「悪鬼羅刹、心火せし我が怒り」
光が闇に飲まれる頃、水星へ見参す、一応誤魔化しにはアリアちゃんに呼び出しを食らって急遽出向いたと言う嘘を吐くことにした、子どもには悪いことをしてしまったな。後悔しても時すでに遅し諦めよう。
「それにしてもこの研究所には見飽きたな」
向かった矢先には水星の都から遠く離れた宿屋の皮を被った研究所だ。私しか知らない場所に恐らく奴がいる。皇帝のレヴィアサンが知ってるかはさて置き宿屋の中に入る、相変わらず内装は宿屋らしく受け付けの女とそこから分かれて個室が沢山見える。
「お一人様ですか?」
物色すると受け付けの女は声を掛ける、白々しい卑しい女だ。あいつの巣になってることを知ってるクセにシラを切るのか。
「オルカはどこ?」
私はその名前を聞くと小首を傾げる。少々困惑した表情に苛立ちすら覚える。受け付けの女は何故胸を露出してるのか、豊満なバストを見せつけてるのか知らないが私には興味ない。
ユイは自分の懐からナイフを取り出して受け付け目掛けてわざと外した。その光景に受け付けの人は怯えて口が震えている。
「ほ、本当に知らないんです!信じてください!」
「あくまでシラを切るか…私はこの場所で何度も実験体として得体の知れない注射を打たれた!苦しくて頭が割れそうで脳味噌が蕩けるような感覚だった!私が間違える筈が無いのよ」
睥睨し受け付けの女が叫ぶとその背後から男が四、五人集まって来た。予想通り用心棒のご登場ってことか。大きなガタイの良い男は私の肩を叩くと脅し文句にナイフを首元に突き付けられる。目は完全に殺意満々だが私は動じない。
「分かった、アンタ等が知らないとシラを切ると言うのなら仕方ないね」
薄気味悪い笑い声を発しながらユイは鋭い眼光で目の前の男に向かって言い放った。
「死んでよ、アンタ等」
私の復讐は生易しい物じゃない、こいつ等に見せつけるには打って付けだ。
だから私は女以外を皆殺しにしてやった。生成した光の剣で切り捨てた、デカい割には臓物は脆いものだ。
「ひっ!?」
血飛沫が顔面や服に着いてしまったが後は用済み消すまで、私はブーツの音を立てながら血溜まりを踏みつけ受け付けのカウンターを蹴り飛ばして女の首を掴んだ。
「ば、化け物ッ!」
「やっと本性を現したか…うふふ」
女性の首は掴みやすくて折りやすい、程よく絞め上げると女は涙を溢しながら助けを乞う。私には何一つとして聴こえないけど死にたくないらしい。
「御願いしま―――― 死にたくない!」
足掻こうも抗うも無駄なのに、抵抗虚しく口から泡が吹き出て血走った瞳で何度と命乞いをする。
でもね…無駄なのよ。
「さようなら」
首を圧し折り、喉元を仕込みナイフで掻っ切り、下半身まで剣で掻き出してやった。私にはそんな命乞いすら言う権利すら無かった、奴隷のように、ロボットっとのように人形扱いされ道具にされ人権なんて存在しなかった。
光は翳り、殺害なんか息を吐くように殺し続けた。何千もの殺し、意識の無い世界で私は生き続けた。
のうのうと生きている私を玩具扱いした奴を許さない、それが知らぬ人だろうが研究員の仲間や知り合いは皆殺しだ。この女もその一人となってしまった、こんな場所で仕事なんかしてるから殺されて当然よね。
自己満足と自己犠牲、卑下と葛藤に悩まされてもう壊れてしまいそうた。悪辣なる所業にいつかは報いを受けるだろうが私はもう止まらない。
私は死体を蹴り飛ばして進むとカウンターの横に何やら隠し部屋らしきものが床に設置されていた、隙間から指を入れると引っ張るも微動だにしない。
何度か力よく開けようとした。
「つっ!」
爪が割れてしまった、生爪が剥がれてしまってる箇所はあるが痛みを感じない。だが同時に苛ついたから踵を落として無理矢理破壊した。
「殺してやるから待っててね……貴方の真の臓物を見るのが楽しみ♪」
ケタケタと取り憑かれたように嗤いながらユイは隠し部屋の闇の中に誘われて行った。下は階段だ、何処まで続いているのだろうか?




