4.上級スキル≪二刀流≫
俺はスキルの情報を集めるため、冒険者ギルドへと向かった。
建物がある通りにたどり着くと、ギルドの中には入らず向かい側の宿の二階に部屋を借りて、窓際に腰を下ろした。
そして窓からギルドの入口を眺め、出入りする人々に対して≪技能分析≫を使っていく。
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◇スキル一覧
【剣技系統】
...
魔斬剣Lv4
消費MP:5
攻撃力 :40
説明 :魔力を剣に込めて斬りつける。斬撃を飛ばすことも可能。
習得条件:剣技熟練度20 かつ 最大MPが25。
インビジブルストライクLv2
消費MP:20
攻撃力:40
説明 :上級突撃攻撃。
習得条件:剣技熟練度50 かつ 素早さ50。
...
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こんな感じで、冒険者が持っているスキルの効果と習得条件を確認していく。
ちなみに一度確認したデータはちゃんと履歴が残るので、暗記する必要はない。なので目につく冒険者に対して片っ端から≪技能分析≫をかけて、どんどんデータを蓄積していく。
さすがに王都ということもあり、いろいろなクラス、スキルを持った人間が集まっていて、二時間ほどで世に知られているスキルの情報はあらかた収集することができた。
「よし、これくらい集まれば十分だな……」
十分なデータは揃ったと判断したハルトは、宿のベッドに腰かけ、溜まったデータを一つずつ丁寧に確認していく。
強力なのに、実は手軽に覚えられるスキルはないか。
あるいはシナジーを発揮するようなスキルの組み合わせはないか。
得たデータから、≪最速≫で≪最強≫になる方法を探し出すのだ。
†
それからハルトは丸三日かけて自分が覚えるべきスキルを検討した。
スキルの説明を読み込み、様々なパターンをシミュレーションし、「最速」で「最強」になる“スキルハック”を導き出す。
そして導き出した答えは――
「防御は捨てて、攻撃に全振りする!」
目指すは、超攻撃型のスタイルだ。
通常の冒険者は、身を守る結界魔法≪ライフバリア≫にある程度のスキルポイントを注ぐ。
この≪ライフバリア≫の残量が、いわゆる普通のゲームで言うところのHP――この世界では一般的にバリアポイントと呼んでいる――になる。
バリアポイントがあるうちは魔物から攻撃を受けても無傷でいられる。魔物との戦闘を生業にするものにとって、ライブバリアは生死を分ける安全装置なのだ。
ゆえに俺が≪技能分析≫でスキルを確認した冒険者たちは、皆一様に≪ライフバリア≫にポイントを注ぎ込んでいた。
具体的には、適性の儀を受けたばかりの人間でも3ポイント。中堅どころであれば6ポイント以上、上位となるとそれ以上、というイメージだ。
だが、俺はあえてこの防御の部分には最低限のポイントしか使わないことに決めた。
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スキルポイント1を≪ライフバリア≫割り振りました。
◇保有SP:4
◇保有スキル一覧
技能分析Lv3
ライフバリアLv1← New!
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レベル1の≪ライフバリア≫では、一回軽い攻撃を受けただけで守りが失われてしまう。だが逆に言えば、一回までは攻撃をしのげるということだ。
命綱は1本で十分だ。
代わりに、残りのスキルを攻撃スキルに割り振ることにした。そうすることで非戦闘系クラス故の平凡なステータスを補うのだ。
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スキルポイント1を≪剣士の誇り≫割り振りました。
スキルポイント1を≪マジックアロー≫割り振りました。
スキルポイント1を≪狩人の捌き≫割り振りました。
◇保有SP:1
◇保有スキル一覧
技能分析Lv3ライフバリアLv1
剣士の誇りLv1 ← New!
マジックアローLv1 ← New!
狩人の捌きLv1 ← New!
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俺は残っていたポイントを≪剣技≫と≪弓術≫スキルに振り分けた。
≪剣技≫はともかく、≪弓術≫にポイントを振り分ける人間は珍しいだろう。
≪弓術≫はいかんせん器用貧乏なきらいがある。手数では≪剣技≫に劣るし、遠距離での攻撃力では≪魔法≫に劣る。
弓をメインで扱う≪狩人≫クラスになってしまったのなら別だが、それ以外の冒険者で≪弓術≫にポイントを割り振る者は皆無であった。
だが、俺には明確な意図があった。
≪剣術≫と≪弓術≫にポイントを振るのは、データを分析して見つけた抜け道なのだ。
――そして想定通り、スキルポイントを割り振った次の瞬間、女神の声がそれを告げる。
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二刀流スキル≪ダブルスラント≫の習得条件を満たしました。
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ステータス画面に期待通りの結果が表示される。
「来たぞ上級スキル!!」
≪二刀流≫のスキルは、世にいう「上級スキル」であった。
強力なスキルではあるが、取得難易度が高い。適性の儀で≪双剣士≫というレアなクラスになるか、もしくは≪剣技系統≫のスキルレベルを上げていった先にようやく習得できるスキル系統、と言われている。
しかし、俺はその「上級スキル」をレベル1のうちに習得することができるのだ。
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◇習得可能スキル(要求SP)
ダブルスラント(1)
消費MP:10
攻撃力 :40
説明 :二振りの剣で連続攻撃する。
習得条件:器用さ10、剣技10
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その習得条件が肝であった。
二刀流のスキルを覚えるには、器用さと剣技の両方のステータスを伸ばす必要がある。
だが剣技スキルを中心にスキルポイントを割り当てていると、器用さのステータスが二刀流の習得に必要な数値に達するのはかなり高レベル帯に入ってからになってしまう。それゆえに「上級スキル」と呼ばれていたのだ。
だが、器用さのステータスを上げること自体は難しくない。≪弓術≫のように狩人系統のスキルを覚えることで簡単に強化できる。
つまり、習得条件さえ知っていれば、二刀流は誰でも簡単に習得できるスキルなのだ。
これはまさにデータを分析しないと分からないハックだろう。
俺はさっそくスキルポイントを使って、二刀流の初期スキルを習得する。
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スキルポイント1を≪ダブルスラント≫に割り振りました。
◇保有SP:0
◇保有スキル一覧
技能分析Lv3
ライフバリアLv1
剣士の誇りLv1
マジックアローLv1
狩人の捌きLv1
ダブルスラントLv1 ← New!
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俺は三日三晩考えた末に、初期のスキルポイントを全て使い切って、最強
「レベル1の時点で、上級スキルを習得できたのは大きいな……」
ダブルスラントは、下級のモンスターであれば簡単に屠れるほど強力なスキルだ。≪分析者≫の平凡なステータスを補って余りある。低レベルのうちはこのスキル1つで無双できるだろう。
「よし、さっそくダンジョンでレベルを上げるぞ……!」
この三日間睡眠時間を削って検討し続けたので、寝不足なのは間違いなかったが、今は自分の力を試したいというワクワク感が勝っている。
18歳の若い身体は、いくらでも「残業」を許してくれるのだ。