第11話 クラリスと協力プレイ
雷龍を倒した件が片付き、学院内は再び穏やかになってきた。と言っても、私にとっては相変わらず注目を浴びる日々。学院の生徒たちの間では、火の猫モフリの話題で持ち切りだし、私が「最強の魔法使い」なんて噂されているのが、なんとも居心地が悪い。
「はぁ……もっと目立たずに静かに暮らしたいんだけどな……」
中庭のベンチに座って、私はひとりモフリを撫でていた。相変わらず、炎を纏っているのにモフモフしているという不思議な触り心地のモフリ。最近は暴走することもなく、まるでペットみたいに私の側にいる。
「可愛くて頼りになる存在だけど、ちょっと甘やかしすぎたかもしれない」
そんなことをつぶやいていると……
「リリアナ様、そんなこと言いながら、モフリを可愛がっているじゃありませんか」
ふいに声をかけられ、私は顔を上げた。そこには、美しい笑顔を浮かべるクラリスが立っていた。
「クラリス様……」
私は少し驚いた。前に彼女と話して以来、関係は改善してきていた。彼女は以前のように私を敵視することもなく、むしろ何かあれば助けてくれる仲間のような存在になっている。それでも、やっぱり彼女がカイル様の本来の恋人候補であり、「ゲームの正ヒロイン」であるという事実は私の心に引っかかっている。
「今日はどうしたの?」
「いえ、少しお話をしようと思いまして」
クラリスはベンチに座る私の横に、ふわりと優雅に腰を下ろした。その姿勢は、さすが正統派ヒロインという感じで、私と同じ学院に通っているのに、どこか別の世界の人みたいに思えてしまう。
「リリアナ様、最近は本当にご活躍されていますね。大型の魔物を一人で倒すなんて、誰もが驚いていました」
「そ、そんなに大したことじゃないわよ……。モフリが頑張ってくれたおかげだし……」
私は謙遜しつつも、少し照れくさくて頬をかいてしまう。モフリが大活躍したのは確かだけど、私の魔力はまだ不安定なところがあって、正直いつまた暴走するかわからないから、私自身はまだまだなんです……。
「リリアナ様、あなたは自分の力を過小評価しすぎているんじゃありませんか?」
クラリスは微笑んで、私をまっすぐ見つめた。その瞳には、優しさと信頼が滲んでいる。
「えっ、やっぱりそうなのかな。カイル様と同じことを言われたし」
「ええ、あなたは自分の力をもっと信じていいと思います。リリアナ様は、自分の力を恐れすぎています。でも、その力を正しく使えば、誰よりも周りを助けられるはずです」
クラリスの言葉に、私は思わず黙り込んだ。そう、私は魔法の暴走が怖くて、いつも「制御すること」ばかり考えていた。だけど、それって彼女の言う通り、自分の力を恐れているからなのかも。
「……ありがとう、クラリス様。私、もっと自分の力と向き合うようにしてみる」
クラリスはにっこりと笑い、私の手を軽く握った。
「私、リリアナ様を信じていますから。お互い協力し合いましょうね」
――協力、か。まさか、あの「ゲームの正ヒロイン」クラリスと手を取り合うことになるなんて、転生してきた当初は想像もしていなかった。でも、彼女との関係が少しずつ変わっていく中で、私も何かを変えなきゃいけないんだと感じている。
――――――――――
その日の午後、学院の大教室で行われた魔法学の授業で、私たちは新たな課題に取り組んでいた。魔法の応用を学び、実践的な訓練をするという内容だったが、これがなかなか難しい。
「さて、本日は火と水の魔法を応用し、それを組み合わせた魔法を発動する訓練を行います。みなさんの正確なコントロール力が試されます」
魔法学の先生がそう言って、魔力を込めた手本を見せた。火と水が重なり合い美しい球体が生み出される。火と水の魔法を同時に扱うなんて、普通なら考えられない。だって、火と水は相反する元素だから、うまく組み合わせられずに相殺してしまうか、逆に暴走してしまうリスクが高い。
「……これ、私にできるの?」
私は火の魔法が強すぎて、常にコントロールに苦労しているのに、それに水を組み合わせるなんて無理じゃない!? 私は隣にいるクラリスの方を見た。彼女は水の魔法を得意としているから、きっとこの課題には強いんだろうな……。
「リリアナ様、もしよければ一緒にやりませんか?」
クラリスがふっと私の方を向いて、優しく提案してくれた。
「えっ、クラリス様と一緒に?」
「はい。私は水の魔法が得意ですし、リリアナ様は火の魔法が強力です。お互いの力を合わせれば、きっと上手くいきますよ」
……彼女と協力? ゲームの中では、クラリスとリリアナは永遠に交わることのない対立関係。でも、今はもう「ゲームの中のリリアナ」じゃないんだ。私は彼女と手を取り合い、協力する道を選べる――。
「……うん、やってみよう!」
私はクラリスに頷き、彼女と一緒に魔法を発動することに決めた。火と水の魔法を同時に扱うなんて、初めての経験だからどうなるか不安だけど、クラリスとなら上手くいくかもしれない。
「リリアナ様、まずは私が水の魔法で基盤を作ります。リリアナ様は、火の魔法を抑えながらそこに重ねてください」
クラリスの冷静な指示に従い、私はゆっくりと魔力を練り始めた。まずは彼女が作り出した水の球体に、私の火の力を少しずつ重ねていく。冷静に……落ち着いて……。
「いい感じです、そのまま……」
クラリスの声に励まされながら、私は魔力をさらに注ぎ込んでいく。火の力が水と混ざり合い、まるで湯気のような霧が立ち上る。これなら、なんとか制御できそう――と思った瞬間。
ブワッ!!
突如、火の魔法が暴走し始めた! 私の力が強すぎたのか、水の力を一気に蒸発させ、火だけが勢いを増して膨れ上がってしまった!
「まずい、暴走しちゃう……!!」
「リリアナ様、落ち着いてください!」
クラリスはすぐに対応し、水の魔法で再び火を抑え込もうとしたけれど、私の魔力があまりにも強く、抑えきれない。周りの生徒たちが驚いて後退し、教授もすぐに駆け寄ってくる。
「リリアナ様、冷静になって!」
――そうだ、ここで落ち着かないとまた大失敗してしまう!
私は深呼吸をして、モフリに呼びかけた。
「モフリ、お願い!」
すると、モフリが私の手元に現れ、私の暴走した魔力を引き取ってくれた。火の力がモフリに集まり、彼が代わりに魔法の暴走を抑え込んでくれる。
「モフリ、ありがとう……!」
モフリが頑張ってくれたおかげで、火の勢いは収まり、周囲に危害が及ぶことはなかった。私はその場にへたり込み、胸を撫で下ろした。
「リリアナ様、大丈夫ですか?」
クラリスが心配そうに駆け寄ってきた。
「……うん、なんとか……」
もう少しで大惨事になるところだったけど、なんとか乗り越えた。クラリスの水の魔法と、モフリのおかげで暴走が抑えられたけど、やっぱり私はまだまだ修行が足りないんだ。
「でも、リリアナ様……あなたの魔法は本当に素晴らしいです。もう少しで成功でしたよ」
クラリスは優しく笑って励ましてくれた。
「ありがとう、クラリス様。もう少し練習すれば、きっと上手くいく気がする」
私はモフリを撫でながら、もう一度自分の魔法を磨いていこうと心に決めた。自分の力を正しく使いこなせるように――そして、クラリスや他のみんなと一緒に、もっと強くなれるように。
読んでいただきありがとうございます!
今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。
今後ともよろしくお願いします。