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15.昇級試験1


 昇級試験当日。

 王都から徒歩で30分ほど離れた場所にあるそのダンジョンの入り口にたどり着くと、既に二人の男が待ち構えていた。


 一人の男は冒険者ギルドのエンブレムを付けていたので、その人物が試験官だと分かった。

 となると、もう一人はおそらく俺と同じ受験者だろう。


 試験官の方は、長身でがたいがよく、肌は真っ黒に焼けている。そして背中には、その大柄な身体に似合う大剣を背負っている。


「私が試験官を務めるクラッブ・グリーンウッドだ!」


 試験官の男は強面のままそう名乗った。

 どうみても体育会系、というか脳筋野郎だ。


「えっと、ハルト・スプリングスティーンです。今日はよろしくお願いします」


 俺は一目見て本能的に「コイツは苦手タイプだな」と思った。

 そして、その予感は次の瞬間には確信に変わる。

 

「貴様がハルトか! 遅いではないか! たるんでるぞ!」


 いきなり大声でそんなことを言われる。

 

 しかし王都を出る前に時間を確認し、まっすぐここまできたので、遅れているハズがない。

 その証拠に約束の時間は正午で、天を見上げると太陽は真上に上っていた。


「えっと、すみません、勘違いでなければピッタリくらいのはずなんですが」


 俺が言うと、試験官は目を吊り上げた。


「受験者の心構えとして、約束より早く来るのが当然だろう!」


 俺は目の前の男が「理不尽体育会系」であることを確信する。

 俺が最も嫌いな人種だ。


 ただ、昇級試験では、試験官であるコイツに認められないと昇級できない。ここで心証を悪くしてしまっては、昇級が危うくなる。なので、ここは歯を食いしばって事を荒立てないために謝っておく。


「すみません」


 俺が謝ると、クラッブはふんと息を鳴らして続けた。


「今日は俺が根性を鍛え直してやる! 覚悟しろ!」


「よ、よろしくお願いします……」


 いきなり最悪の気分だが、ここは我慢だ。


 俺は気を取り直して、今日一緒に試験を受けるもう一人の男に挨拶をする。


「ハルトです。よろしくお願いします」


「サイラス・カーターです。よろしくお願いします!」


 極めて元気よく挨拶をされる。

 あ、コイツも脳筋だ。俺はそう確信した。

 ハッキリ言って、この三人でダンジョンにはいるのはめちゃくちゃ憂鬱だ。


 受験者同士お互いの名前を確認したところで、クラッブはパンと手を叩く。


「それでは、気合を入れて、ダンジョンに潜るとしよう!」


 クラッブは踵を返し勢いよくダンジョンへと入っていく。俺とサイラスは黙ってそれについていくのであった。


 †


 今回攻略するのは洞窟型のダンジョンであった。


 湿っぽい空間に、ぽたりぽたりと水が滴る音が響く空間をしばらく歩いていくと、早速モンスターと遭遇する。


「シャアアッ!!」


 ただれた皮膚と血走った目が特徴的なモンスター、疫病狼だ。

 俺は万全を期すため、≪技能分析≫を使って相手の手の内を確認する。



------------------------------

疫病狼


◇スキル一覧


スマッシュクローLv3

ポイズンクローLv3


------------------------------


 厄介なスキルを持っている。≪ポイズンクロー≫の毒攻撃は、結界魔法ライフバリアでは防げない。すなわち、一撃でも喰らえば、今日一日毒によってダメージを受け続けることになる。

 パーティにヒーラーがいない以上、ここは安全策を取るべきだろう。毒攻撃を避けるべく、至近距離での戦闘は避けるのが賢明だ。


「アイツは毒攻撃を持っています! 遠距離から攻撃しましょう」


 俺は二人にそう警告してから、弓を引き絞った。


「≪アイスアロー≫!」


 遠距離から攻撃をを仕掛ける。しかし疫病狼は素早さを活かして俺の攻撃を軽々避けた。

 ――だがそれも想定の範囲内。俺は立て続けに二発目の≪アイスアロー≫を放つ。それも跳躍してかわされてしまうが、今のは誘導だ。

 ちょうど地面に着地したところだった疫病狼に、さらにもう一発アイスアローを放つ。次の瞬間、矢に込められた魔力が氷になって弾け、疫病狼にまとわりつく。

 動きを止めてしまえばこちらのものだ。俺は追撃しようと弓を引き絞る。


 だが、その時だ。

 まったく予想外の出来事が起こった。突然、サイラスが疫病狼に向かって飛び出したのだ。矢の先にサイラスが現れたのを見て、俺は慌ててマジックアローの発動を止める。


 サイラスはそのまま剣をふりかぶり、≪魔斬剣≫を疫病狼に浴びせた。まともに動きが取れない疫病狼にその攻撃はクリティカルヒット。疫病狼はそのまま絶命した。


 俺はその出来事に唖然とする。


 俺が遠距離攻撃をしようとしていたところに、わざわざ割り込んで来た。一歩間違えば、俺のマジックアローが当たっていたかもしれない。

 それに、そもそもいきなり近接戦闘を挑んだのも解せない。いくら氷で動きを止めていたとはいえ、一歩間違えば毒攻撃を喰らっていたかもしれないのだ。


 しかも彼は≪魔斬剣≫という遠距離でも使える技を持っているにもかかわらず、わざわざ至近距離での攻撃を選択したのだ。

 何も考えていないとしか思えない、後先を考えない行動だ。


 俺はサイラスに向かって思わず説教をしたくなった。


 しかし、


「サイラス、よくやった!」


 試験官のクラッブはなぜかサイラスを称賛する。

 危険行動を冒したはずの彼を、である。


 単にモンスターを倒したから偉い。このクラッブと言う男は、そんな短絡的な思考回路で評価を下す試験官なのだ。

 それだけでも許しがたいのに。

 クラッブはさらに驚くようなことを口にする。


「ハルト、お前はもう少し勇敢に戦え。剣技を使えばもっと早く倒せただろう」


「なッ……」


 俺は思わず絶句した。敵モンスターの危険性を指摘したことを褒められこそすれ、まさか注意されるなどとは思わなかった。

 コイツは完全に勇気と無謀をはき違えている。


「よし、いくぞ」


 俺が反論する前に、クラッブは踵を返して先へ進んでいった。

 行き場を失った怒りを、俺はどこにぶつけることもできなかった。そしてわずかな抵抗とばかりに、踏み出す足に力を込めて思いっきり地面を踏みつけて、クラッブの後ろをついていくのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] あーこれは結構難儀しそうだな…。 …、まぁこれでサイラス達の実力が、そう高くないのはわかったな。 これで急な襲撃とか受けたら、確実に敗走しそうだな。 それ以上に、この試験官も、実力で掴…
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