第14話 婚約者との初デート
魔物との激しい戦いがあったりはしたけど、学院は平穏を取り戻した――そう見えるけど、実は私たちは学院の結界が狙われていることに気づいてしまった。それ以来、みんながピリピリした雰囲気で警戒している。だけど、今日はちょっと違う。だって……。
「リリアナ、今日は少し外に出て気分転換しようか」
――カイル様から、デートのお誘いが来たのです! はい、王子様直々に「デート」というワードが出たわけですよ!
「えっ、えっ……デ、デートですか!? 私と!?」
「うん、ここ最近ずっと魔物との戦い続きで君も疲れているだろう? たまには気分転換が必要だ。僕と一緒に、学院の外で散歩でもどうかな」
――もう、カイル様! そんな優しい顔して言わないでください! 私、これまで「悪役令嬢」としての役割しかなかったんだから……まあ、ゲームの展開から外れている今、期待していなかったわけじゃないですけど……!
「え、ええっと……で、でも……私でいいんですか? その……ほら、カイル様にはクラリスもいるし……」
私は半ばパニック状態で、カイル様の顔を見上げた。だって、ゲームの中では「悪役令嬢」のリリアナとは絶対にこんな展開にはならないし!
「リリアナ、君は僕の婚約者なんだよ? 形式的とはいえ、僕たちが一緒に過ごすのは自然なことだ。……それとも、僕と一緒に出かけるのは嫌かな?」
カイル様が、ちょっと困ったように微笑んでそう言った。
――いやいや、そんな困った笑顔を見せられたら、断れませんよ、嫌なわけがない! むしろイケメンすぎて、嬉しさがいっぱいです!
「い、嫌なわけないです! むしろぜひご一緒させていただきます!」
気がつけば、勢いでそう言ってしまっていた。あぁ、もうこれ、私がカイル様ルートに入っちゃったかも。後戻りできない! 私、カイル様とのデートに行くことになっちゃった……!
――――――――――
そして、迎えたデート当日。学院の近くにある王都の街まで、カイル様と二人で出かけることになった。学院の制服ではなく、私服に着替えているカイル様は……もう、何て言うか、見た目が本物の王子様すぎて眩しい。どこを見ても絵に描いたような美男子って、こういうことを言うんだなぁって改めて感じる。
「リリアナ、準備はいいかい?」
「は、はい! バッチリです!」
私はドキドキしながらカイル様の隣に立つ。私も学院の制服ではなく、少し可愛らしいドレスを着てみたんだけど……こんなの、似合ってるのかな。自分の姿に自信が持てなくて、どうしても不安が募る。
「リリアナ、そのドレス、よく似合ってるね。可愛いよ」
――えっ、ちょっと待ってください、カイル様!? いきなり褒めてくれるの!? イケメンに褒めてもらえるってサイコーに気持ちがいい!
「ど、どうもありがとうございます……」
私は顔が真っ赤になるのを必死に隠しながら、カイル様と一緒に街を歩き出した。
私たちは王都の街をゆっくりと歩きながら、色々な場所を見て回った。街の中は賑やかで、さまざまな店が立ち並び、活気に満ちている。だけど、何より驚くのは――みんながカイル様を見た瞬間に、さっと道を開けること!
「……さすが、カイル様。みんなから注目されてますね……」
「ふふ、仕方ないよ。僕は王子だからね」
――うん、王子様だからってのは分かってるんだけど、それにしてもカイル様の人気が凄すぎる。こんな完璧な人と一緒に歩いてていいのか、私。
「リリアナ、少し休憩しようか。あそこのカフェは評判がいいんだ」
カイル様はそう言って、街の中にあるおしゃれなカフェに足を向けた。私たちはそこで席に着き、しばしの休息を取ることにした。
「うわぁ、素敵なカフェですね。静かで落ち着いた雰囲気……」
私は周りを見回しながら、ゆっくりと腰を下ろした。外の喧騒とは違って、カフェの中は落ち着いた雰囲気で、香ばしい香りが漂っている。こういう場所で王子様とデートだなんて、夢みたいな展開だよね。
「リリアナ、普段こういう場所には来ないのかい?」
「えっ、あ、あまり来たことないですね……というか、こういう高級なお店はちょっと緊張しちゃって」
「そんなに緊張しなくてもいいさ。今日は気分転換だし、君と過ごす時間を楽しみにしてたんだ」
――えっ!? 「楽しみにしてた」って……カイル様、それ本気で言ってるんですか。形だけの婚約者の私なんかが相手で、楽しいなんて思うはずないのに……。
「リリアナ、君がいると本当に安心するよ。最近は魔物の問題が続いていたけど、こうして君と一緒に過ごせる時間は特別だ」
――いやいや! その「特別」発言、素直にうれしいです!
「わ、わたしも……こうしてカイル様と過ごせるなんて、思ってもみませんでした」
本当に、カイル様との時間は特別だ――。でも、私がゲームの「悪役令嬢」として転生したこの世界では、こんなことあり得ないはずだった。彼は本来、クラリスと結ばれるべき「正ヒロイン」の相手なのだから。
「君はいつも、俺に遠慮しているように見える。だけど、今は君がそばにいてほしいんだ」
カイル様は静かに、でも力強く私を見つめてそう言った。
――そんな……どうしよう。カイル様のそのまっすぐな言葉に、どう答えればいいの?
「わ、私は……」
私がどう返事をするべきか悩んでいると――その時、突然カフェの外で大きな音が響いた。
ドォォォン!!
「えっ!?何!?何が起こったの!?」
私は思わずカイル様の隣から立ち上がった。街の外で、何か爆発音のようなものが響いている。まさか、また魔物……?
「リリアナ、どうやらただのデートで終わりそうにないな」
カイル様が静かに立ち上がり、鋭い目つきで外を見つめる。王子様のまっすぐな顔が、今度は戦いに向けた強さを宿していた。
「……えぇ、そうみたいですね」
私も、覚悟を決めてカイル様に頷いた。彼の言う通り、私たちのデートは――ただのデートでは終わらないようだ。
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