1.転生の理由
過労死。
それが俺、杉浦悠斗の死因であった。
トラックに撥ねられそうな女の子を助けたとかじゃなくて。
単純に働きすぎて死んだ。
俺は外資系の投資銀行に務めていた。
投資銀行での勤務は、世間のイメージ通り激務だった。この10年間、1日の睡眠時間が3時間を超えたことはない。
それでもバリバリ働いていたが、実のところ身体は悲鳴を上げていたのだろう。
まあ死んで当然かもしれない。
短い人生。
後悔はない……といったら嘘になる。
絶え間なく働くことでその事実を忘れようとしていたが――俺には諦めた夢があった。
元々俺は「プロゲーマー」になりたかった。
試行錯誤の末、他人より一歩早くゲームを攻略していく、あの感覚が好きでたまらなかったからだ。
だけど、ある時壁にブチあたった。
コイツには絶対に勝てない。
ある人物に才能の差を見せつけられたのだ。
あがいても一向に勝てる気がしない。
このまま続けていたとしても、「最強」にはなれない。
そう思って、俺はあきらめた。
プロゲーマーの夢を諦めて、サラリーマンになったあの選択は、多分世間的には「正解」だったはずだ。
だけど。
あの時、全てをかなぐり捨てて食らいついていたら。もしかしたら違う結果もありえたのかな……。
就職なんてせず、すべてを投げうってゲームに人生を捧げていたら。
俺は≪最強≫になれたのだろうか?
死ぬ間際、俺ははそんなことを思った。
だからこそ――――――――――――――――
次の瞬間、俺はそこにいた。
無限に広がる白い空間。
そんなところで神々しい金色の髪をした美女に相対していた。
「そんなあなたに、やり直しの機会を差し上げましょう」
一目見て、女神だと分かった。
俺は黙って女神の言葉を待つ。
「あなたはこれから異世界に住む18歳の少年に転生するのです」
なるほど、俺は「異世界転生」をするというわけだ。
そして、18歳の少年に転生すると聞いて、どうやら赤ちゃんからやり直すわけではなさそうだと一安心した。おむつ生活から始めるのは、いくらなんでも流石にごめんだった。
「待ち受けるのは≪剣と魔法の世界≫です。きっとあなたの夢をかなえることができるはずです」
……そうか。やり直せるんだ。
だったら。
俺は決意する。
あの日諦めた夢を、この世界で叶えてやる。
今度こそ、全てをハックして、≪最強≫に成り上がってやる。