り替えられるなんて……さすが王子様、メンタルが強すぎる!
「疲れてないですか、カイル様?」
「これくらいなんてことはない。リリアナ、君がいるから俺は戦える。君と一緒にいることが、俺にとっては一番の力になる」
――そんな真っ直ぐな言葉を聞かされたら、心臓が爆発しそうなんですけど! カイル様、本当に、もうその優しさで私をどうするつもりなんですか!?
「そ、そんな……私、カイル様にそんなこと言われたら……」
私はますます顔が赤くなり、言葉に詰まってしまった。だけど、カイル様はそんな私の反応を楽しむかのように、微笑みを絶やさない。
「ふっ、リリアナ。今日は君の珍しい顔が見られてとても……」
「とても……?」
「……とても、うれしかった」
恥ずかしそうに言葉を詰まらせながらも、その優しい声と微笑みに、私の胸はますます高鳴るばかりだった。
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