第13話 貰え褒賞、探れ真相
黒龍ザムダークを倒し、学院の結界を守り抜いた私たち。疲労困憊しながらも、どうにか学院の平和を取り戻すことができた。でも――最近、魔物が襲ってくる頻度が高すぎない? ゲームではこんなに頻繁に強力な魔物が現れるなんてこと、なかったのに……。
「リリアナ、どうかしましたか?」
クラリスが私の隣で、微笑みながら問いかける。さっきの黒龍戦の疲れがまだ少し残っているみたいだけど、彼女はいつも通り優雅に振る舞っている。
「うん、ちょっと気になって……なんでこんなに強い魔物が立て続けに出てくるんだろうって」
「確かにそうですね。普通なら、結界がある限り魔物は近づけないはずですもの。何か、学院の外で異変が起こっているのかもしれません」
クラリスも同じことを考えていたらしい。彼女の言う通り、これは異常なんだ。私たちの知らないところで、何かもっと大きな力が動いているのかもしれない……。気を付けてないとゲームの知識だけでは対処できないかも。
そんな考え事をしていると、隣にいたカイル様にしっかりと腕を組まれる。「きゃっ!」と声が上がる前に気持ちがほわっとなって何も言葉がでなかった。
「リリアナ。学院長への報告、今回こそは来てもらうぞ」
「あ、はい……」
これまでの魔物の襲撃に関する報告は一緒にいた人たちにお願いしていた。面倒だったし……。でも今回はカイル様も一緒に戦ったので、とうとう連れていかれることになってしまった。
こうして私もみんなについて行き、すぐに学院長室へ向かうことにした。カイル様にずっと腕を組まれていたのはちょっとうれしかった。
――――――――――
学院長室に到着すると、そこにはセシリア・グレイア学院長が待っていた。彼女は白髪の女性で、年齢は不詳。学院内でも最も高位の魔法使いであり、学院の全てを取り仕切る存在だ。威厳あるその姿は、まさに「学院の守護者」と呼ぶにふさわしい。
「カイル王子、リリアナ・フォン・クラウゼ、そして君たち――よくやってくれました。今回も無事に学院を守り抜いてくれたこと、感謝しています」
学院長は静かに微笑みながら、私たちに感謝の言葉を述べた。普段、あまり表情を変えない学院長だけど、今日は珍しく少し柔らかい雰囲気を感じる。
「学院の生徒として当然のことをしただけです」
「私たちはただ、できることをしただけですから」
カイル様はキリッとした顔で答えたが、私は少し照れくさそうに頭を掻いた。だって、モフリが暴走しかけたりして、むしろ迷惑をかけた部分もあったし……。
「いえ、君たちは学院にとってなくてはならない存在です。特にリリアナ、あなたの魔力は他の誰よりも強大。これまで何度も学院の危機を救ってくれたことは、学院全体としても大きな感謝を抱いています」
――え、そんなに褒められると、逆に緊張しちゃうんですけど!? 私はあくまで「悪役令嬢」だったはずなのに、こんなに重要視されるなんて思ってもみなかった。
「そこで、今回、君たちのこれまでの功績を称え、特別に褒賞を用意しました」
「えっ、褒賞……ですか?」
「そうです。学院の倉庫にある秘蔵の魔道具の中から、君たちに合うものを贈ろうと思っています」
学院長はそう言うと、手を振って扉の向こうから大きな宝箱を持ってこさせた。
――え、えぇ!? そんな大きな宝箱って、いかにもゲームっぽい展開じゃないですか!? 中には何が入ってるのかな。
学院長は慎重に鍵を開け、宝箱の蓋をゆっくりと持ち上げた。その中には――きらびやかな魔道具の数々が光り輝いていた。
「君たちにはそれぞれ、この中から選んでもらいます。今後の生活でも役立つはずです。もちろん、エリオット先生も選んでください」
「ありがとうございます、学院長。こちらは指導に役立てさせていただきます」
私たちは一斉に宝箱の中を覗き込んだ。すると、そこには様々な魔道具が並んでいて、それぞれが強力な力を秘めていることが一目で分かる。
「おぉ、これすげぇな……まさかこんなに立派なもんが褒賞になるなんて」
シモンが驚いた顔をして、手を伸ばそうとするが――。
「シモン様、慎重に選んでください。これらは非常に貴重なものばかりですから」
エリオット先生が冷静に制止した。
「リリアナさん、まずは貴女から選んでください」
学院長が私に微笑みかけ、促した。私は少し緊張しながら、宝箱の中を見回した。
「……どれにしよう……」
その時、私の目に留まったのは、炎の宝石が埋め込まれた美しい指輪だった。私は自然とその指輪に惹かれ、手に取った。
この指輪は「フレイムリング」だ。炎の力を持つ者が装備すれば、魔力を増幅し、より強力な攻撃魔法を繰り出すことができる。私にぴったりのアイテムだと思う!
「フレイムリング……すごい……!」
私はその指輪を指にはめてみた。すると、体中に魔力が流れるのを感じ、魔力が一気に強化されたように感じる。これなら力をより正確にコントロールできるかもしれない……!
「うん、これにします!」
私はフレイムリングを手に決め、他のみんなもそれぞれ自分に合う魔道具を選んでいった。カイル様は魔法の盾を展開できる手甲、エリオット先生は魔法書、クラリスは水の宝珠、そしてシモンは……大剣がさらに大きくなる重量強化の腕輪を手に入れた。
「これで、君たちはさらに強力な“チーム”となるでしょう。学院の未来は君たちに託されています」
学院長の言葉に、私たちは改めて気を引き締めた。私たちの力が、学院を守るために必要だと言われると、責任が重いけど……でも、これからも全力でやるしかない。
学院長との話を終え、私たちは外に出て、しばらくの間歩いていた。次々に現れる魔物――そして、その原因を探るために、何をすべきかを考えながら。
「襲ってくる魔物、ちょっと強すぎない? なんかこのあたりに出現する魔物とはレベルが全然違うんだけど……」
「確かに、強力な魔物が現れますわね。今までは学院の結界が守っていたのに……」
クラリスと私は悩みながら、魔物について話していた。すると、エリオット先生が静かに口を開いた。
「この異常な魔物の襲来……私も少し調べてみましたが、どうやら学院の結界そのものが狙われているようです」
「結界が……狙われている!?」
私は驚いてエリオット先生を見つめた。結界が狙われているってどういうこと?それが破られたら、学院は無防備になっちゃうし……。
「ええ、結界を攻撃するために、強力な魔物が次々に送り込まれている可能性があります」
「でしたら、誰がそんなことを……?」
「それはまだ分かりません」
――まさか、学院そのものが誰かに狙われている……?
「とにかく、このままでは危険ですよね。私たちも学院の外に出て、調査をした方が良いのではないでしょうか?」
クラリスが提案した。
「うん、私もそう思う。学院の周辺を調べて、何が起こっているのか確認した方が良さそう」
「よし、俺たちで学院の周囲を調査しよう。手分けして、異変がないか確認するんだ」
カイル様が指示を出し、私たちは調査に動き出すこととなった。
――――――――――
翌日、私たちは学院の周囲を歩き回り、結界の外や近くにある森の中を調査していた。エリオット先生が魔法で結界の状態を確認し、私たちは霧や魔物の残留物がないか探っていた。
「何か、怪しいものでも見つかればいいんだけど……」
私は呟きながら、モフリの力で結界を感じ取っていた。すると――何か、妙な気配がする。
「……待って、あれって……」
私が指差した先、森の中に黒い痕跡が残っているのが見えた。まるで、何かが這い回ったかのように、黒い霧のような残留物が地面に広がっている。これって、昨日の黒霧獣と同じもの……?
「リリアナ、これは……魔物の残留物ですね。結界の外から何かが送り込まれている証拠かもしれません」
クラリスが真剣な顔で頷いた。やっぱり、学院の外から魔物が送り込まれていたんだ……!
「誰がこんなことを……」
そのとき、カイル様が森の奥から戻ってきた。
「リリアナ、クラリス……こっちにも同じ痕跡があった。どうやら、学院の周辺全体に仕掛けられているらしい」
「じゃあ、やっぱり誰かがこの学院を狙ってるってことですよね……?」
「ああ。まだ詳細は分からないが、このまま放っておけば次の魔物が現れるのも時間の問題だろう」
私たちは学院が何者かに狙われていることを知り、警戒心を強めた。これはゲームになかったイベント。次に何が起こるのかは分からない。これからもっと大きな危機が訪れるかもしれない。
「リリアナ、君の力が必要になる。学院を守るため、君の魔法力をしっかり磨いてくれ」
カイル様がまっすぐに私を見つめ、そう言った。
「わ、分かりました。私、頑張ります!」
次の危機に備えて、私はさらに自分の力を磨いていかなければならない。学院を守るため、そして……カイル様たちと一緒に未来を切り開くために。
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