19.不合格
それから5分。俺たちは無心でグリムドールにスキルを放ち続けた。
そして、
「ギィッア!!」
グリムドールは短い断末魔を上げて倒れた。
MPはほとんどそこをついていた。本当にギリギリの戦いだったが、ある意味計算通り倒すことができた。
「やったぞ……!」
俺はふっと力が抜けて、思わず剣を杖のように地面に突き刺してようやく体を支えた。
「ハルト」
サイラスが近づいてきて、拳を突き出した。俺は力を振り絞って、拳を突き返す。
「ああ、よくやった」
サイラスとは先ほどまで多少のわだかまりもあったが、一緒に窮地を乗り越えた今となってはいい仲間だと思えた。
「全部ハルトのおかげだよ。ありがとう」
「まぁ、ぶっちゃけその通りだな」
俺は冗談ぽくそう返す。
転生してから――もちろん前世を含めても――これほど死を覚悟したことはなかった。そんな文字通りの死闘を勝ち抜いた、その達成感で胸がいっぱいになる。
そして、これこそが俺が本当に求めていた「人生」だったのだと気が付いた。
――と、勝利の余韻に浸っていると。
気絶していたクラッブがのろりと起き上がった。
さすがに気絶した脳筋野郎をお姫様抱っこで外に運ぶのはあまりにダルすぎるので、起きてくれたのは助かる。
「ボスは倒しましたよ、試験官」
俺は皮肉を込めてそう報告する。
すると、さすがにばつが悪いと感じたのか、クラッブは「おう……それはよかった」とためらいがちに言った。
そして、一つ咳払いをしてから、何事もなかったように言った。
「それでは、帰るとしよう」
クラッブは俺たちと視線を合わせることもなく、ボス部屋の奥にある転移クリスタルへと進んでいく。そしてそのままボス部屋から姿を消した。
「ったく、お礼の一つも言えないのかよ」
俺が悪態をつくと、サイラスは苦笑いした。
――だが俺はその後、クラッブのその態度など本当に些細な問題だったのだと思い知らされることになる。
†
「ふ、不合格!?」
試験から三日後、俺はギルドで受付のお姉さんからその事実を告げられ絶句した。
ボスの攻略方法を見つけ出し、気絶した試験官をかばいながら倒した俺が、まさか不合格になるなど、まったくもって想定外の事態だった。
「なんでも、ハルトさんは試験の間ずっと消極的な態度を取っていたと……」
お姉さんが申し訳なさそうに説明する。
クラッブはいったいなぜそんな「評価」を下したのか。
俺に助けられたという事実を認めるのが悔しくて、嘘をついてしまったのか。
あるいは試験官なのにパーティの足を引っ張ったという事実を、俺がギルドに告げ口すると思って、その前に自分の「言い分」を言っておこうと思ったのか。
なんにせよ、あまりに愚かすぎて開いた口が塞がらない。
「それはさすがに納得できないです……。俺はモンスターにやられて戦闘不能になったクラッブ試験官を二回も助けたんですよ?」
俺が言うと、お姉さんは「え!?」っと声を上げる。
「そんなことが!? クラッブ試験官からはそんな報告は上がっていないですが……」
「一緒に試験を受けたサイラスに話を聞いてください。すぐにわかります」
俺が言うと、お姉さんは額の汗をぬぐいながらペコリと頭を下げた。
「すぐに調べさせていただきます。少しお時間をください」
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