9.これが俺の戦い方
「みんな、俺たちでも勝てるぞ!!」
俺は仲間たちを鼓舞するように言った。
俺たちは誰一人としてミノタウロスが持つ鉄壁の防御を破る方法を持っていない。
つまりあらゆる攻撃が通らない。
確かにこの状況は絶望的だ。
けれど勝機はある。俺はデータからそれを確信していた。
そして、その勝機を手繰り寄せるため、俺はステータス画面を開く。そして溜まっていたスキルポイントを割り振って新しい技に割り振った。
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スキルポイント1を≪アイスアロー≫に割り振りました。
◇保有SP:0
◇保有スキル一覧
技能分析Lv3
ライフバリアLv1
剣士の誇りLv1
マジックアローLv1
狩人の捌きLv1
ダブルスラントLv1
アイスアローLv1 ← New!
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≪アイスアロー≫は弓術系統の基本攻撃の1つで、実にありふれたスキルだ。
けれど、いまこの状況では極めて有効に使える。
俺は弓を引き、ミノタウロス目掛けて――――否。
「≪アイスアロー≫!」
俺が放った青色の矢はミノタウロスの足元で弾け、氷の花を咲かせる。
「グァッ!?」
氷がミノタウロスの足を固定し、身動きが取れないようにする。
「やっぱりだ。ダメージは与えられないけど、足止めはできる!」
俺は自分の予想が当たっていたことに安堵する。
「で、でも、ダメージを与えられないと意味ないだろ!? あいつを倒さないと、この部屋からは逃げられないんだぞ!?」
ジェイドの言う通りだ。
だが、
「今はとにかく時間を稼ぐ! 時間さえ稼げれば、勝てる!」
俺はそう言って、仲間を鼓舞する。
その言葉を聞いて、ジェイドと教官が顔を見合わせた。俺の「勝てる」という言葉が信じられないようだ。
その反応は極めて正しい。適性の儀を受けたばかりの素人冒険者の意見など鵜呑みにはできないだろう。その気持ちはよくわかる。
けれど、そんな中一人だけ勢いよく頷いたのがリンディだった。
「アタシはアニキを信じるっす!!」
リンディはそう言うと、俺の隣に立ち、再び剣を構えた。
彼女の姿を見て、教官とジェイドもそれに続いた。
「と、とにかくやるしかない!」
「ああ、やってやろう!!」
四人が再び剣を構え、ミノタウロスに対峙する。
「全員散らばって、敵の攻撃を受けないようにしてくれ! MPを温存するんだ!」
俺は3人にそう指示を飛ばした。
そうこうしているうちに、ミノタウロスは足元の氷めがけて斧を突き刺す。氷が砕け、その巨体が自由になった。
「グァアアアア!!」
咆哮と共に再び俺の方へ向かってくるミノタウロス。
俺はその巨体を極限まで自分に引きつけた後、その足元にもう一度アイスアローを打ち込む。
再び、氷がその足を止める。それ見て、俺はミノタウロスと距離を置いた。
とにかくヒットアンドアウェイで時間を稼ぐ。
「≪アイスボール≫!」
魔法使いであるジェイドも、俺に倣って氷魔法を使って足止めに加わってくれる。
ここからはいたちごっこだ。
氷で足を止める。ミノタウロスの斧がそれを砕く。また氷で足を止める。
それを繰り返して、ただひたすら時間を稼ぐ。
俺はミノタウロスのすべてのスキルを確認している。
確かに、やつの持つ防御スキル≪エクストラバリア≫は、絶望的なまでに強力だ。
だけど、それ以外のスキルは極めて平凡なものだった。
そこからはわかることは、目の前のミノタウロスが防御特化タイプだということ。
つまり、防御力がすごいだけで、他のステータスは大したことない!
その推論が正しければ、確実に勝機はある。
だが……
「くそ、まだか?」
時間稼ぎにも限界がある。
パーティの魔力とミノタウロスの魔力。
どちらが先に無くなるか――
「グルッ!?」
と。ミノタウロスが突然立ち止まる。困惑あるいは焦り。そんな表情を浮かべたように見えた。
俺はそれで確信する。
「いまだッ!! 今なら攻撃が通る!!」
俺のその言葉に、パーティの面々は半信半疑。
だが、俺は自らの言葉を証明するべく、地面を蹴り上げた。
「ダブルスラント!!」
温存していた切り札を、ミノタウロスに浴びせる。すると、それまでとはまったく違う反応が帰ってくる。
「グアァアアアアッ!?」
その日、初めてミノタウロスの悲鳴がダンジョンにこだました。
相手の“ライフポイント”を見ることができたら、その値は確実に減っているだろう。
これまでミノタウロスを守っていた鉄壁の防御は消え去ったのだ。
それを見て、今が勝機だと理解した教官たちも加勢する。
「≪インビジブルストライク≫」
「≪ファイヤーボール≫」
「≪魔斬剣≫」
各々が持っている最大火力の攻撃を叩き込む。
防御スキルを失ったミノタウロスは、もはやその攻撃に抵抗する術がない。なすすべなく攻撃を受ける。
集中砲火を受け、一歩、二歩と後ずさりする。
そこに俺は渾身の力で再度の攻撃を繰り出す。
「≪ダブルスラント≫!!」
その一撃がとどめになった。
「グァアアアアアアアア!!!!」
ミノタウロスはひと際大きな悲鳴を上げ、そのまま膝から崩れ落ちた。巨体が地面に倒れダンジョンを揺らす。
「ほ、ほんとにボスを倒しちまったぞ」
ジェイドが呟く。
「アニキ! 流石っす!!」
リンディは剣を高々と掲げてはしゃいだ。
だが、俺はしばらく警戒を解くことなくミノタウロスの方をにらみ続けた。
もしかしてまだ動き出すのではないかと。
だが、それは完全に杞憂だった。
次の瞬間、脳裏に女神の声が鳴り響く。
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レベルアップしました。
Lv2 ⇒ Lv5
SPを3獲得しました。
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「……勝ったんだ」
女神の声に、俺はようやく勝利を実感するのであった。
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