20.報い
不合格を告げられてから三日後。
俺はギルドに呼び出され、受付の奥にある個室に通された。
受付のお姉さんとともに部屋に入ると、中にはサイラス、そしてクラッブの姿があった。
見るとサイラスはどこか気まずそうな顔を、クラッブは機嫌の悪そうな顔をしていた。
「早速ですが、クラッブ試験官。なにか先に言っておきたいことはないですか?」
と、お姉さんがクラッブに対して厳しい視線を向けて言った。
その瞬間、少なくともお姉さんは俺の味方なのだと確信する。
だが、クラッブは不機嫌そうに返した。
「言いたいこと? そんなものはないが」
クラッブも自分が疑われていることはわかっているのだろう。
明らかに威圧的な空気を出して、自分に非などないと態度で主張している。
それに対して、お姉さんは鋭い視線とともに尋ねる。
「クラッブ試験官とサイラスさんの二人が中心になってグリムドールを倒した、という報告書の内容に間違いはないと?」
「あたりまえだろう。だからこそサイラスのBランクへの特別昇級を提案したのだ」
それを聞いてクラッブが口封じをしたのだと直感した。
通常、Bランクへ特別昇級はめったに行われない。だからそれをエサにして、試験中の出来事を黙っているようにいったのだろう。
そして、もしそうだとすると俺は窮地に立たされる。ダンジョンと言う密室での出来事について、多数決を取られたら反論する術がない。
「サイラスさん、今のお話は本当ですか?」
お姉さんがサイラスに目をやる。
すると、サイラスは一つ息をついてから、まっすぐ視線をやってハッキリ言った。
「いいえ。本当はボスを倒したのはハルトでした」
「なッ!?」
サイラスの言葉にクラッブは絶句する。
サイラスはそのまま説明を続ける。
「私はクラッブ試験官から、Bランクへの昇級と引き換えに試験中の出来事について黙っていろと言われました」
サイラスはクラッブが隠ぺいを図ったことまで暴露してしまった。
クラッブからすれば完全に想定外だろう。
「おおお、お前!」
クラッブは反論しようとするが、声が震えてまともな言葉にならなかった。
「サイラスさんありがとうございます。黙っていればそのままB級に上がれたのに、ここで真実を話してくれたことに感謝します」
お姉さんがサイラスに敬意を表して、一礼した。
そして、それからキッっとした視線を向ける。
「ちなみに、過去あなたが担当した試験の受験者たちにヒアリングをしましたが、皆口を揃えて“試験官のくせに足を引っ張っていた”と証言しています。もはや弁解の余地はありません」
「ちちち、違う! そんなはずはない! 何かの間違いだ!」
「この期に及んでとぼけるおつもりですか?」
「とぼけるもなにも、俺は常に試験官としてまっとうに働いてきたんだ!」
クラッブは徹底的に否定するつもりのようだ。そうなると話は厄介だ。俺の前世と違って、この世界にはレコーダーや指紋採集等といった技術は存在しない。
決め手に欠ける面は否めないだろう。
――だが、お姉さんが一枚上手であった。
パシンと両手を合わせて、クラッブに“提案”する。
「ではそれ証明するチャンスをあげましょう」
「しょ、証明!?」
「ちょうど王都の近くに、今回試験で攻略したのと同タイプのダンジョンが発見されたんです。当然ボスもグリムドールでしょう。ちょっとばかりレベルが高いダンジョンですが優秀なクラッブさんであれば攻略は簡単でしょうね」
「そッ、それは……!」
クラッブはお姉さんの提案に言葉を詰まらせる。
彼の実力ではグリムドールを倒すどころか、ダンジョンの最初のフロアで命を落としかねない。そのことは自分でもわかっているのだろう。先ほどまでよりもさらにうろたえている。
だが、お姉さんはそんなクラッブに決定打を加える。
「善は急げです。今すぐダンジョンに向かいましょう。クラッブさんの力を証明するために!」
お姉さんが大きな声でそう言うと、突然部屋の扉が開き、巨体の男が入ってきた。その男は、がたいがいいはずのクラッブよりさらに一回り大きい肉体の持ち主で、圧倒的な威圧感を放っている。
その男が、ガシっとクラッブの腕をつかんだ。
「さぁ、いくぞ!」
と、腕をガシッと掴み、無理やり連れて行こうとする。
クラッブはそこで本能的に恐怖を感じたのだろう。突然腰を90度に曲げて言った。
「すすすす、すみませんでしたぁ!!!!」
さすがに命には代えられなかったのだろう。
お姉さんは一つ溜息をついてから淡々と告げた。
「この件については既に上層部にも報告済です。追って正式に発表されますが、冒険者ライセンスをはく奪の上、ギルドから永久追放になります」
冒険者ギルドは国の機関だ。ギルドから追放されればクエストを受注することはできなくなる。 もはやこの国で生計を立てていくことは難しいだろう。
「そして、あなたの罪はギルドの中だけにはとどまりません。ギルドに虚偽の報告をしたこと。冒険者たちを危険にさらしたこと。その罪については憲兵に判断をゆだねます」
お姉さんがピシャリと言うと、先ほど出てきた男がそのままクラッブの腕を引っ張る。そのまま憲兵隊の牢屋まで連れていくのだろう。
「ど、どうかお助けを!!!」
クラッブは情けない声を上げて抵抗するが、巨体の男は一切耳を貸さず、そのまま彼を外へと連れ出した。
「ふぅ」
お姉さんはクラッブの背中が見えなくなったところで、一仕事終えたとばかりに一つ溜息をつく。
そして俺とサイラスに向き直ってペコリと頭を下げた。
「この度はギルドの職員がご迷惑をおかけして申し訳ありません。ハルトさんにはもちろんC級ライセンスを発行させていただきます。また、お二人には相応の補償をさせていただきますので、何卒ご容赦ください」
ちゃんと試験は合格にしてもらったということで、俺は一安心。
だが、それよりも。
この受付のお姉さん、ただの可愛いらしい事務係とばかり思ってたけど、こんなトラブル対応までできるんだな……
彼女の底力に俺は感嘆してしまったのだった。
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