「淀む心」
中は思ってた以上に綺麗だ上層はあんなにちっぽけな宿屋なのにここの研究所は何倍もの広さがある。そして彼らは気付いてしまった、私という存在を認知してしまったようだ。
研究員のいる部屋からは獣の声やら人の声が聴こえる、それはとても気持ちが悪く耳が痛い。
私に気づいた人間達は武器を持ち、たった一人だってのに何百人体制で私を歓迎する一部からは実験生物を解き放っている。無意味で無駄な労力と虚無な世界なんざ私が壊してやる、例えそれが誰にも知られなくとも私は誰にも話さないそれが私の罪なのだから。
女性は一人剣を作りだし、縦横無尽へ駆け上がる誰にも知られず彼女だけの物語は終わらない。
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血を流す渇望、怒りを昇華せし一輪の花の姿は薔薇色に染まり辺り一面血の海。握る拳は臓器を破裂させ血を流し踏みつけた。
「他愛もない相手、欠伸が出てしまう」
斬り終えた死体を踏んづけて私はあの場所へと向かう。
初めてオルカと会ったのもあの培養液が並ぶ部屋だった、私は何も知らず自分は病を患ってると思い込んで注射を受けた。でもそれは違かった、奴等は私の身体を好き放題に改造して心も身体も壊れてしまった。記憶も殆ど失い精神安定剤を飲まないと狂ってしまう程薬物依存症となってしまった。その一部屋がこのオルカ研究所最深部。
研究所奥へと進むとその部屋は確かにあった―――― だがそこには変わり果てた施設内となっていた。
培養液には沢山のオルカのクローンが入っており何故かスライムみたいな形をしたヌルヌルとした液体が囲んでいる。取り敢えず入って確かめるとその正体が明らかとなった。
「あらあらユイ、帰ったの??」
私の知ってるオルカは何処にも存在しなかった。
上半身は人なのだが腕が液状化して骨が剥き出しになり下半身はスライムと一体化している。
「悪趣味ね」
私が言葉を吐き捨てるとオルカはグチャグチャと音を立てながら此方に向かってくる。大きさは約四メートル、最早人ではない。
「ユイ見てご覧、貴方のそっくりなクローンがこんなに…うふふ…私は気に入った女をスライムで溶かして一体化させてるの。そうすれば私と彼女は一心同体になるでしょ?」
「成る程ね、騎士団や戦士達の酒場の掲示板に女性行方不明が最近増えてきたのはアンタが取り込んだからなのね」
私の言葉にオルカは嬉々としてその亡骸をスライム状の中から取り出した。
「ざっと四十人、皆素敵な女性だったわ♪だからねユイ、"アナタのその身体も頂戴"」
その言葉に悪寒を感じるが私は一つ聞きたいことがあった。
「アンタ、サナエ・アポカリプスに一度会った?」
その言葉を口にするとアイツはにたにたしながら躙り寄ってきた。
「うふふ、偶然変装して商品を売ってたら可愛い女の子に出会ったのよ、髪は確かワインレッドだったかしら?その子は体調に気を使ってるからおまけに栄養剤の中に惚れ薬と幻覚作用を混ぜ合わせた物を盛って実験したけど地球に帰ったから付いて行けなかったのよ〜♪」
やはりこいつか、サナエちゃんも無用心だけど身体に気を使ってるからこそ飲んでしまったのかな、後で私の方で打ち消しの飲薬を渡してあげないと。
「ま、あの子落第生だったからもし良ければ抱いてあげたのに・・・残念」
彼女はにこやかな狂気じみた笑顔で私に手を翳した。
「まいっか、ユイを抱けばいいし、貴方も私の一部に為りなさい」
すると突然何処からか脚を掴まれた、それはヌルヌルで気持ち悪くそして何より…
「ちっ!!熱っ!!」
肉が焦げるような痛み、掴まれた足を見るとスライムが私の足を溶かしているではないか。逃げようとしたが両腕を束縛されてしまった。
「あっ…がががが」
服が氷のように溶け肉が焼かれる音がする。私は炎魔法で両腕を燃やすとスライムは溶けてなくなった。
「美味しそうな匂いね、ゆっくり食べてあげるからねユイ♪」
彼女はもう脱走した私を食い物としか見ていない、だから私は遠慮無く殺すことを決めた。どうせ薬漬けにされるなら殺された方がマシだし、私は剣をもう一度強く握り締めオルカ殺害計画を開始した。




