16.昇級試験2
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その後、パーティは順調にダンジョンを進んでいった。
ペースはかなりよい。
しかし俺に言わせれば、順調なのはパーティが優秀だったからじゃない。
クラッブとサイラス、本来考慮すべきリスクを軽んじて、危険を冒しながら進んでいたからだ。
ここまでは痛い目に合うこともなく進んできたが、それも運がよかったに過ぎない。
これが昇級試験でなければ、いますぐパーティから離脱したいところだったが、あいにくそうもいかない。俺にできる唯一のことは、自分にできる範囲内でリスクを回避して戦い続けることだけだった。
だが、それもいつまで続くか……
「グルゥゥ!」
狭い一本道を抜け、少し広い空間に出ると、そこに巨大なモンスターが待ち構えていた。
見た目は一言で言うと、翼の生えた黒い牡鹿。
「≪状態分析≫」
俺はこのモンスターの能力を≪データ分析≫で明らかにする。
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フルフル
◇ステータス
レベル:2
BP:100
MP:78/78
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フルフル。
間の抜けた名前とは裏腹に、強力なステータスを持ったモンスターである。おそらくこのダンジョンの中ボスだろう。
すると、そんな相手を前にして試験官のクラッブは俺に命令する。
「ハルト。今日お前はまだ活躍できていない。だから名誉挽回のチャンスをやる。一人でアイツと戦って見ろ」
活躍できていないと明言され思わずキレそうになるが、ぐっとこらえる。
この脳筋野郎の俺への「評価」はかなり低い。このままいけば俺は不合格になってしまうかもしれない。それを考えると、ここはなんとか自分の実力を見せなければいけないところだ。
その意味では、目の前にいるモンスターは最適の相手だ。このレベル帯のモンスターでもかなり強力な部類とされており、一人で倒せば実力を証明するのに十分だろう。
「わかりました」
俺は前に出てフルフルと向き合う。
「グァアアッ!!」
悪魔の瞳が俺を認めると、威嚇の咆哮を上げる。
しかし俺は冷静に、≪データ分析≫でさらなるデータの収集を行う。
「≪技能分析≫」
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フルフル
スキル一覧
ライフバリアLv3
効果 :全身に攻撃を防ぐための結界を張る。
ファイヤ―ボールLv4
消費MP:3
効果 :火の玉を放つ。
スタンピングクラッシュLv4
消費MP:3
効果 :足に魔力を込めて振り下ろす。
ライトニング・ヴォルテックスLv3
消費MP:45
効果 :自身の周りに雷の衝撃波を放ち、ダメージを与えながら相手を麻痺状態にする。
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持っている技は3つ。
その中でも特に際立っているのは、≪ライトニング・ヴォルテックス≫だろう。
説明を見ただけでも厄介だと分かる。麻痺状態は特効薬がなく、食らってしまえばしばらく無防備になってしまう。
従って絶対に避けなければいけない技だ。
ただ、幸いなことに一度の発動で最大MPの半分以上を使うため、フルフルがこの戦闘で使えるのは1回だけ。従って、この一撃を確実に避けて戦えば問題はない。
「グァッ!」
次の瞬間フルフルが短く吠えると、目の前に炎が三つ浮かび、それが弾丸となって放たれた。
まずはけん制の≪ファイヤーボール≫というわけだ。
それを俺は好機と捉えた。基本的にある攻撃スキルを使っている間は、別の攻撃スキルは使えない。すなわち、今なら≪ライトニング・ヴォルテックス≫は発動しない!
俺は勢いよく地面をけり、迫りくる三つの弾を飛び越える。
そしてフルフルの頭上から二刀の剣で切りかかる。
「≪ダブルスラント≫!!」
脳天からの振り下ろし。攻撃は着実に魔力の結界を削り取る。
そして俺はそのままフルフルの顔面を蹴り飛ばし、後方へと飛び去る。
かなりダメージを与えたと思うが、追撃はしない。近くに居座れば、≪ライトニング・ヴォルテックス≫の餌食になってしまうからだ。
基本的にはヒットアンドアウェイで着実にライフポイントを削っていく。それが俺の作戦だった。
俺は剣を鞘にしまい、背中から弓を取り出して、遠距離から追撃をかけた。
「≪アイスアロー≫!」
狩人系統の技は威力で劣るが、相手に近づかなくて済むのが最大のメリットだ。ここは忍耐強く相手にダメージを与えていこう。
俺は遠距離での攻撃を中心にし、相手が攻撃スキルを使ってきたときだけ≪ダブルスラント≫で近接でダメージを与え、その後すぐに離れて、また遠距離攻撃に戻るということを繰り返した。
それを幾度か繰り返し、相手のライフを半分ほど削れた頃。
「ええい、こざかしい! なにをビビっているんだ!」
ダンジョン内に苛立ちの声が響いた。
確認するまでもなくその声はクラッブのものであった。
その言葉は確認するまでもなく、俺に向けられたものだ。
どうやら例によって、俺のプレイングスタイルに文句があるらしい。
俺の慎重さが、彼にとっては臆病さに映るのだ。
だが俺には、強敵相手に、間違いなくベストなプレイングをしているという自信があった。
――そんなに言うなら、お前がやってみろ。
思わず心の中で悪態をつく。
だが、まさかその言葉が聞こえでもしていたのか。
次の瞬間、信じられないことが起こった。
「俺が一瞬で倒してやる!」
そう言った後、クラッブは剣を抜き、フルフルに対して猪突猛進していった。
しびれを切らしての特攻。
「ま、待て!」
俺は慌てて止める。
だが、遅かった。
「グァアアッ!」
牡鹿の悪魔は、それまでとは違う腹の底から出るような低い声を吐き出す。
そして、次の瞬間その体の周辺に閃光が流れ出した。
≪ライトニング・ヴォルテックス≫。
クラッブは突然の範囲攻撃になすすべなく迎撃され、背後に吹き飛ばされた。そのまま地面に叩きつけられ、動かなくなる。
いや、見ると身体は小刻みに動いている。
これはおそらく。
俺は慌てて≪状態分析≫で確認する。
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クラッブ・グリーンウッド
◇ステータス
レベル:22
BP:0/100
MP:90/100
その他:麻痺状態
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やはり≪ライトニング・ヴォルテックス≫を食らって麻痺状態に陥っている。
バリアポイントも全て削り取られているので、次に攻撃を食らえば命はない。
死んでも自業自得としか言いようがないが、さすがに見捨てるわけにはいかない。
「……バカ野郎!」
俺は怒りの言葉を吐きながら、フルフルに向かって跳躍した。
「≪ダブルスラント≫!!」
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