1話 独立
船を降りてから、港町を歩くのは心地良かった。
まず揺れない地面が良い。そして、誰も俺に好奇の目を向けてこないのがもっと良い。
行き交う人々の髪の色や顔立ちが、俺の育った仙郷の人たちと全く違う。
仙郷を出奔してから、だいたい半年。ようやく両親の故郷に近づいたと実感する。随分と遠かった。
「着いたぞ。ここが冒険者ギルドだ。本当に良いんだな? お前だったら、専属の護衛にしてやっても良いんだぞ?」
案内してくれていた黒髪の商人が、一つの建物の前で足を止める。建物の前でたむろしている男たちは、全員が武装していて、その中には明らかに堅気ではなさそうな人たちも混ざっていた。
「ありがとうございます。でも、自分一人の力でやってみたいんです」
「そうか。じゃあ達者でな。これは餞別だ。考えて使えよ?」
商人は革袋を渡してくる。中をのぞくと、見たこともない銀色と茶色のお金が数枚見えた。ここまでの護衛料の相場がよくわからないが、おそらく結構な大金だ。
「ありがとうございます。大切に使います」
お礼を言って、去っていく商人を見送る。雑踏で商人が見えなくなってから、俺は冒険者ギルドの敷居を跨いだ。
ここから先、両親の故郷までは陸路になる。護衛依頼を探すか、お金を貯めて自力で行くか、どのみち冒険者ギルドに登録しなければならない。
冒険者ギルドに入って、少し奥にあるカウンターに向かう。ギルドの中にはホールがあり、机と椅子が不規則に並んでいた。ほとんど満席に近く、中には朝から飲酒している者までいる。
歩きながら外套を脱ぐと、ホールの冒険者たちから一気に注目が集まってきた。そういえば、ここにはこういう鎧を着ている人はいないようだ。鎧も地域によって少しずつ違って面白い。
「kyou ha nannnoyouda?」
カウンターで受付をしている男性に声をかけると、よくわからない言葉で声をかけられた。
「維という国から来た冒険者のヴォイドだ。ここで仕事を探している」
軽い自己紹介をしてから、冒険者登録者証をカウンターに置く。小さな木の板に、墨で登録内容が書かれているものだ。
受付の男は登録者証を一瞥して、肩をすくめた。面倒そうに登録者証を返してくる。
『kokojatukaenaize?』
ふむ。やっぱりわからない。俺は維の国でよく『西蛮人』とという呼ばれ方をしていた。言葉が通じない蛮族という意味だったらしいが、まさか、ここの連中は本当に言葉が通じないのだろうか?
「ちゃんとした言葉を喋ってくれ」
丁寧にお願いするが、受付の男の態度がまったく変わらない。言葉もわからない奴を受付に置くとか、新手の嫌がらせだろうか。
「tuuyaku wo turetekoi. hanashi ha sorekarada」
段々とイライイラしてくる。身振り手振りで追い返そうとしているのがわかった。だが、ここで稼げなくては、両親の故郷への道は開けない。
「おい! 誰か!? 言葉のわかる奴出てこい!」
話にならないので、大声で奥に声をかけた。俺の怒声に反応したのか、ホールがざわつきはじめる。
「oi. otituke」
後ろから、肩を掴まれる。またわけのわからない言葉だ。ちゃんと話せる奴はいないのか?
強面の冒険者に2人がかりで両脇をがっしりと固定され、そのまま外まで連れて行かれてしまう。そして、そのまま路上に放り出された。
「何しやがんだ! 俺は仕事をもらわなきゃなんねぇんだ!」
立ち上がって抗議する。が、また変な顔をされた。
「wakannexeyo」
「どけ!」
とりあえず、入り口に立ち塞がるように立つ冒険者の横を通り抜けようとする。
が、今度は2回転ほどしてから、地面に激突した。どうやら思いきり殴られたらしい。
「何すんだ! この蛮族が!」
やられたらやり返す。一人に蹴りを入れて、もう一人に圧縮した霊力を込めた拳を叩き込んだ。
――乱闘になった。
読んでいただきありがとうございます。
第一話は『受験生の異世界転生 〜脳筋な下級貴族の息子だけど、教科書の知識だけで生きていけますか?〜』の20万PV記念スピンオフとなっています。本編もよろしくね~