17.昇級試験3
「≪ダブルスラント≫!!」
俺はフルフルに全速力で斬りかかる。
相手が≪ライトニング・ヴォルテックス≫を使えるのは一度切り。一度使った以上、二度目はない。
大技を食らう心配はなくなったので、俺はヒットアンドアウェイをやめて近接戦闘にシフトする。
≪ライトニング・ヴォルテックス≫を心配しなくてよければ、ベースの戦闘力はこちらのほうが断然上だ。
俺は無心で二刀流スキルを放つ。相手に反撃する隙を与えず、そのまま数分で倒しきった。
「……はぁ」
一つ溜息をつき、剣を鞘に納めてから振り返る。
すると、クラッブはちょうど麻痺が解けたのか、ゆっくりと立ち上がっているところだった。
あれだけ偉そうにしていたにも関わらず勝手に突撃して戦線を離脱したのだから、ちょっとは反省しておとなしくなるだろう、そう思っていたのだが。
クラッブは顔を真っ赤にして俺の方に向かってくる。
「余計なことをしおって!!」
いきなり怒鳴られ、思考が止まる。
俺が黙っているその間に、クラッブはさらに吐き捨てる。
「俺の指示もなく、一人で戦いやがって。これは減点せざるをえんぞ!」
いくらなんでも、それは無理があるだろ!?
仮に俺があのまま何もしなかったら、コイツは10秒以内に踏みつぶされて死んでいたはずだ。
感謝されて当然だし、百歩譲って腹の虫が収まらないのはわかるが、俺が命令違反をしたというのはさすがに筋が通らない。
当然俺から謝る気になどなれず、もはや黙るしかなかった。
……このままだと不合格にされるかもしれないが、その時はギルドに抗議しようと心に誓う。
そして、さすがのクラッブも自分に分が悪いとどこかでわかっているのだろう。そのまま俺の横を通り過ぎて先に進んでいった。
俺は拳をグッと握りしめ、黙って彼の後についていくのだった。
†
ようやく長い旅路が終ろうとしている。
俺たちは最後の関門である、ボス部屋にたどりついた。
試験の結果はどうあれ、あと少しでこの「脳筋逆切れ試験官」とおさらばできる。そう思うとうれしくて涙が出てきた。
さっさとボスを倒して帰るとしよう。
クラッブは例によって根拠のない自信を持ちながら堂々とボス部屋の扉を開け放つ。
「ボワッ」っと音がして、壁際をなぞるように青色の炎が灯る。
そして現れたのはなんとも気味の悪いモンスターであった。
巨大な赤ちゃん人形、と言えばわかりやすいか。
大きな頭部、二頭身の胴体、そしてやはり大きな手足。
ただし本物の赤ん坊と違って、肌には生気がない。
その赤い大きな瞳がこちらを見据えると、その顔面はニヤリと笑った。
そう――まるで“オモチャ”を見つけたような笑みだ。
「気味は悪いが……まぁ、倒すのは簡単だろう」
クラッブはなんの根拠もなく言い放つ。
だが、俺は直観的に危険を感じていた。
その危機感を数値化するために、俺は≪データ分析≫を使って相手のステータスを明らかにする。
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グリムドール
◇ステータス
レベル:27
BP:4,350/4,350
MP:0/0
◇スキル一覧
ライフバリアLv87
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まず、最初に目についたのはレベルの高さだ。
今の俺のレベルが18。
しかし目の前のボスは27もある。
完璧に格上だ。
そして持っているスキルは≪ライフバリア≫のみ。しかし、そのレベルはなんと87。
一瞬見間違いかと思うようなレベルだ。一けた台後半でさえまず見ないというのに、Lv87など聞いたことがない。
そしてスキルレベルに比例して、バリアポイントもとんでもないことになっている。
高火力スキルである≪ダブルスラント≫を50回当ててもまだ倒せない。
その簡単な割り算をした瞬間、一気に血の気が引いていく。
勝てるわけがない。
「おい、コイツはマズイ。今すぐ逃げるぞ」
俺は命令口調で二人に撤退を促す。
しかしクラッブはそれを鼻で笑う。
「あんな雑魚そうなモンスター相手に何を怯えている!」
先ほど醜態をさらしたことなど都合よく忘れているのだろうか、クラッブは自信満々にそう言った。
データを見れる俺は目の前のモンスターが途方もない強敵だと分かる。
だが彼らは違う。「お人形さん」くらいにしか思っていないのだ。
だが、こればかりは本当にマズイ。
このままでは俺の二度目の人生も終わってしまう。
二人がそれでも戦うというなら勝手にしてくれ。
そう内心思ったが。
「キィィィィィッ!!!!」
甲高い鳴き声がボス部屋に響き渡る。次の瞬間グリムドールはその体格に似つかぬ力強い動きで跳躍。
あっという間に距離を詰め、先頭にいたクラッブに張り手を食らわせた。
「グハッ!?」
クラッブは壁に叩きつけられて、そのまま地面にバタリと落ちる。
≪状態分析≫でステータスを確認すると、バリアポイントが再び0になってしまっていた。死んではいないので、どうやら気絶してしまったらしい。
その一瞬の攻防は、俺たちとグリムドールの間にある絶望的なまでの実力差をまざまざと見せつける。
「ふひッ」
グリムドールは今度は俺たちの方に向き直り、笑みを漏らす。
俺は背筋に走った悪寒を振り払うように、二刀の剣を振りぬいた。
無能な試験官には、ボスを倒したあと、ちゃんと鉄槌がくだされますのでご安心をm(_ _)m




