7.チュートリアルクエスト
リンディとの決闘の後、ギルドの待合室でチュートリアルの開始を待っていると、俺たちの前に屈強そうな冒険者が現れた。
「今日のチュートリアルの指導を務めるアンガスだ」
アンガスはまるで筋肉を見せつけるように腕を組んで俺たちの前に立つ。
「チュートリアルの間は俺がパーティリーダーだ。ダンジョンでは必ず俺の指示に従うこと。いいな」
それが唯一の注意点らしい。
「それでは行くぞ」
チュートリアルの参加者3人――俺とリンディ、他にジェイドという男の冒険者――は、アンガスに先導されてギルドを出て、ダンジョンへと向かうのであった。
†
チュートリアルが行われるのは、攻略済のEランクダンジョンであった。
既にボスモンスターは倒され、配下だったモンスターだけが残された迷宮は、新人の教育にはもってこいだろう。
俺たちは教官のアンガスを先頭に迷宮を進んでいく。
モンスターと遭遇したら、アンガスの指示の元に戦うことになっていた。
「モンスターが来るぞ!」
アンガスが言うと、次の瞬間迷宮の曲がり角からモンスターが出現した。
現れたのはトロールであった。
それなりに強力な中堅モンスターである。レベル1の初心者にとって、かなりの強敵と言える。
「Eランクダンジョンの入り口にトロールが出るとは、珍しいな」
教官は少し驚いた風に言った。
確かに、トロールはこういった低級ダンジョンであれば、中層以上のフロアにいることが多いモンスターである。それがこんな低層にいるのは珍しい。
とはいえ、異常事態というほどでもない。
むしろ俺が力を見せつけるには絶好の機会だ。
「それじゃリンディ、まずはお前が戦ってみろ」
教官の指示に従って、リンディがトロールに向かって斬りかかっていく。
「ハァァッ!」
彼女が斬りかかると、トロールはこん棒で迎撃した。
完璧に勢いを殺されたリンディは、少しの押引きの後、後ろに飛びのく。そして確実にダメージを与えるために、スキルでの攻撃に切り替える判断をした。
「≪魔斬剣≫!」
魔力が斬撃となってトロールに降りかかる。波状の魔力攻撃はこん棒では防ぎきれない。リンディの攻撃は確実にトロールののまとう粗末な鎧を貫き、ダメージを与えた。
「よし、いいぞ。今度はジェイド、お前がやれ」
アンガスは別の参加者に追撃を命じる。ジェイドは魔法使いであったので、火魔法で遠距離攻撃を試みる。
「≪ファイヤーボール≫!」
魔法攻撃は確実にトロールにダメージを与える。
「その調子だ」
教官は2人を褒める。しかしトロールは一向に倒れる気配がない。レベル1が繰り出す初級レベルの魔法攻撃では、決定打になりえないのだ。
そしてついにトロールが反撃してくる。
「グァア!!」
咆哮と共に、勢いよく掛け、前線に出ていたリンディ目掛けてこん棒を叩きつける。
剣で受け止めようとしたリンディであったが、競り負けてそのままダンジョンの壁にたたきつけられた。
「クッ!」
結界スキル≪ライフバリア≫のおかげでダメージは最小限で済んだが、次の攻撃は耐えられないだろう。
トロールはリンディの後ろにいたジェイドに向かって駆け出す。
「ふぁ、≪ファイヤーボール≫!!」
ジェイドは魔法攻撃で迎撃しようとするが、トロールの勢いは止まらなかった。トロールの放った横なぎのこん棒によってジェイドも背後に吹き飛ばされた。
「今度はハルトが戦ってみろ」
ようやく教官に指名された俺は、迷うことなく両方の剣を抜いてそのまま駆け出した。
「グァアアッ!」
向かってくる俺を見たトロールは、こん棒を振り上げ迎撃態勢を整える。
だが、その動きはハルトにはひどく愚鈍に感じられた。
こん棒が振り下ろされる前に間合いに入り、
「≪ダブルスラント≫!!」
俺の二刀流がトロールの首を左右から切り裂く。
硬い骨も難なく断ち斬った。
間違いなく即死だ。
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レベルアップしました。
Lv1 ⇒ Lv2
SPを1獲得しました。
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脳内に女神の声が響く。中堅モンスターを一人で倒したため、一気に経験値を得られたらしい。
「トロールを一撃で倒した……?」
「兄貴、さすがっす!!」
ジェイドとリンディが口々に称賛を口にした。
「……トロールを一撃で倒すとは、やるではないか。とてもレベル1の冒険者とは思えんな」
教官も感心した様子を見せる。
……活躍の機会がないまま終わったらどうしようと心配していたが、このままいけばちゃんと飛び級でEランクライセンスを得られそうだなと安堵した。
†
それからパーティは二時間ほどダンジョンを進み、とうとうボスの間まで到達した。
ボスの間といっても、このダンジョンは攻略済なので中はもぬけの殻だ。入口の反対側には、ダンジョンの外へに戻るためのワープポイントがあるなので、そのままそこから外に出られるはずだ。
「よし、チュートリアルはここまでだな。上に帰ろう」
指導教官はパーティに向かってそう宣言した後、ワープポイントに向かって歩き出した。
だが、次の瞬間だった。
バタン!
入口の扉が勢いよく閉まる。
「えっ?」
「と、閉じこめられた!?」
一行は突然の出来事に唖然とする。
そして僅かな沈黙の後、広場の外周に青い炎が灯る。
その光で広場がもぬけの殻ではなかったのだということが判明する。
奥に見えたのは、
「み、ミノタウロス!?」
人間の数倍はあろうという巨体が放つ圧倒的な威圧感。
赤い瞳と、手に持った斧が鈍く光る。
「こ、攻略済じゃなかったのか!?」
ジェイドが思わずそう叫んだ。
このチュートリアルクエストは、あくまで新人冒険者の実力を図るためのものだ。安全を確保するため、既にボスが倒されている比較的安全なダンジョンが選ばれているばすだった。だからこそ、一行はなんの躊躇もなくボスの間に入ったのだ。
けれど現実には、そこには強力なボスモンスターが待ち構えていた。
しかもだ。
「扉!! 開かない!!」
ジェイドがボスの間の入り口の扉を何度も引っ張るが、まるでビクともしない動かない。
――初心者冒険者で構成された即席パーティが、ボスの間に閉じこめられてしまったのだ。
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