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最終話 : 天国

プシュー



気が付けばもうバスが来る時間だったようだ。俺と香川さんが座るベンチの前にバスが止まっている。行き先はもちろん天国。



「さて、それじゃあ逝こうか」



「香川さん、字間違ってますよ。この状況じゃ正しいのかな?」



その冗談を期に空気を切り替えて俺達はゲラゲラ笑いながらバスに踏み出す。



バスに乗ると運転手さんがやってきた。なんともまぁスタンダートな運転手姿だ。

顔が骸骨になっていると言う点を除けば、地上に居る運転手さんとなんら違いはない。


…まぁその違いがでか過ぎるんだけど。


香川さんと無言で「こ、こええ」と目配せしあう。



こっちが恐怖で半ば固まっているとカラカラと骸骨運転手がしゃべり出した。



「オキャクサンYO、乗車券をミセテくれYO」



「なんでエセ外国人のラップ調なんだよ!天国にもラップブーム到来してんのかよっ!!」



一瞬で恐怖はぶっ飛んだ。いや、だってYOだぜ、YO。俺じゃなくてもツッコむっつの。おい!


そのYOの指でポーズとるのやめろ!骸骨のカタカタ音をリズミカルに鳴らすな!



「春原君落ち着いて!」



「香川さん!止めないでくれ!ツッコませてくれ!!」



「もうツッコんだじゃないか。」



「まだ、足りねぇぇえええ!!!」



俺の叫びは空しくスルーされていく。しかしそれは置いておくとして、何か気になることを言ってたような…乗車券?



「えっと、乗車券てなんだ?」



「YO!YO!天国行きの乗車券!来るときちゃんと貰ったRO!」



「え…そんなのあったっけ?香川さん持ってる?ちょっと骸骨ラッパー(仮)黙れ」



YO!YO!うるさい骸骨ラッパー(仮)を黙らせて自分のポケットをまさぐりながら聞いてみる。



「持ってないYO!」



「香川さん?!落ち着いてください!」



「ああ、ごめん。写っちゃった。しかし、私も持ってないみたいだ。」



まさか、冷静ダンディキャラの香川さんにまで影響を与えるとは、意外とやるやつなのか…。



「困ったね…」



本当に困った、ってかなんで天国に行くのに乗車券がいるんだ。



「YO!YO!持ってない奴HA!天国いけNEEEEE!お前らここでおさらBA!また次の機会DE!」



そういうと骸骨ラッパー(仮)はケタケタと大きなラップ音を出していきなりドンッ!と俺達をバスから突き落とした。



ヒューーーーーン



突き落とされた先には…なんと地面がなかった。あれが地面だったのかは知らんが。



「死にたくねえええええええええええええ」



「もう死んでるよおおおおおおおおおおお」



香川さんナイスツッコミだぜ!なんかキャラ変わってる気がするが気のせいだろう。



落ちていく中で考えていた。いつからだろうか?乗車券がないと気づいたときからだろうか?香川さんの話を聞いてからだろうか?ここに来て当たり前に受け入れていた死を全力で否定したくなっている自分が居た。




ズゴン!!!



うえぇ、こ、ここはどこだ…。俺、生きてるのか?いや、死んでたから、生きてるのか?って言うのもおかしいけど。と自分の状況を把握しようと重いまぶたを必死で開いていくと



「ちょっと大介!起きてるの!こっちを見て!!」



うるせーな、こちとら天国の手前から突き落とされたとこなんだから、んなでけー声だすなよ。何考えてんだよ佳奈の…や…つ?



あまりにも懐かしい声を耳にして必死でまぶたを開けて声のするほうを見る。



「佳奈…」



「うう…大介…」



「佳奈」



「大介―!」



なんという感動の再開か。死んだと思ってた俺生きてたぜ?まさに不死身の男!全米が泣いた感動の嵐!そして生死を越えた男女(俺と佳奈な!)は愛を語り合う!これ定番。


さぁ来るぞーと思っていると、佳奈は俺に向かって顔を近づける。OK。おスィートエンジェルの気持ちはよくわかった。目をつぶって受け入れ態勢を作る。そのまま二人の距離は近づき。



「アホかーーーー!!!!」



ヘッドバットをされることになった。



「い、いてええええええええ。お前シャレになってねぇぞ!ダンプに轢かれた人間にんなことするか普通!」



「何がダンプよ!あんたバナナに滑って後ろにあった電柱に頭ぶつけてここに運ばれたんじゃない!」




「…え?マジで?」



「マジで。」



ジト目で俺を思いっきり見てくる。あははは、そうかー、滑った先に電柱があったのね。


なんか…ますますかっこわりぃな俺…。電柱に激突して臨死体験かよ。そりゃ乗車券持ってねーわ。チーン。



「そうか、そうか、死に損なったな」



バツが悪くなったので目をそらして、うん、うん、とうなずきながら頭をさする。



「な!に!が!死に損なったよ!アンタね、ほんとうに、いちじ…きはあぶな……ヒック」



ヒートアップしていた声が一気にしぼんでいく。ハテ?どうしたものかと佳奈のほうを見てみると目一杯に涙を溜めてこらえていた。



驚いたなんてもんじゃない。始めてみてからここ、この女の泣いている姿など見たことがない。どんなに大喧嘩しても決して涙は見せなかった。俺の…せいだよな?



「あの…その…ごめん」



それで全てが決壊したのだろう。佳奈は俺に抱きつくと大きな声で泣き出した。



「ヒック、ヒック、ばか、あほ、どじ、とうへんぼく、ばななまじん、でんちゅうおとこ、しなないで」



あぁ、なんて自分は愚かだったんだろう。そうだ。忘れてたよ。乗車券持ってなくてよかった。


泣かせたくない人を今以上に泣かせるところだった。優しくできるだけ優しく、もたれかかる佳奈を抱きしめる。



「ごめんな。うん、俺、生きててよかったよ。大好きな佳奈のこと危なく置いていくところだった」



「ううん…ごめん…私のせいで…ヒック、ヒック」





それから数十分位してようやく佳奈は顔をあげた。俺と佳奈は見詰め合う形になり徐々に距離が近づいていく。もう少し、もう少しでぶちゅーっと。


と鼻息を荒くしている佳奈の胸ポケットからなんか出てるのが見えた。半透明の紙みたいに見えるんだがそこに書いてある文字が問題だ。


気のせい…か?いやもう少し近づいてみないと。俺は佳奈に向かっていく顔を胸ポケットに軌道修正して近づけていく。本来ならこのシチュエーションでこんなものは目に入らないんだが、そこにあった文字は俺の目を完全に固定してしまっている。


そしてついにハッキリ、シッカリ、バッチリ見えた文字には



[ 天国行き ]



と書いてあった。



「!?!あqwせftyこlp;@:」



パニックになって声にならない声を上げて佳代の胸ポケットから紙切れを鷲づかみにする。



「ここここ、これは?!!?て、天国行きのチケットじゃねぇか!な、なんでおミルキーハートエンヂェルが…ゲフア!」



渾身の右チョップが見事に上から炸裂する。何度も言うがダンプに轢かれてないとはいえ、死にかけた怪我人だぞ俺は。



「な、なにすんだよ…」



「なにすんだじゃないでしょ!!いきなり人の胸を鷲づかみにしといてよく言うわね!!こんな時に何考えてんの!スケベ!!全身わいせつ物!」



「へ?胸を?」



よくよく見ると右手にはチケット、左手には…佳代のふくよかな胸がばっちりホールドされていた。


動かしてみる。おおっ!スゲースゲー!柔らかいよ。もうちょっと、もうちょっと。モミモミ。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



気のせいだろうか?大気がひずんでいる音がする。そーっと音のする方向を見上げると、見事に鬼の形相に変貌した佳奈がいた。


こ、これは…発言を誤るとまたバス亭に行きかねん。考えろ、ここに最適な答えを考えるんだ!頑張れ!!



「お、おオーガ



そして搾り出した言葉は



「柔らかくていい胸だよな!」



俺は歯をキラリと光らせて親指をあげて突き出した。



「言いたいことは…それだけかーーー!!!」



「ゴブフルへアーーー!!」



見事な右ストレートが顔面に突き刺ささって俺は気絶した。せっかく褒めたのになんでだよ。



薄れゆく意識の中で、天国行きのチケットをお前が持ってたなんて、出来すぎだろと思った。


お付き合いいただきありがとうございました。ねぎかぼちゃです。


プロローグから最終話まで一気に更新させていただきました。つたない文章にもかかわらず粘り強くお付き合いいただいた皆様、ありがとうございます。


感謝感激雨霰です!


はてさて、一応、最終話なのすが、ちょっとしたエピローグをこの後にアップしたいと思っています。


大介、佳奈、そして香川さんの話にもう少しお付き合いいただければ生みの親としては幸いです。


それではまたお会いしましょう

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