23.ユニークスキル持ちを追放する愚かなパーティ
翌日、俺は朝一でギルドへと向かった。
「遅くなりましたが、こちらがCランクのライセンスカードになります」
受付のお姉さんに金色のカードを手渡される。
Dランクまでは紙の証明書しか与えられないが、Cランク以上になると物理的なカードが支給される。これはCランクになると一角の冒険者であると認められることを象徴している。
「ありがとうございます」
そう言ってカードを受け取る。金属のライセンスカードは確かな重みが感じられて、所有欲を満たされる逸品だった。
「たった一か月で、まさかCランクまで来るなんて。本当に信じられないです」
お姉さんは一点の曇りもない澄み切ったまなざしでそう言ってくれる。美女にそう言われて、さすがに悪い気はしなかった。
ただし。
「1年以内にAランクになる」という目標を掲げた以上、ここまでは順調で当然で、むしろここから先が真にいばらの道なのである。
というのも、昇級試験は年に1度しか受けられないので、俺が1年以内にAランク冒険者になるためには、超高難度の“特別昇級”をする必要があるのだ。
特別昇級とは、その名の通り昇級試験で合格する以外での昇級方法で、具体的にはギルドが認定した高難易度クエスト、いわゆる“特級クエスト”をクリアする、というのが一番ポピュラーな条件だ。
特級クエストというくらいなので難易度は超ハード。一般的にAランクの冒険者でも苦労するレベルと言われている。当然俺にとっても簡単ではない。
「あの、早く次の昇級もしたいので、特級クエストが発生したらすぐ教えてくださいね」
俺は機会を逃さないため、お姉さんに念押しをしておく。
「ええ、特級クエストですね。ハルトさんにはちゃんとお伝えします」
と、お姉さんは言ってから、「ただ……」と少し言いにくそうに付け加える。
「さすがに特級クエストにソロで挑ませるわけにはいかないので、その時はパーティメンバを見つけてくださいね」
「うっ……パーティメンバーですか……」
痛いところを突かれる。
実は俺も早くパーティを組んだ方がよいとは思っていた。
しかしソロ攻略の気楽さが勝ってしまい、パーティメンバーを探すのは後回しになっていた。
しかもCランクともなると、同レベル帯でソロ活動しているプレーヤーが少ないので、自分と同じくらいの実力を持った人間と組むためには、必然敵に既にあるコミュニティに後から入る必要があるので、気が重い。
あるいは自分より実力のないものを一から育てるか……いや、それも気が重い。
できれば、実力はあるが、なぜか今はたまたまソロという人を探すのが理想だが……それは流石に都合がよすぎるか。
場合によっては、仲間を見つけるより自分が二倍強くなるほうが早いかもしれないな。
「頑張ります……」
俺は小さい声で返事を返すのだった。
†
Cランクライセンスを得たことで、とうとうBランクダンジョンまで潜ることが許されるようになったので、俺はさっそく魔物狩りに繰り出した。
出てくるモンスターたちは強敵ぞろいだが、今の俺には強敵を効率よく倒す戦略がある。
初手で≪アイスアロー・レイン≫を使って相手の全身にダメージを与え、よくダメージが通る弱点をあぶりだし、その後そこに攻撃を集中させる。この戦略で、やみくもに攻撃する場合に比べて、二倍程度の速さで相手のBPを削り取っていく。
強敵もサクサク倒すことで、あっという間に大量の経験値を稼ぐ。
結果、つい三日前にレベルアップしたばかりにも関わらず、今日一日でさらにレベルアップを果たした。この調子でいけば、レベル25くらいまではスイスイいけそうな気がする。
日が暮れるまでダンジョンでモンスターを狩り続けた後、ギルドに戻って報酬を受け取る。かなりのお金ももらえて、ホクホク顔が隠せない。
「たまにはいいものでも食べるか」
俺は報酬を握りしめ、ギルドの横にある有名な酒場に入ることにした。
ギルド脇にあるだけあって、中は冒険者たちでにぎわっていた。
俺は隅っこにある二人掛けの席につく。料理を注文して待っている間、店内で飛び交う話し声にぼんやりと耳を傾ける。
冒険者たちは、モンスターと戦う緊張感から解放されて、皆一様に騒ぎ立てていた。さながら、“華金”とでもいうような雰囲気だ。サラリーマン時代の飲み会を思い出す。
だが、そんな明るい空気感の中、ある一声が急に耳に入ってくる。
「エリーゼ。おめぇ、足手まといなんだよなぁ」
明らかに不穏な声に、俺は思わず視線を向ける。
その声を発したのは、スキンヘッドの男だった。薄着の下は厚い筋肉。太い上腕二頭筋にはなにやらデカイ文字のタトゥーが刻まされている。いかにも脳筋男で、申し訳ないが賢そうには見えない。
そんな男の視線の先にいるのはエリーゼと呼ばれた少女。美しい金髪に澄んだ青い瞳が特徴的な少女。だがその顔は俯いて、机の上をじっと見つめている。今にも泣きだしそうだ。
と、スキンヘッドの男の隣に座っていた、これまた品のなさそうな女が同調する。
「ゴイルの言うとおりよ。あんたのフォローはもううんざりなの」
どうやらスキンヘッドの男はゴイルと言うらしい。
ゴイルはさらに責め立てる。
「レアスキルがあるっていうからパーティに入れてやったのによ。大した攻撃力もねぇし、全然役に立たねぇじゃねぇか」
どうやらこのゴイルと言う男は、少女が能力的に劣っていると思っているらしい。
俺は、逆に、これだけ偉そうにしている人間が、どれほどの力を持っているのか気になって、データ分析をかけて確認してみた。
------------------------------
ゴイル
◇ステータス
レベル:20
クラス:剣士
バリアポイント:151/200
マジックポイント:60/110
経験値:1,200/5,722,000
◇保有SP:0
◇保有スキル
スラント Lv2
剣士の誇りLv 3
ライフバリアLv 4
------------------------------
……なんだこりゃ。
レベルは20でそれなりに高い。
だが、スキルの割り振りが下手すぎる。最大の問題は≪ライフバリア≫にスキルポイントを振りすぎていることだ。
ゴイルの≪ライフバリア≫はLv4。俺みたいにレベルLv1のままにしておけという気はないが、Lv4はいくらなんでもやりすぎだ。
確かに≪ライフバリア≫はいざというときに身を守ってくれる、いわば「保険」のようなスキルだ。だがこのゴイルという男は、ビビリが行き過ぎて、生活費の半分を保険に費やしている状態だった。
レベル20ということは、これまで29スキルポイント手にしたはずだが、なんとその半分以上を≪ライフバリア≫に注ぎ込んでいる。
その分、剣士固有の攻撃スキルにスキルポイントを振れていないので、完全に火力不足に陥っているのだ。
こんなステータスで、よく人のことをバカにできたものだ。
こうなると、パーティの足を引っ張っているのは少女ではなく、このゴイルという男の可能性が高い。
俺はそれを確かめるため、少女、エリーゼのステータスも確認する。
------------------------------
エリーゼ
◇ステータス
レベル:11
クラス:盗賊
バリアポイント:100
マジックポイント:10/110
経験値:90/23,000
◇保有SP:0
◇保有スキル
技能強奪Lv 2
剣士の誇りLv 3
杖の誓いLv 2
ライフバリアLv 2
------------------------------
その保有スキルを見た瞬間、衝撃が走った。
――とんでもないレアスキル!!
俺はこの世界に転生してからというもの、冒険者を見かけるたびに≪技能分析≫を使って様々なスキルの情報を収集してきた。そして最初の二週間が経過するころには、もう新たなスキルに出会うこともなくなっておた。この世に存在するスキルはほとんど収集してしまったのだ。
だが、エリーゼが持つスキルは初めて見るスキルだった。
------------------------------
技能強奪
消費MP:1
効果 :5分間、触れた人間の持つスキルを1つ奪う。
(同時に保持できるスキルは3つまで)
------------------------------
とんでもなくユニークで強力なスキルだ。
少し考えただけでも、活用方法がポンポン浮かんでくる。
そして同時に。
こんなレアスキルの持ち主に罵声を浴びせている目の前の男は、いったい何を考えているんだろう? 頭悪すぎないか?
と、そんなことを考えていると、ゴイルがエリーゼにに対して決定的な言葉を放った。
「ハッキリ言うぜ。エリーゼ。俺たちのパーティにはふさわしくない。明日から来なくていいから」
マジかよ。
どう考えても有能な人間を追放?
クレイジーすぎる。
さすがにありえんだろ。
そう思ったが、一瞬後、そういえば自分も実家を追放されたのだったと思い出す。
――忘れがちだが、世の中には、意外と愚かな人間がいるもんだ。
「っ!!」
そこまで黙って罵声を浴びていたエリーゼの目に、とうとう涙があふれてくる。
そんな光景を見て俺は思った。
え、俺に都合のいいことってある??
そして次の瞬間、俺は思わず立ち上がって少女の元に駆け寄って言葉を発していた。
「そんなら、俺と組まないか?」
面白い! 続きが気になる!
と思っていただけた方は、何卒≪評価≫と≪ブックマーク≫をお願いします。
評価はこのページの下(広告の下)にある「☆☆☆☆☆」の箇所を押していただければ行えます。
今後の更新のモチベーションにもなりますので、どうぞよろしくお願いします。




