5.ギルドへ
スキルポイントの割り振りを終えた俺は、そのまま宿の自室を出た。
この3日間、1日の睡眠時間は1,2時間ほどであったが、意外と疲れは感じていなかった。サラリーマン時代からハードワークにはなれていたし、何と言っても身体が若いのが大きいだろう。
この身体なら無限に働けるな。
18歳の若い体に感謝すると共に、改めて自分がワーカーホリックだったんだなと実感する。
ゲームにせよ、仕事にせよ、一度ハマったら睡眠を削ってでものめりこんでしまうのが、いい意味でも悪い意味でも俺の癖だった。
すると、宿の入り口で女将さんが呆れ顔で声をかけてきた。
「あら、ようやく出てきた。加護の儀の後に宿に引きこもってた人間はあんたが初めてだよ」
「そうなんですか」
「そりゃそうさ。普通はすぐにスキルを試したくなって、モンスターを倒しに森に入るもんさ」
スキルポイントは一度割り振ったら後戻りできない。俺からすれば、なんの考えなしに適当なスキルにポイントを割り振ってからいきなりモンスターを狩りに行くなんて、途方もなく愚かな行為に思えた。
「ところで、武器屋はどっちか教えてくれますか?」
俺は女将に場所を聞いて、そのまま武器屋に向かった。
鍛冶屋に入るなり、有り金を伝え、その予算内で買える弓矢と二本目の剣を注文する。
「おいおい、そんなに武器を持って何する気だ?」
店主にはけげんな顔で聞かれる。
弓術系統のスキルがが外れクラス扱いされていることもあり、俺の武器の買い方に疑問を持たれたようだ。
それだけ弓術と剣術にスキルポイントを割り振る人間が少ないということである。
「当然、戦闘で使いますよ」
俺は適当に返事をして、支払いを済ませる。武器を受け取るなり店を出て、その足でギルドへと向かった。
「冒険者登録をしたいんですが」
受付のお姉さんにそう伝えると丁寧に受付をしてくれる。
「それではこちらの用紙に記入をお願いします」
俺は手早く記入を済ませる。転生してから初めて文字を書くが、ハルト・スプリングスティーンとして記憶のおかげで、この世界の言葉もスラスラと読み書きできる。
「これでお願いします」
「ご記入ありがとうございます」
お姉さんは用紙にざっと目を通す。
「ハルト・スプリングスティーンさんですね」
そしてお姉さんが俺の名前を口にすると、にわかにギルドの中がザワつく。
「おいおい聞いたか?」
「あいつ、スプリングスティーン家の跡取りだ」
「跡継ぎだっただろ? 外れクラス引いて追放されたんだからな」
「ウケるよな」
「今年は外れクラスのボンボンが多いな。王女も外れクラスなんだろ」
「王女のはあくまでウワサだろ。でもあいつは間違いなく外れクラスだ」
俺は自分が周囲の人間に認識されていることに驚いた。いずれ噂になってもおかしくはないと思っていたが、まさかこんなに早く話が広まってるとは思わなかった。
さらに、冒険者たちは俺の恰好を見てあざけ笑う。
「しかも見ろよ、カッコつけて剣を2本もってやがる」
「おいおい、上級剣士気取りかよ」
「痛すぎるぜ」
確かに≪二刀流≫は一般的には上級スキルとして認識されている。適性の儀を受けたばかりの人間が剣を2本も持っていたら、コスプレ扱いされるのもムリはない。
と、受付のお姉さんは柄の悪い冒険者たちのやじをリセットするように一つ大きな咳払いをしてから説明をし始めた。
「それでは、まずチュートリアルクエストに参加してもらいます」
「それで冒険者ランクが決まるんですよね」
「その通りです。通常はFランクからスタートですが、実力が認められればいきなりEランクからの飛び級スタートもありえます」
俺は1年以内にAランクにまで昇級するという目標を立てていた。
しかし昇級試験は年に1回しか受けられない。つまり、通常は年に1ランクずつしか昇級できないのである。
なので1年以内にAランクになるには数回の≪特別昇級≫を狙う必要がある。今回のチュートリアルはそのまたとない機会だ。
「チュートリアルにはギルド所属の教官が付き添います。30分後に出発しますので、準備しておいてください」
「わかりました」
説明を聞き終えた俺は、一息ついて踵を返した。
すると、脇で人が勢いよく立ち上がる音がした。
「おいおい、外れスキルのポンコツと一緒にチュートリアル受けなきゃいけないのかよ!」
そんなわざとらしい声が聞こえてきた。右側に視線をやると、声の主と思われる赤髪の少女が立っていた。
勝気そうな目。両耳にはやたらとギラギラしたピアス。
そこから少し視線を下げると、そこにはクッキリとした谷間が、さらに下を見れば短いスカートの先に太ももが露わになっている。やたらと露出された肌にはいくつもの刺青がある。
なかなかに分かりやすい不良少女という感じであった。
前世では関わることがなかった人種だ。だが、この世界ではそうもいかないらしい。
「もしかして俺に話しかけてるか?」
「お前以外に、外れスキルを授かって実家を追放されたアホがいるか?」
完全に煽られていた。
「お前の足を引っ張ることはしないから安心しろ」
俺が低い声でそう言うと、少女は青筋を立てた。
「パーティメンバーに雑魚がいたら、こっちの身が持たねぇな。チュートリアルに参加するっていうなら、お前が足手まといじゃねぇって証明しろよ」
俺はバカを相手をすることはないと心の中で思う。だが一方で、このままだと一生絡まれ続けそうというのも、簡単に予想できた。
俺は、状況を確認するため、無言で≪技能分析≫を発動する。
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???・???
◇スキル一覧
ライフバリアLv2
消費MP:なし(称号スキル)
説明 :攻撃を無効化するバリアを身にまとう。
剣士の誇りLv1
消費MP:なし(称号スキル)
説明 :剣技の熟練度+10。
魔斬剣Lv2
消費MP:5
攻撃力:10
説明 :魔力を剣に込めて斬りつける。斬撃を飛ばすことも可能。
習得条件:剣技熟練度20 かつ 最大MPが25。
ファイヤーボールLv2
消費MP:5
攻撃力:5
説明 :火球を飛ばして攻撃する。
習得条件:なし
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スキルを見ると、剣技と魔法の両方を覚えている。
クラスは≪魔法剣士≫あたりだろうと予測できた。
だとすれば、この世界では≪魔法剣士≫タイプは割と上位のクラスとみなされているので、彼女が調子に乗るのも理解できる。
だが、実際のところスキルを分析してみれば覚えている技は極めて平凡。
データから考えれば、俺が負ける理由はないな。
そう判断した俺は、相手の挑発に乗ることにした。
「いいよ。戦ってみよう」