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漂浪〜霊感少女の日常記〜  作者: 桜餅
序章
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序章 第一話 幼き日々

 

 幼い時の話である。小さい頃、私には空想力があった。空を飛んだり、素早く走ったり空想上の友人を作ったり。


 しかし空想に浸りすぎたため、私は精神的に病んでいる。そう診断された。


 その頃は稀だったのだろう。私の学校は当時、団体登下校ではなく、バラバラに帰る体制であった。他の地域よりも安全で穏やかなところだったからだ。


 小学三年生の時。私はいつものように空想しながら帰っていた。足元はいつの間にか水色になっていて、赤、青などの色とりどり美しいひらひらとしたヒレを持つ魚が泳いでいる。私が一歩踏み出すとそこには波紋が広がり、一瞬虹色に光る。


 勢いよく飛び跳ねると波紋が大きく、そして虹色に光る時間が長く感じられたので、ウサギのように跳ねながら家に向かっていた。


 空想上のものなので触れなかったが、色や形、音や匂いを想像するのは好きだった。だから私が跳ねるたびに水のパシャリと跳ねる音がした。その飛び散る水滴まで虹色に輝く。


 強い風が吹いた。ハッとして自分のスカートを押さえる。ちょうど母に足を広げて座っていたら『そんな座り方をしているんじゃスカートは駄目だね』と言われたばかりだったのだ。


 スカートを押さえたはいいものの二つに結んだ髪が前髪が私の視界を一瞬遮った。

 春風の時期で桜の花が散る頃であった。強い風が吹いていたのも無理はない。髪を押さえてスカートをいい位置に直して顔をあげるとそこにはすでにさっきの風景はなかった。


 空想は一瞬でも途切らすと同じ空想はできない。空想することに飽きた私はそのまま帰宅することにした。


 当時体の小さかった私はちょっとした距離もとても長く感じられた。空想しないで歩く道はとてもつまらない。だが、風が少し強いし寒いので早く家に帰って、本が読みたかった。


 私の歩く道は歩道がなく、白線も全く意味がないほど隅っこの方に引かれていた。その代わり車の交通量が少なかったのだ。右側に少し古びた居酒屋があり、それ以外は住宅街であった。居酒屋を過ぎたところに大通りがあり、二車線になっている。しかしなにぶん交通量が少ないから私はいつもど真ん中を通って帰っていた。相変わらず白線は隅っこの方に引いてある。どちらにせよ、この時間帯は歩行者優先の通行帯になっていたので、真ん中を歩いていても平気だったのだが。


 道路の真ん中にカラスが止まっていた。幼稚園の時にカラスに頭を突かれた経験があるので少し躊躇しながら私は歩き始める。右に曲がった、その時少ししか近づいていないのにそのカラスは勢いよく鳴きながら飛び立った。


「ひやぁ!」


 どてっと尻餅をついた私はハッとして足を閉じる。ぱっぱと何事もなかったかのようにスカートについた砂を払って顔をあげる。頬に鋭く何かが刺さっている感覚がした。私は右横を向いた。先ほどの居酒屋である。ガラス部分になっているところから暗い店内が見えた。誰も人はいない。だけど今視線を感じた。


 少し薄気味悪く感じて、私は早足で歩き始める。


 まだ三時で五時から始まるそこの居酒屋には誰もいないことを知っていた。父がここで飲むのが好きだったから、ここの奥さんとも知り合いで別のところに住んでいることを知っていたからだ。


 帰り道には基本誰もいない。ここら辺に帰宅する同じ学校の生徒がいないし、ちょうど今はどこの家の人も家の中に入っているため、誰もすれ違う人がいない。私は大通りを進んでいくと左側に広い駐車場があった。車が一つしかないのでこの時間帯は広い空き地のようになっている。ゴミ箱や遊具が風によって揺れているのがその時は嫌な感じに見えた。


「…早く帰らなきゃ。」


 このまままっすぐ行けば家がある。そう思ってほっとしたその時だった。


 向かって正面の方向からザワザワと人の話し声が聞こえた。それも大勢の声である。よかった。そう思ったはいいものの、その言語が知らないものであることに気づいた途端ひやっと汗が出てきた。


 英語、中国語、アラビア語、ドイツ語…今なら他の言語が思いつくが、当時は何も知らなかった。


 そのため私はピタッと固まってしまったのだ。咄嗟に隠れないとと思ってその空き地にあるゴミ箱の後ろめがけて走っていく。道のりが嫌に長く感じれて私はやきもきしたようなお腹が痛くなるような思いをした。咄嗟にゴミ箱の裏に隠れて私はその裏からゆっくりと目をのぞかせた。


 ドクンドクンと脈打つ心臓、ジワリと溢れ出る汗、短く切れる息、太ももやふくらはぎに食い込む小さな砂利痛み、びくびくとなるお腹。


 見えた。


 『それ』は決して人間と言えるような姿じゃなかった。妙に平べったい黒い体に二メートル以上はあるだろう長身。すっぽりと黒いマントを被ったかのような体に一番上についているのは白い紙で作られた顔だった。黒いマントだと思ったのだが黒い靄が時折そこから離れるので布でもないようだ。


 ひぃと漏れる息を押し殺してそれから目を離さないように隠れる。


 その時それは手を振るかのように枝のように細長い腕についた不気味なほど大きな掌をこっちに向けて振った。白い紙のような顔がこっちに向けられた。バッと私は口を塞いで顔を引っ込めた。


 素足のようなペタペタと歩いてくる音が聞こえた。心臓がばくばくいって視界が涙で見えなくなってくる。体はうまく動かなくてガチガチと歯がなっていた。


「あ〜?」


 声がすぐ近くで聞こえた途端、私は勢いよく立ち上がった。逃げなきゃ逃げなきゃ。


勢いよくその黒い変な奴を振り切って駆け始める。五歩走ったところで黒い奴がぐぐぅと二メートルぐらい手を伸ばしてきたので私は必死にその腕の下を滑り抜けて空き地からまっすぐ前に走り始めた。両膝とも擦り剥けて酷い痛かったか今はそれを気にしているどころじゃなくて、そのまままっすぐ走り続けた。団地を通り抜けて左側に曲がる。


まだ変な声が聞こえる。よくそれを聞いていると、沢山の人の声だった。赤ちゃんのような声からしわがれた声、男の人や女の人の声。泣いていたり笑っていたり。


 左側に曲がると高い塀があるお家がありそれがさらなる疎外感生み出していた。気づくと目の前、世界は真っ赤になっている。


 空想をしていないのになんでこんなことが起こってるの?


 曲がりくねった道を向かった先は高いフェンスで囲まれた土地だった。パイプや様々な工具が置いてある。私はその工具の後ろに隠れた。



 …逃げられない…!


 ひたひたと歩いていた足が急に違った音になった。じゃりじゃりという音になった。


 私は手に食い込む砂地を見つめた。もうそこまで来てる。


 そう思ったらもう何もできなかった。唇が震える。ぎゅっと目を瞑った。


 音が止まった。そう思った時私は目を開けた。木材に手をかけてこちらに体をねじり込んで覗き込んでいる顔があった。クチャっという嫌な音がした他途端、腐ったような匂いが漂って来た。白い紙の下にはその紙と同じくらい大きな口があった。ぼんやりとそれを見つめた。


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