元魔王様と人族の街 3
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シュミットの馬車に揺られて街を目指し、到着したのは夕方頃であった。
ジルが持ち運ぶと言ってしまったので、道中にあった薬草の類を大量に収拾したからである。
その結果到着まで随分と時間が掛かってしまった。
途中で収拾を切り上げさせなければ、門が閉まって街の中へ入れなかっただろう。
「ところでジルさんは、冒険者やないって言っとったけど身分証とかは持っとるんか?」
街に入る為の検問の列に並び、シュミットが尋ねてくる。
今日転生してきたばかりなのだ、当然そんな物は持っていない。
「持っていないな。無いと入れないか?」
「大丈夫やで、ちょっと門番と話してくるわ。」
シュミットが馬車を降りて門番に金を渡しにいった様だ。
そのおかげでジルにも通行の許可が出た。
「さて、行こか。それと今後も街を出入りするなら、身分証はあった方がええで。」
「身分証か、どの様に作るのだ?」
街で生活すると決めた訳では無いが、人族の暮らしをしていくならば持っておいて損は無い。
「手っ取り早いのは、冒険者ギルドで冒険者になる事やな。」
「冒険者か。」
存在は当然知っている。
魔王だった頃に勇者の他にも大勢の冒険者がよく押し掛けてきたものだ。
地位や名声を夢見ての魔王討伐だった様だが、大半は勇者にも劣る者達だったので相手にもなる筈が無かった。
なのでジルの中での冒険者のイメージは、無謀な戦いをする者という印象が強い。
「ジルさんは強いからな。一攫千金の夢もある冒険者はええと思うで。それに冒険者カードは身分証にもなるからな。」
魔王討伐の様な危険な依頼も多い冒険者は、ハイリスクハイリターンであり死ぬ危険が高い。
それでも大金や地位を夢見て、なりたいと思う者は多いのだ。
「ふむ、では後で冒険者ギルドに向かってみるとするか。」
自分を殺しにきていた者達と同じ冒険者になるのは不思議な気分だが、身分証を手軽に入手出来るのならば利用しない手はない。
街に入って暫く進むと、周りの建物と比べて一際大きな建物が見えてくる。
看板には大きくシュミット商会と書かれている。
「ここがわいの店や。薬草はそこに置いといてもらえるか?」
ジルは無限倉庫に収納してあった大量の薬草を指定された場所に出す。
突然出現した大量の薬草を見て、従業員や客が驚いている。
「いやー、ほんまに助かったでジルさん。わいの商会を利用する事があったら安くしとくからな。それとこれは命を助けてもらった分、薬草の分け前、護衛の謝礼や。街で暮らすんやったら、幾らでも必要になるやろうしな。」
そう言ってシュミットは、店の中から大きな袋を一つ持ってきてジルに渡す。
ジャラジャラと中の物が音を立てており、相当な量が入っている事が分かる。
「悪いな。」
礼を言ってはいるがジルは金銭のやり取りを行なった事が無いので、中に入っている物の価値は分かっていない。
「こっちこそ思わぬ収入も得られたしな。それより目立つから早う仕舞った方がええで。」
「ん?分かった。」
ジルはシュミットの言われた通りに無限倉庫に袋を収納する。
「ほな、わいは用があるから失礼させてもらうで。また機会があったら頼むわ。」
シュミットは挨拶を済ませると直ぐに薬草の元に向かい、従業員と話し合っている。
早速持ち込んだ薬草類を商売に使うのだろう。
「我も向かうとするか。」
馬車での移動中に冒険者ギルドがどの建物か教えてもらったので場所は分かる。
少し歩くと冒険者ギルドと書かれた看板が見えてきた。
もう直ぐ日が沈む時間帯と言う事もあり、ギルドに近付くに連れて冒険者が増えてくる。
依頼を終えた冒険者達もギルドに向かっているのだ。
ギルドの中に入ると広々とした作りになっており、見渡す限り冒険者ばかりであった。
酒場のスペースが中に設けられている事もあり、とても賑わっている。
「ここが受付でいいのか?」
前世を含めて冒険者ギルドに入ったのは初めてなので利用方法を知らない。
一先ず他の冒険者達に習って、複数の女性が並んで座っている窓口の中の空いている場所に近付いて話し掛けてみた。
「はい、ようこそ冒険者ギルドへ。依頼の発注でしょうか?」
長い茶色の髪が特徴的な若い人族の女性が微笑みながら尋ねてきた。
冒険者の看板とも言える受付嬢だけあって、容姿はかなり優れている。
「いや、冒険者になりたいのだが。」
「えっ?冒険者ですか?」
ジルの言葉に受付嬢は少し驚いた様に聞き返してくる。
「何か変な事を言ったか?」
冒険者ギルドに来て冒険者になるのは普通の事だろう。
今の発言に何か不自然なところがあったかとジルは疑問に思う。
「いえ、何も問題ありません。気分を悪くされたのなら申し訳ありませんでした。」
受付嬢が深々と頭を下げながら謝ってくる。
「謝る事なんかねーだろ、ミラちゃん。そいつ弱そうだもんな。」
「ん?」
後ろを振り向くとジルの背丈を軽く上回る大男が立っていた。
頬が赤くなって少しフラフラしており、酔っ払っているのは一目瞭然だ。
「おいガキ。てめえ冒険者になりてーんだってな。」
酔っ払っていても冒険者として培った実力があるのか、中々の迫力である。
子供であれば泣いて逃げ出しそうなレベルだ。
「そうだが、何か用か?」
「てめえみてえな弱そうな奴が冒険者だと?笑わせるな。冒険者になっても直ぐ死にそうだから、優しいミラちゃんは気にしてんだよ。」
先程依頼を出す側だと勘違いしたのは、ジルが戦える様には見えなかったからだと、目の前にいる酔っ払いの冒険者が言う。
確かに自分的にも見た目からは強そうには見えないし、武器も所持していないので、そう見られるのも納得であった。
「ふむ、特に問題は無い。手続きを頼む。」
ジルは受付嬢に向き直って話しの続きに入る。
強そうに見られていない事は分かったが、特に気にする事は無い。
冒険者となって身分証を手に入れるのが目的なのだ。
「おい、俺を無視してんじゃねーぞ。ガキは帰って寝てろ。」
無視された大男は怒りながらジルに手を伸ばしてきた。
「邪魔をするな酔っ払い。」
ジルは伸ばされた大男の腕を掴み、片手で持ち上げて軽く床に投げてやる。
怪我をさせるつもりは無いので、力は殆ど入れていない。
冒険者は背中から床に叩き付けられた様に見えるが、特に痛がっている様子も無い。
だが大男に比べて小さなジルが投げ飛ばした異様な光景に、周りの皆は目を丸くしていた。
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