どんでん返しの婚約破棄
「なあロイド、波風をたてないように婚約破棄するにはどうすれば良いかな?」
「……ミカエル王子、ルル様と婚約破棄をされるおつもりですか?」
ロイドは珍しく怪訝そうな顔をしている。幼少期から俺の従者としてたくさん働いて貰っているが、主人の俺に歯向かったことは一度もない。しかし今ロイドの目は、明かに止めるべきだと主張している。
確かに王族と公爵家の婚約破棄はあってはならないことだ。特にルルの家であるライドン公爵家は諜報活動を国内外に展開しており、敵に回せば一夜にして全ての情報を丸裸にされると言われている。
でも俺はルルと婚約破棄をしなければならない。
なぜなら……
真実の愛を見つけてしまったのだ!!
ああ!愛しのアリア!煌めく黄金の髪!美しく景色を浮かびあがらせる深青の瞳!そして俺の隣で幸せだと囁いてくれる溶けるような声!天使などと表現するのすらおこがましい。彼女の美しさを表現することのできる言葉などこの世に存在しない!
ああ!麗しのアリア!君のためなら俺は公爵家と婚約を破棄することなど厭わない!例え世界中を敵に回そうとも君のことを守りぬくと誓おう!ああ
「……エル王子、ミカエル王子!」
「は!すまない。会話の途中だというのに愛の沼に浸っていたようだ。本当に愛の力は偉大だ。ああ、それでロイドに頼みがあるのだが、ルルを監視してくれないか?」
「私がルル様を……監視ですか?」
「そうだ!さすがに理由もなく婚約破棄はできない。だが向こうに落ち度があれば別だ。そこでロイドにはルルの失敗や弱みを見つけてきてほしい。できれば婚約破棄が正当な理由に見えるようにな!」
「……承知いたしました」
ロイドはしぶしぶといった表情で部屋から出ていった。何か言いたげではあったが、自分の気持ちを押さえ主人の命に従うのがロイドだ。俺より少し年上なだけなのに、たまに祖父のような安心感を感じることがある。精神的にも肉体的にもとても優れた従者だ。今回の命令も嫌々完璧にこなしてくれるだろう。
それよりもだ。
明日から夏休みも終わってまた学校が始まる!つまり愛しのアリアに会えるのだ!アリアは平民だからおいそれと街中で会うなんてことは出来ない。しかし!光の魔法を使えるアリアは特待生として我がシュバルツ王立学園に通うことができるのである!
はあ~、明日アリアになんて声をかけよう。「久しぶり!」では少し馴れ馴れしいし、「夏休み何してた」だと少し踏み入りすぎか?どう声をかけるのがいいのだろうか。それに「お昼一緒にどう?」とか言ってみたいな……
*****
は~、面倒くさいわ。本当になんなのあの王子!少し優しくして私の虜にしてやったのはいいけど、やれ一緒に教室まで行こうだの、やれ一緒に食事しようだの、鬱陶しくて仕方がないわ!!
……でも我慢よアリア。あいつは王子。お金をたんまり持ってるわ!あいつに取り入れば億万長者間違い無しよ!
しかしあいつはいつ婚約破棄するの!?いつまで経っても「ルルに非がないのに君と婚約することは出来ないんだ、ごめんよ」の一点張り。馬鹿なんじゃないの!そんなんだから第二王子の方が将来の王に相応しいなんて言われるのよ!私も好かれるんだったら第二王子が良かったわ!
もういいわ!私がルルとやらの悪いところを見つけてやるんだから!
私はルルとかいう女を尾行しながら、心のなかでミカエル王子に悪態をつく。
「アリア様、こんな所で何されているんですか?」
「ひゃぁ!!」
背後からの声に驚いて振り向くと、そこにはミカエル王子の従者、ロイドがいた。従者のくせに将来王妃の私を驚かせやがって。まあでも顔はそこそこいいし、いつかペットとして飼ってあげようかしら。
「ロイド様!驚きましたわ!もう、急に後ろから声をかけるの、メッ、ですわ!」
ああ、私ってばとても可愛いわ!最後に私の小さくて可愛い人差し指でロイドを優しくつつけば、ほらこれで完璧。これで恋に落ちない男はいないわ!
「申し訳ございません。では私はこれで」
「そんなに急いでどこに向かわれるんですか?」
私は人差し指を右ほっぺたにくっつけ、少しだけコテンと首を傾ける。私が美しく見えるポーズ百選のうちの一つ、少し上目遣いではにかむ美少女の完成よ!
「監視するように主人から命令されていますので」
ロイドは少し遠くに見えるルルって奴の方に視線を向けた。
主人から?ああ、ミカエル王子もちゃんと婚約破棄のため準備をしていたのね。でもルルってやつこれまで何もやらかしていないってこと?これじゃあ、いつ婚約破棄できるか分からないじゃない!老いてからお金を手に入れても意味ないんだから!
「あ、あの、ルル様って方、他国に情報を漏らしているって噂を聞いたのですけれど」
「……それは本当ですか?」
「はい!で、でも絶対証拠を残さないって……」
「確かに、ライドン公爵家が本気を出せば証拠など残らないと思いますが……」
よし!悩んでる!ルルってやつが尻尾を出さないんだったら、私が偽物の尻尾を捏造してやればいいのよ!どうせ悪いことをしていない人間なんていないのだし、一度疑われたら色々こぼれ落ちてくるわよ!
「ミカエル王子も思い悩んでおいででしたわ」
「なるほど、それで婚約破棄ですか。……しかし私程度の力では証拠を押さえるのは難しそうですね」
「でしたら私に考えがありますわ」
私はにんまり笑った。
「ルル様、本日は我がフェルミンド帝国に情報をくださり誠にありがとうございます。ロイド様も取り計らっていただきありがとうございます。ぜひこれからもよろしくお願いいたします」
「いえ、では約束のお金は後でいただきます。約束通りロイド経由でお願いしますね」
私は隣に立っているロイドの方に一瞬視線を向ける。
「もちろんです、ルル様」
目の前では黒装束に身を包んだ人が、手をこまねきながら薄気味悪い笑い声をあげている。こんな奴とこれ以上話していたら、私の美貌に影響しかねないわ!今すぐ帰りたい……でも我慢よアリア!私がルルってやつのふりをして他国に情報を流すことで、婚約破棄する明確な証拠を手に入れる事が出来るんだから!
渋っていたロイドに、「大事な情報は嘘をつけば逆に国のためになると思います!」と半ば強引に説得できて良かったわ!おかげで今回の場を用意してもらえたもの!
私のつけている指輪型魔道具でフェルミンド帝国使者の映像と音声はバッチリ撮れてるわ!これで王妃の座は私の物よ!
*****
「ルル・ライドン!ミカエル・シュバルツ第一王子の名において、おまえとの婚約破棄を宣言する!!」
楽しい雰囲気だった卒業パーティが一気に張り詰めるのを感じる。
この馬鹿王子は何を言っているか分かっているのだろうか。私と婚約破棄すると言うことは、ライドン公爵家が第一王子派閥から抜けると言うことなのだけれど。
そして横にいるのはアリアさんね。二人とも馬鹿だから逆にお似合いだわ。
「おまえがフェルミンド帝国に我が国の情報を流しているのは分かっている!この映像が証拠だ!」
壁一面に映像が投影され、会話が大音量で流れる。壁には黒ずくめのフェルミンド帝国の使者と名乗る者が、映像に映っていないルル様と名乗る者から情報を提供してもらっている所だった。会場全体がどよめく。
全く身に覚えの無い光景だわ。というかもし私が他国の内通者だったとしても、本人自ら他国の者と会うはずがないじゃない。本当に馬鹿なのね。ここまで来ると哀れみを通り越して心配が勝つわ。
「そしてそのことに気が付いた私の天使、横にいるアリアと婚約することを宣言する!」
ミカエル王子は会場中に響き渡るぐらい大きな声で宣言した。
まるで私に対する勝利宣言。でもやっぱり馬鹿ね。
勝ったのは私の方よ
「婚約おめでとうございます、ミカエル王子。しかし私は先ほどの映像について、関わっていないと断言することが出来ます」
「黙れ!こんな喜ばしい日に罪人の話など聞きたくないわ!証拠を持ってきてから出直すんだな!」
「いえ、証拠も証言もございます。証言を行うものはこちらに」
「なっ」
会場が先ほどよりも大きくざわめき、全ての人が一点を見つめていた。
それはミカエル王子ではなく、もちろんその隣にいるアリアさんでもなく、さらに言えば私でもない。
人々は私の隣にいるロイドを見つめていた。
「なぜおまえがルルの隣にいるのだ!おまえの主人は俺だろ!?」
「いえ、ミカエル王子。私の主人はルル・ライドン様ただ一人でございます」
壁一面に映し出されていた映像が切り替わる。そこには先ほど映っていた黒ずくめのフェルミンド帝国の使者とアリアの姿が映し出されていた。
「私は主人の命を受け、アリア様を監視しておりました。先ほどの映像はルル様の名前を騙ったアリア様が撮られた映像となっています」
ロイドの発言にまたしても会場がざわめき出す。
「私は騙されたの!!」
すると、ロイドの発言をうけてアリアが大きな声を張り上げた。
キンキンと耳をつく不快な声だわ。
「私はあのロイドという男に騙されたのよ!私みたいな一般人がフェルミンド帝国の者と接触することなんて普通出来ないでしょ!あの男が私を無理矢理連れて行って、脅して情報を言わせたのよ!私はせめてもの抵抗に嘘の情報をいうことぐらいしか出来なかったわ!皆、音声を聞いて!本当のことなんて言ってないわ!私の発言の証拠にロイドはフェルミンド帝国から金を受け取っているわ!あの男こそ国家反逆罪で捕まるべきだわ!!」
三度会場中がざわめく。人々が会場のいたる所で言い争いを始め、中にはロイドを非難する声も聞こえてくる。
本当に口達者な女だ。これまで一体何人の人々を騙してきたのだろう。ここまでくると光魔法を使えるという話ですら嘘に感じてしまう。いや、本当に嘘かも知れないわね……
でも無駄よ。
ここまで全て、私の予定通りなのだから。
「黙れ!!」
会場に本日一番大きな声が響き渡る。その声量のおかげか、はたまた声を発した人の影響か、先ほどまで言い争いで混沌と化していた会場は、痛いぐらいの沈黙に打って変わった。
声を出したのは私でもロイドでも、ましてやミカエル王子でもない。
第二王子、ルイス・シュバルツ様だった。
「ロイドが金を受け取っているなどありえないと私が証言しよう」
「で、でもルイス様」
「黙れと言ったのが聞こえなかったのか、アリア嬢」
アリアは罰が悪そうに押し黙る。ミカエル第一王子も何が何だか分からない様子でオロオロするだけだった。
「会場の皆に言っておく。今回の事で我が国の情報が例え嘘でも漏れたりした事実は一切無い!なぜなら……」
ルイス第二王子は一呼吸開ける。そう、ルイス王子は私が用意した二人目の証言者。
「映像に映っている黒ずくめのフェルミンド帝国の使者と名乗っている者は、この私ルイス・シュバルツなのだから!!」
「改めて、昨日の事は良かったのですか?」
「急にどうしたのよ、ロイド?」
「いえ、ルル様はミカエル王子と離れたくないとは思わなかったのかなと」
「変なこと気にするのね。私、別にミカエル王子のこと好きじゃないわよ」
好きな人はずっと前から一人。政略結婚をしなくちゃいけない私には叶わぬ恋だけどね。
「……そうですか。しかし上手くいきましたね。ライドン公爵様より『私は第一王子派閥を抜け第二王子派閥へ入りたい。そのためミカエル王子から婚約破棄を言い渡してもらえ』との命を受けたときはさすがに無理だと思いましたよ」
「父様ってたまに本当に無茶を言うわよね……まあでも結果的に『犯罪者と婚約をした見る目のない王子』として第一王子の評判を落とした上で婚約破棄されるという大業を成し遂げたのだから、もうちょっと喜びましょう?」
「それもそうですね」
そう言ってロイドは優しく微笑んだ。
とても眩しい、太陽のような笑顔だった。
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改めまして、最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。




