年上かつ身分の低い私にプロポーズするだなんて、あり得ません!
約2年ぶりの投稿です。よろしくお願いいたします( ´ ▽ ` )ノ
「あ…あのっ!ぼ、僕とけっ、結婚してくだしゃいっ!」
「………はい?」
…一体何故このようになってしまったのでしょう?
しがない男爵令嬢である私、メチカ・ランスレーは、行儀見習いとして出向いたウェールズ公爵家の嫡男様に、プロポーズされました。
「…あの、サルバ様?プロポーズする相手、間違えていますよ?」
「ま、間違えてないっ!僕はメチカ嬢に、プ、プロポーズしたんだっ!」
「…はぁ…」
もう、ため息しか出てきません。サルバ様はまだ14歳で、16歳で成人するまでにはあと2年かかります。
結婚するにも2年かかるから、思春期真っ只中の彼はきっと他の令嬢にも目移りする可能性もあります。
しかも私の方が3歳年上ですし、年上妻は世間ではよく思われていません。
…でも、2年で国の状況が変わるかもしれませんし、それでも彼が私を好きで居続ければ、この話をお受けする意味もあるかと…。
いや、身分の事もありますね。公爵家と男爵家は空の雲と地面ぐらい離れてますから。
「サルバ様、このお話はお受け出来かねます」
「え?なんで…?」
「まず、貴方はまだ成人しておりません。確かに今は婚約者を決める時期ではありますが、私の他にも素敵なご令嬢は沢山いるのですよ?そちらの方に目を向けてみてはいかがですか?」
「で…でも、僕はメチカ嬢に一目惚れしたんだ…」
「…ぐっ…」
で、出ました!一目惚れ!
一目惚れをすると、その人しか目に入らないとはよく言ったものです。…けれど、もしかしたら一時の気の迷いかもしれません。ここは年上らしく、バシッと言ってしまいましょう。
「サルバ様、それは間違いかと思われます」
「ええ!?そんな訳ないよ!僕は確かにメチカ嬢が好きなんだよ!信じてよ!」
「…そう言われても、信じることなんて出来ません。しかも私は表情筋がほとんど死滅しているのですよ。笑った事も怒った事も顔にあまり出ないのです。…流石に泣いた顔は子供の時にはあったかもしれませんが、今は全くありませんし。よくそれでこんな私を好きと言いましたね」
「あ〜、確かに。でも、君って行動とか雰囲気とか声の調子とかが結構分かりやすいから、逆に顔の表情ってあんまり気にしたことなかったかも。…う〜ん、その様子からして…メチカ嬢、今戸惑ってるよね?」
「…そ、そうでしょうか…?」
…バレてます…。バレてますよメチカ!
顔は口と瞬き以外一切動かしてないはずですし、身体も殆ど動いてないと思うのですが、何故戸惑っていると分かったのでしょう?そして、一体私のどこが分かりやすいと言うのでしょうか…?
「メチカ嬢って戸惑ったり焦ったりすると目が結構動くんだよね。こうグルングルンと。そこが可愛いんだよね」
えっ、なんと目ですか!?うわぁ恥ずかしい!なんたる失態!
しかもサルバ様、急にニコニコし始めました!可愛い!
…ってそうじゃないそうじゃない。諦めて貰わなくては、サルバ様の評判にも関わります。
こ、ここは慎重にならなければ…。
「ん〜ゴホン!…でもですね、サルバ様。私はしがない男爵令嬢ですよ?公爵家に嫁ぐだなんて恐れ多いです」
「え〜、そうかなぁ?だったら将来僕が宰相になって男爵家も公爵家と結婚出来るようにするよ。流石に王族との結婚は男爵家には厳しい話だけど、公爵家であれば多分大丈夫だと思う。もしくは僕がウェールズ公爵家嫡男という地位を弟に譲って、ランスレー男爵家に嫁ぐっていう手も…」
「いやいやいや!サルバ様はとても賢いお方なので、男爵家に嫁ぐのはそれはそれはさらに恐れ多いです!」
「うえぇ〜?それでも僕はメチカ嬢と一緒にいたいんだけどなぁ…」
「………」
な、なんて末恐ろしい子!そんなにしてまで私と一緒にいたいのですか!?
…これはもう、腹を括るしかありません。いいでしょう。サルバ様のプロポーズ、お引き受けしようではないですか!
「…分かりました。そのプロポーズ、お引き受けいたします」
「えっ!いいの!?やったあああ!!」
…あら?サルバ様、めちゃくちゃ顔が明るくなって喜んでおられますね。
サルバ様は表情がクルクルと変わるお方。つまり、サルバ様からのプロポーズは彼の本意だったという事で…。
何だか彼の喜びように心がむず痒く感じてしまい、私はつい下を向いてしまいました。
サルバ様のお顔を直視出来ないと目もぎゅっと瞑りましたが、ふと「このままストンと受け入れて良いものか」という疑問が浮上して、段々頭が冷えてきました。
もし今婚約していたとして、後々他のご令嬢に現を抜かして婚約破棄となったら、親への報告とか婚姻式についてとか等、色々手続きが大変ですしね…。最悪の場合、慰謝料とかむしり取られる可能性もありますし…。
なので、私はサルバ様にとある条件を提示しました。
「…ですがサルバ様、今すぐ婚約関係になるのは早すぎるというものです。なので、もしサルバ様が2年経っても私を好きでいてくれるのでしたら、婚約成立という事で、改めて貴方のプロポーズを受け入れます。そこで結婚式を早めるもよし、共に過ごすのもよし、サルバ様の好きになさいませ」
「…メチカ嬢。どんだけ懐疑心が強いの?僕はメチカ嬢一筋だよ?」
「それでも、不安なものは不安なんです。年上妻は世間体でも悪い風潮がありますし、例え今婚約を結んだとしても、満足して他の令嬢に現を抜かす事もありますしね」
「…むぅ…。わかった、じゃあそうするよ。でも、僕からも一つだけ。絶対ぜーったい僕以外好きにならないでね!他の男に目を向けてもダメだし、僕以外と婚約するのもなし!いいね?」
「はい、承知致しました。サルバ様は大事な雇い主の嫡男ですから、私のご主人様そのものでもあります。そのお言葉、しっかりと胸に刻んでおきます」
「ご主人様じゃなくて、婚約者って言って欲しかったなぁ…。でも、まあいっか。メチカ嬢がプロポーズを受け入れてくれたんだ。すっごく嬉しいよ、メチカ!」
ふふっ。サルバ様ったら、私の言葉に納得して満面の笑みを浮かべています。本当に、年相応に可愛らしいです!
ついサルバ様の頭を撫でたくなり、私は無意識に彼に手を伸ばしました。が、既の所で身分のことが一瞬よぎり、慌てて手を引っ込めました。
いけません、メチカ!彼は公爵家で、私は男爵家!身分の低いものが勝手に触ってはならない人なんですよ!
サルバ様だって、それはわかっていらっしゃると…ってええっ!?
『頭撫でないの?』って顔でサルバ様が目を潤ませてこっち見てます!うぐっ…撫でたい誘惑がっ!
…ゴホン。こ、これじゃ埒が開きません。一旦冷静になりましょう。ここまでの流れをおさらいしなければ。
まず、先程サルバ様は私にプロポーズして、私は条件を出して仮婚約を受け入れました。
まだ婚約者ではないので、口約束だけで書面での取引はしていません。…ええ、これでOKですね。
こうして考えをまとめた私は「それでは失礼します」とお辞儀をし、サルバ様の元から離れました。
が、彼は決して逃してくれず、すぐに私の腕を掴みました。
「待って、メチカ嬢。まだ頭ナデナデされてない。僕、プロポーズ頑張ったから、やって?」
「………ハイ……」
そ、そんなふうに直接的に言われると…従わざるを得なくなくなるじゃないですか、サルバ様ぁ!
…それで、結局どうなったかと言いますと、まあ当然機械的にはですが彼の頭を撫でましたよ。
なんか…アレですね。サルバ様が気持ちよさそうに目を細めている姿を見ると、つい田舎の実家にいる可愛い子牛を重ねてしまって、段々と愛しさが募ってきますね。
本当に、彼はどんだけ私に甘えたなんでしょう…。
「…メチカ嬢…」
…あ。不意に目を開けたサルバ様と視線が合いました。しかも至近距離で、顔が近づいてきて…
「うわああああああ!!??し、失礼しますうううぅぅぅ!!」
キスされそう!と思った瞬間、私は凄い勢いでサルバ様を突き放しました。
サルバ様は何が起こったのか分からず呆然としています。しかし、私はそんな事に気付く暇がないまま、その場から逃走しました。
ヤバい…これはヤバいです!耳まで熱くなってるので、これは間違いなく私、赤面してます!
しかもこの顔、きっとサルバ様に見られてると思いますし…。
うわぁ、恥ずかしい!こんな時は仕事で気を紛らわせましょう!そうしましょう!
…その後、私はいつもの倍以上働き、ウェールズ公爵から「そんなに無理しなくても」と仕事を止められるまで続いたのでした。
※※※※※
それから2ヶ月後。サルバ様は15歳となり、国立学園にご入学なさりました。
ウェールズ家の家令から聞いた話によると、彼の同じクラスに可愛らしいご令嬢がいて、サルバ様に色目を使っているという事です。
サルバ様もそれはそれはデレデレだったらしいとのことだったので、婚約はなしの方向になりそうですね。
…私も他の相手を探さなくては…。
「メチカ嬢!」
「!?」
日課であるウェールズ家の庭を掃除していると、ふと後ろからサルバ様の声がしました。その声に反応して振り向くと、そこにはサルバ様と噂のご令嬢が、いかにも仲睦まじい様子で立っていました。
「メチカ嬢。僕は貴女との婚約は破棄する!そして、このルールー男爵令嬢と婚約しようと思う!」
「…あら、そうですか。そもそも婚約などいたしておりませんけど」
「……は?」
「もう2ヶ月前の約束を忘れたのですか?2年経っても私を好きでい続けたら婚約すると。私はまだどの男性も好きになっておりませんし、むしろ私との約束を破ったのはそちらではないですか?」
「…え…そ、そんな…」
「ですので、私はこれから婚約してくれる男性を探します。もうすぐ18になって行儀見習いも終わりますし、これで気兼ねなく婚活を」
「ま…待ってくれ…ど、どうして…」
…ん?サルバ様の目が光を灯さなくなりました。きっと動揺しているのでしょう。
私という存在がいて傲慢になってしまった故、手放すのが惜しくなってきたのでしょうか。
ですが、ここは鬼にならなければなりません。辛いですが、はっきり突き放してサルバ様から離れなくては…!
「…正直言って、サルバ様はもう好きではなくなりました。他の女性に現を抜かす男性は結婚しても不倫をしてしまうでしょう?私は私だけを愛してくれる殿方と結婚したいのです。ですので、サルバ様とはもう」
「い…嫌だ!メチカは、僕のだ!小さい頃からずっっっと見てきたんだ!行かないでくれっ!」
そう言って、サルバ様は突如ルールー嬢を突き放して駆け出し、私にギュッと抱きついてきました。
…え?どういう事…?小さい、頃から…?
しかも、私の肩に雫のようなものが落ちてきてますが…もしかしてサルバ様、泣いてます?
「うっ…ひっぐ…メチカぁ…いかないでぇ…」
「…そう言われましても、先程私を言葉で突き放したのはサルバ様ではないですか?」
「…ふぇ…?そうだっけ…?おぼえてない…」
なんと!覚えてない、ですと!?
あんなに先ほど私と婚約破棄すると豪語しておいて、忘れてしまったとか、身勝手が過ぎます!
段々ムカついてきた私は、箒を手放し、その勢いのままサルバ様を身体から離しました。
「サルバ様!先程言った言葉お忘れになったのですか!?まさか、私に嘘ついてませんか?」
「っ!違う!僕、嘘ついてない!僕はメチカ一筋なんだって!…信じてよ…」
「でも…」
「…もしかして僕、メチカに何か変なこと言ったの?だったら、ごめん…。でも、婚約してないって言わないで…。僕の事好きじゃないって言わないで…。雰囲気も怖いし、モヤの中で唯一聞こえた言葉がそれって悲しいよ…」
「え?モヤ…ですか?」
「うん…。なんか…学園に行ってから、頭に紫のモヤがかかってるような感覚があって、ボーッとなるんだ…。ほとんど何も聞こえなくなるし、考えることも放棄しちゃうんだ…。1人で家に帰る時はそんな事ないんだけど、今日はモヤが一層濃くて…」
…ふむ。紫のモヤ、ですか。確か昔、ウェールズ家の家令から「モヤは猛毒です。頭にかかるととても危険なんです」と言っていたような…。
「…サルバ様。それ、もしかして危険なものですよね」
「…きけん?…そうなの?でも、たまに頭が痛くなったりもするんだ…。しかも、抜け出せないし…。学園行くと必ずそう…。メチカを大好きな気持ちも忘れちゃって…。ごめん、メチカ…」
「いいえ。私は気にしてません」
「…そっか…。よかった…」
私の言葉に安心したのか、サルバ様は顔を上げて優しく微笑みました。
目が赤くなっても可愛いとは、本当に罪作りな子ですね。
私は軽いため息をつきながらも釣られて微笑むと、サルバ様はそれを見てさらに目を細めて嬉しそうに笑いました。
その時、
「ねえ、ちょっといい?」
と言いながら、ルールー嬢がズカズカとこちらに歩いてきました。ドレスをあげてガニ股で歩いてきて、なんかはしたないですね。…直接はっきりとは言いませんが。
「…ルールーさん?どうかなさいました?」
「ルールーさんって何よ!もうすぐ公爵夫人になるんだから様をつけなさいよ!様を!」
「…はぁ…でも歩くマナーがあまりよろしくはないかと…」
「そんな事は今はどうでもいいのよ!それよりも!そろそろ、私のサルバ様を返して頂戴!貴女みたいな年増には似合わないわっ!」
「と、年増って…」
「うっうぐっ…!あ、あたまがっ!痛いっ!」
「えっサルバ様!?」
ルールー嬢が更に近付いて怒鳴った途端、急にサルバ様が頭を抱えてうめきだしました。
…これでサルバ様が先程言った事は概ね正しいと理解しましたが…もしや、このモヤは彼女が操っているのでしょうか…。
となると、とてつもなく大変な事態発生ですよ、これ!サルバ様が誰を好きでも、モヤをどうにかしないとサルバ様が死んでしまいます!
とりあえずサルバ様を抱きしめ、なるべくルールー嬢と距離を取るよう、彼の頭を後ろに少し引き寄せました。
すると、サルバ様は少し頭痛が治ったようで、ほっとした表情を浮かべました。
これでよし!あとはルールー嬢に帰って貰わなくては…。
「ちょっと貴女!なんでサルバ様を抱きしめているの!彼を抱きしめていいのは私だけよ!」
「…緊急事態なので、こうしたまでですが?むしろ先に私に抱きついたのはサルバ様です。貴女の方はどうなんですか?サルバ様から抱きつかれた事はありますか?」
「っええ!もちろん!『好きだよ』って言って抱きしめてくれましたわ!他の殿方もそうなの!私を可愛いと言って抱きしめてくださいますの。ふふっ、羨ましいでしょう?」
「………」
…え?ちょっと待って?ルールー嬢、まさかの逆ハーレムやってます!?…うわぁ、マジですか。
いやでも、今のサルバ様は私の事が好きだと言っていますし…。本気で泣いていたので、こっちが本当の気持ちなのでしょう。
つまり、紫の猛毒なモヤは殿方の意識を変えてしまう効果があるという事。そして、ルールー嬢はそれを使ってまでサルバ様を振り向かせたい、という意図があった可能性が高いという事が分かりました。
…しかし、サルバ様の婚約者になりたいのなら、逆ハーレムは普通しないのでは?
頭をひねってうんうん唸っている私を、落ち込んでいると勘違いしたのか、ルールー嬢は突然高笑いをあげました。
「ふっふふふっあっははははは!あらあら。もしかして私の可愛らしさや素晴らしさに落ち込んでしまったのかしら?であればさっさとサルバ様を返して頂戴。私の方が彼に相応しい時期公爵夫人よ!」
「……はぁ…。ではお聞きしますが、他の殿方にも抱きしめられているという件について、貴女はそれを容認しているという事でよろしいのですね?」
「ええ。多くの男性から好かれるのはステータスのようなものよ。表情が死んでるような人気がなさそうな貴女には到底無理な話だけど」
「ステータス…。であれば、そのステータスを翳してまで、貴女はサルバ様に何をなさったのです?」
「…え?な、何もしてないわよ!何勝手な事を言っているの貴女!」
おや?明らかにルールー嬢が慌てておりますね。やはり後ろめたい事があるんでしょう。
引き続き、私は慎重に言葉を紡ぎました。
「…そうですか?ですが、今サルバ様は紫のモヤで苦しんでおられます。紫のモヤは猛毒だとウェールズ家の家令からお聞きしました。最悪の場合、脳が壊死して帰らぬ人になるそうですよ?」
「えっ!!嘘っ!あの特定の相手を無理矢理振り向かせる限定アイテム、毒だったの!?サルバ様、死んじゃうの!?」
…ん?限定アイテム?しかも「特定の相手を無理矢理振り向かせる」ものが毒だって知らなかったのですか!?
開いた口が塞がらなくなり、呆然とルールー嬢を見ました。
ルールー嬢はというと、私の言葉に取り乱しています。しかも訳の分からない言葉を発しています。
「という事は第二王子も騎士団長の息子も天才魔術師もあのアイテムで死んじゃうってこと!?そんなのありえない!だって私はヒロインよ?乙女ゲームの『キラリ⭐︎トキメキ学園』でハーレムを作る運命なのよ!?全員死なないに決まってるじゃない!」
…ひろいん?おとめげーむ?きらりときめき学園?
理解不能な言葉の数々に段々頭が痛くなってきましたが、このままだと話が進みませんね。
私は頭を左右に軽く振り、気を取り直してルールー嬢を真正面から見ました。
「…それは私にはよく分かりませんが、とにかくそのアイテム?の使用はもうやめた方がいいと思いますよ」
「えっ、嫌よ!ハーレムを終えたら、正式にサルバ様のお嫁さんになるんだから!だって彼は将来の宰相なのよ?未来の政治を担うのは彼なの!そしてゆくゆくは、サルバ様と結婚して私だけの法律を作るの。宝石もドレスもケーキも舞踏会もお金も、全てが私の思うがままになるのよ!…貴女だって、サルバ様の事、好きなのでしょう?政治やお金目当てで、彼に近付いたのでしょう?ね、モブの男爵令嬢さん。おほほほほ」
「………」
なぜ、私が男爵令嬢だって知ってるんでしょうか…。しかもモブって…。
更に頭が痛くなってきましたが、これはきっと紫のモヤのせいかもしれません。
あと、政治やお金目当てではないですよ、決して。
だって、私の実家は田舎ですが、作った野菜とか牛乳とかは王室御用達の最高品質ですし。ゆくゆくは結婚してくれる男性を見繕って婿養子にしようとしてますから。
…あ。そういえば、2ヶ月前にサルバ様がプロポーズの際に言っていた事を思い出しました。
しかし、学園に通っているサルバ様の事です。このウェールズ家を継いで宰相になると言い出しかねません。
これは一か八か。私は意を決してサルバ様の身体を少し離し、彼の目をまっすぐに見ました。
「サルバ様、まだ紫のモヤが頭にかかってますか?」
「…モヤ?今は薄い、かな。メチカの声が充分聞こえるよ」
「そうですか。ではサルバ様にお聞きします。もし私が貴方をランスレー男爵家の婿にしたいと言ったら、どうしますか?宰相をやめて、嫡男を辞めて公爵家から離れて、私の家で一緒に暮らすのです」
「…え…?ぼくが…メチカの家で…いっしょに?」
「ええ。農業と酪農広がるのんびりとした領ではありますが、皆サルバ様を歓迎いたしますわ。そして、私も、一生貴方を愛すると誓います。…どう、でしょうか?」
「!!…うん!僕、メチカとずっと一緒にいたい!小さい頃から僕、視察で来てたランスレー領で農業をしたいと思ってたんだ!そこで出会って一目で恋に落ちたのがメチカだったから…。だから僕、宰相を目指すのやめて、公爵家を出てメチカと暮らす!学園で沢山学んで酪農も農業も頑張るから、結婚しよう、メチカ!」
「っ!はいっ!喜んで!」
サルバ様は目をキラキラ輝かせて、とても嬉しそうに微笑み、私を強く抱きしめました。釣られて私も嬉しくなって彼を抱きしめ返します。
見た所サルバ様はもうモヤに苦しんでいないようですし、これで一見落着ですね。
私の目の前にいたルールー嬢は肩をガックシと落として「…私が…ヒロインなのに…何で…」と呟いていました。…ひろいん?なんでしょう、その言葉は…?
とりあえず、ルールー嬢にはお帰りになさって、私はサルバ様と目を合わせて手を繋ぎ、公爵家の中へと戻りました。
※※※※※
さて、ここからは少し先の話をしましょう。
あれからサルバ様は、ウェールズ公爵に「男爵家に嫁ぐ件」について話をつけに行ってきたそうです。
公爵様は頭を抱えてらっしゃいましたが、サルバ様の弟君に今やっている事業を引き継いでくれるのだったら良いと条件つきで許してくれたそうです。やりましたね、サルバ様!
そしてルールー嬢はと言いますと、猛毒な紫のモヤを意図的に使っていた事が王族にバレて牢獄行きとなりました。なんでも、婚約者のいる王太子にまでそのモヤで誑かそうとして、側近の衛兵に見つかったんだそう。
そして王族に毒を盛ったという事で重罪人となったんだとか。あらやだ、怖いですね。
それからさらに約2年後。サルバ様は無事学園を卒業なさり、ウェールズ公爵家での引き継ぎも終わって、そのままランスレー男爵家の婿になりました。
ゆくゆくは新しいランスレー男爵となる予定で、私もその日が来るのをワクワクしています!
「メチカ〜、今日もいい人参が出来たよ〜!」
「まぁ、サルバ様!泥だらけになって…。しかも大量ですね」
「うん!これを使って舞踏会のディナーを作るんだと陛下が言ってきてさ。これはチャンスだって思ったんだ。それで、ゆくゆくは、ランスレー男爵家はすごいんだぞってのを皆に伝えたいんだ!そして、年上の妻もいいんだぞってのも伝えたいんだ」
「…まぁ!いい心掛けですわ。きっとこの子も喜んでくれますわ」
そうして私は自分の下腹部を優しく撫でました。そこにはサルバ様との新たな命が芽生えています。
「いつかこの子が生まれてくる日には、年上妻がいても認められるいい世の中になってくれたらいいね」
「ええ、そうですわね。身分も関係なくこの子にも人を愛する気持ちを持って貰いたいものです」
「うん。僕たちのようにね」
「ええ。…ふふっ。愛していますわ、サルバ様」
「うん。僕もだよ、愛しのメチカ…」
そして、私はプロポーズされた時には出来なかった口付けをサルバ様と交わしました。
こんな未来、誰が予想できたでしょうか。赤ちゃんと、可愛くて優しい年下の夫を手に入れることが出来て私は幸せです!
こうして私とサルバ様は、のんびりと豊かな領地で、いつまでも仲良く暮らしました。
めでたしめでたし。
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