18.昇級試験4
「ふひッ」
グリムドールは今度は俺たちの方に向き直り、笑みを漏らす。
俺は背筋に走った悪寒を振り払うように、二刀の剣を振りぬいた。
「≪ダブルスラント≫!!」
全身全霊の斬撃でグリムドールに斬り掛かる。しかし、その攻撃はその分厚い結界をわずかにえぐるだけだった。
俺はすぐさま距離を取り、≪状態分析≫で戦果を確認する。
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グリムドール
◇ステータス
レベル:27
BP:4,310/4,350
MP:0/0
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本当にわずかにバリアポイントを削っただけに終わった。
≪ダブルスラントLv3≫は、同格相手なら80ほどのダメージを与えられるが、今回は相手のレベルが高すぎるのだろう。半分しかダメージを与えられない。
このペースで行くと、100回ヒットさせても倒せない。つまりその前に確実に魔力切れになってジエンドだ。
「ギャハハ!!」
甲高い笑い声とともに、グリムドールはその大きな手で俺を押しつぶそうとしてくる。
俺はそれを全身全霊の跳躍で避ける。
「クソッ!」
攻撃スキルこそないが、高ステータスから繰り出される物理攻撃は、格下の俺たちにとって十二分に致命傷になりうる。
こちらは100回攻撃を当てないと勝てない。
あちらは何度か当てれば勝利。
「無理ゲーすぎんだろ!!」
ゲームだったらキレてる。
「≪魔斬剣≫!」
サイラスも加勢してくるが、当然大したダメージは与えられない。ジャパニーズコトワザにある通り、焼け石に水だ。
いや、むしろ。
新しいオモチャを見つけたグリムドールは、サイラスの方に向かって猪突猛進。
「ひぃッ!?」
ひるんだサイラスの身体をわしづかみにし、そのままボス部屋の入り口とは反対側に放り投げた。
「マジでやべぇ……なんとかしろよ、俺」
あえて口に出して、俺は頭をフル回転させる。
データだ。
現状アイツを倒すには、最大火力で100回以上殴り続けないといけない。
けれどそれは絶対に無理だ。
ならばどうする?
分解して考えろ。
そうだハルト。シンプルな掛け算だ。
攻撃力×回数=ダメージ
たったこれだけの計算だ。
この掛け算を最大化するには?
MPを増やして攻撃回数は増やすのはどうだ。
いや白魔術師がいれば別だが、剣士だけのパーティではそれは無理。
なら攻撃力を増やすしかないか。
例えば、スキルポイントを割り振って≪ダブルスラント≫のレベルを上げる?
いや、そもそもポイントが足らないし、それで上がる攻撃力はたかが知れている。
ならば、今あるスキルで、大きなダメージを与えるか?
同じスキルで、二倍、三倍のダメージを与える。
それならいけるかもしれない。
例えば、属性によって与えられるダメージ量がかわるかもしれない。
あるいは、当てる場所も大事かもしれない。
「≪状態分析≫!」
俺はスキルを使って、現状を把握する。
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グリムドール
◇ステータス
レベル:27
BP:4,300/4,350
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よし、今のBPは4,300だな。
ここから、どのスキルを使って攻撃した時に一番効率よくダメージを与えらえるか見てみる。
と言っても、俺が持っている二刀流以外の攻撃スキルは二つしかないが。
「≪マジックアロー≫!」
弓矢の攻撃を当てて、その後すぐさま ≪状態分析≫で相手のBPの減り具合を調べる。
そしてダメージ量/消費した魔力を算出。魔力量当たりのダメージ量を算出。
「≪アイスアロー≫!」
続けて別の技でも試す。
ひとまずわかったのは、≪マジックアロー≫も≪アイスアロー≫も≪ダブルスラント≫に比べると効率は悪い。MPはなるべく≪ダブルスラント≫に使った方がよさそうだ。
では、こんどは当てる場所はどうか。
「ハッ!!」
俺はグリムドールに向かって跳躍し、スキルを使わずに剣技でダメージを測る。
脳天、目、脇、脛……ダメージが通りやすそうな場所を順番に攻撃して、ダメージ量を測っていく。
――けれど多少与えられるダメージに差はあれど、この劣勢を覆すほどの差は見つからない。
全然突破口が見えない。
焦りばかりが募る。
このままじゃ絶対に勝てない。
いっそ、能天気に気絶してやがる脳筋試験官のことは放って逃げるか?
いや、いくらなんでもそれはできねぇか。
「クソッ!!」
俺は怒りをぶつけるように、やけくそぎみでグリムドールの腹に向かって剣を突きさした。
当然、攻撃は大したダメージを与えられず、結界に跳ね返される。
けれど。
俺はその中に、今までに感じたことがない感触を感じた。
もしかしたら勘違いかもしれないが……本当にわずかだけど……「入った」気がした。
俺はその感覚が正しいかを確かめるために、≪状態分析≫で相手のバリアポイントの減りを確認した。
すると。
「今のは……効いてる!?」
スキルの補正がないただの突き攻撃では大したダメージは与えられない。
けれど、その量はさきほどまでとは明らかに違った。
「もしかして……へそが弱点なのか??」
赤ん坊の見た目をしたモンスターの弱点がへそ。
それはかなりあり得る線だ。
俺は確かめるために、先ほどと同じ場所に≪ダブルスラント≫を放つ。
それまでであれば、大したダメージは与えられず跳ね返されていたが――
「ギィィア!?」
グリムドールは、それまでのどこか楽し気な声色とはまったく違う、あきらかに苦しみから上げたであろう鳴き声を出す。
俺はすぐに距離を取り、再びどれだけダメージを与えられたか確かめる。
すると、
「やっぱりだ! ちゃんとダメージが入ってる!!」
それまでと比べて倍ほどのダメージが入っていた。
やはり、なぜかはわからないがアイツのへそが弱点になっている!
「サイラス! へそが弱点だ! 交互にへそを狙って攻撃するぞ!!」
俺はそう指示を飛ばすと、サイラスも素直に俺の言うとおり攻撃を繰り出した。
へそを攻撃すると常の二倍以上ダメージを与えられるみたいだ。
であれば後は簡単な算数。
俺たちの残りのMPを全て注ぎ込めば、確実に倒せる。
だからもうMPを出し惜しみする必要はない。俺は全てを振り絞って剣を放つ。
「≪ダブルスラント≫!!」




