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2.王太子殿下の誘いを断るのは不敬罪でしょうか


その日以来、エリザベスはあの失礼な男にも、何故か前の席に座った王太子殿下にも会っていない。目立つ存在である彼らを見かけることはあるものの、クラスが違うため関わりを持つことはなかった。

一学年二クラスしかない中で、違うクラスだったのは本当に幸運だった。


――では、先ほどアンソワ殿下が言った、『大丈夫か?』とはどういう意味だろうか。


(まさか、本当にナンパされたとは思ってない、わよね?)


さすがにそれはないだろう。あの後、きっとあの男が必死で弁明しただろうし……

エリザベスはとりあえず無難に返すことにした。


「お気遣いいただきありがとうございます。大丈夫ですわ」

「それなら良かった。レイフォード……あの時の彼が貴方に失礼なことをしたんじゃないかと心配だったんだ」


殿下の言葉をエリザベスは微笑んで受け流す。


確かにものすごぉぉく失礼ではあったけれど。

今思い返しても、ものすごぉぉくムカつく男ではあったけれど!


それでも殿下の前でご学友の悪口を言わない程度の節度はエリザベスにもあった。



『レイフォード・ユナイドル』


侯爵家の彼は、アンソワ殿下やエリザベスと同い年で、とても優秀な生徒……らしい。

いずれ王太子殿下の側近として活躍するであろう、将来有望な人物……らしい。

銀髪碧眼で女性受けしそうな甘いマスク、そして人当たりの良い彼は女性からとても人気がある……らしい。


レイフォードの噂はエリザベスの耳にも入ってくるけれど、エリザベスにはちっとも興味がなかった。

噂はあくまでも噂。しかもエリザベスはレイフォードと直接会って話をしている。

あんな人を馬鹿にした態度を取る男が、人当たりが良いなんて冗談でしょう? とエリザベスは耳を疑ったものだ。


思い返すと今でも嫌な気持ちになるけれど、あの出来事からもう三ヵ月は経っている。それを今さらになって、何故掘り返すのだろうか。エリザベスは改めてアンソワ殿下を見つめた。

エリザベスの視線に気付いた彼が、照れたように微笑む。


「実は……」


優しい雰囲気を纏わせながら、アンソワ殿下はエリザベスを見つめ返した。


「あの時の貴方の笑みが印象に残っていて、ずっと話をしてみたいと思っていたんだ」

「それは……恐縮です」


あの時の笑み……とは、あの男に言い返せて、してやったりという顔のことだろうか?

エリザベスには、レイフォードに向かってフフンと笑ってやった記憶しかない。


……つまり、アンソワ殿下の中で、エリザベスはよっぽどの悪女だと思われているのではないだろうか。


あの顔だけ見たらそう思われても仕方ないかもしれないけれど、実際のエリザベスは悪女ではない。

ただ玉の輿の狙っているだけの野心溢れる女でしかないのだ。


困ったことになった、とエリザベスは内心眉をしかめた。

このまま王太子殿下に悪い女だと思われていたら、今後男子生徒にアプローチを仕掛けるうえで、色々と不利益が生じるかもしれない。

そんな女ではないのだと、きちんと訂正しなければ……


そんなことをぐるぐると考えていたエリザベスに、殿下は予想の斜め上を行く言葉を発した。


「魅力的な貴方と、少しでもお近づきになりたくて」


(……ん?)


思っていたものと違う。

頭の中でエリザベスがはてなマークを浮かべていることなど知る由もないアンソワ殿下は、さらに言い募る。


「あの時の貴方は、周りに咲く薔薇よりも華やかで美しかった」

「……え……」

「もし良ければ、今後もこうやって話しをする機会をいただけないかな?」


爽やかな笑みを浮かべて尋ねるアンソワ殿下を前に、エリザベスはなんて返すのが正解なのか答えが分からなかった。


(……いや、そもそも貴方、婚約者がいますよね……?)


口元がひくつきそうになるのをなんとか耐える。

貴族としての立場を考えなくていいのであれば、今すぐにでもお断りしたい。

結婚相手を見つけるために通学している男爵令嬢のエリザベスにとって、婚約者のいる王太子殿下なんて対象外もいいところだ。むしろ、ただの危険因子でしかない。


――でも、王太子殿下からの誘いを断ったら、不敬罪になるのかしら?

――でも……でも……応諾したら、今度は王太子殿下の婚約者を敵にまわすことになる……?


(ど、どうする……私……!)


エリザベスは必死で頭を働かせたけれど、残念ながら今まで読んできた本の中からは、その答えは見つけられなかった。





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