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10.王太子殿下のお戯れ


「――何をしているの?」


 頭上から声をかけられて、エリザベスは慌てて顔を上げる。

 そこにはアンソワ王太子殿下が立っていて、エリザベスはようやく自分の失態に気付いた。


「え、えっと……」


 机の上に並べたままになっている家系図や姿絵を、殿下にバレないよう横目でチラッと見る。

 最近、図書室でレイフォードと会うことが増えて、自分以外の誰かが図書室にいることに違和感がなくなっていた。

 そのせいで殿下が入ってきたことに気付かなかったなんて、不用心にも程がある。


 言葉を探すエリザベスに対し、アンソワ殿下はエリザベスの手元の資料を見ると何かに気付いたようだった。

 一度考えるように視線を落とした彼は、すぐににこやかな笑みを浮かべるとエリザベスの前の席に座った。


「……結婚相手の候補者選び、かな?」


 疑問形ではあるものの、きっとアンソワ殿下の中では確定だろう。

 それでもエリザベスはしらを切ることにした。


「皆様のお名前とお顔を覚えたくて勉強中でしたの。今見ていたのがたまたま殿方のページだっただけですわ」

「そうなんだね」


 納得したように頷くアンソワ殿下に、エリザベスは心の中で安堵の息をつく。

 本当のこととはいえ、アプローチを仕掛ける男をリストアップしていたなんて、恥ずかしくて言えない。

 お互いニコニコと笑顔で向かい合う中、エリザベスの言葉を無視する形でアンソワ殿下が尋ねてきた。


「それで、ハートレイ男爵令嬢はどんな人がタイプなの?」

「……えっ?」


 思わずエリザベスの笑顔が固まる。


「貴方にはまだ婚約者はいなかったでしょう? どんな人がいいのかなぁと思ってね」

「そ、そうですね……」


 なんて答えるのが正解なのだろうか……


 エリザベスは必死で頭を働かせる。

 その結果、出てきたのは無難な回答だった。


「私は……男爵家のためになる縁談であれば、それが一番だと思っております」


 本当は……


 ――目指せ玉の輿! でも、愛人や妾は嫌!

 それに、財産はあっても私にお金をくれない人や、生理的に受け付けない人も無理!


 ……などと思っていることは綺麗に隠して、エリザベスは健気に微笑む。

 そんなエリザベスに、「もっと欲はないの?」と殿下はさらに尋ねてくる。


「欲、ですか?」


 強欲の塊のようなエリザベスに、何を言っているのだろうか?

 エリザベスが首を傾げると、アンソワ殿下は人当たりの良い、優しげな顔で言った。


「そう。例えば、王妃になりたい、とかね」


 ニコニコと笑う殿下を思わず凝視する。

 そして返事をするより前に、エリザベスは周囲を見回してその場に誰もいないことを確認した。


 ――こ……


 ……こ、怖いいいい! 今の話が万が一ルイーゼ様の耳に入りでもしたら、恐ろしいことになる!!


 先日のルイーゼとリリーシアの会話を聞いて、エリザベスはルイーゼが厄介な女であることを認識していた。

 ああいうタイプの女は、関わるとろくなことがない。


 エリザベスが酒場で働いていた時、常連客の彼女にもそういった女がいて、酒場まで乗り込んできたことがある。

 目立つ容姿をしているエリザベスは、仕事中、お酒が入ったお客さんたちから「可愛いね」だとか「抱きたい」だとか色々と言われることが多かった。

 本気じゃないと分かっているから、軽くあしらったり、お触りしようとしてくる客には制裁したりと適当に対応してきた。

 よく酒場に来ていたその男にだって同じように対応していたはずなのに、何を勘違いしたのか働いているエリザベスにいちゃもんを付けに来たのだ。


「このアバズレ女! よくも私の彼氏に色目使ったわね! アンタのせいで振られちゃったじゃないの!!」


 酒場に足を踏み入れた途端そう言って、手を振り上げてエリザベスに突進してきたことを思い出す。


(……あ、元彼女だったか……)


 とまあそれはどうでもいいけれど、ああいう女は男の不始末を他の女のせいにする傾向がある。

 ルイーゼからも同じ匂いがして、エリザベスは出来る限り関わらないようにしようと思っていた。


 それなのに……


 思わず現実逃避をしてしまったエリザベスは、つい先ほど爆弾発言をしたばかりの男の顔を見つめる。

 優しげな目と下がった眉が人の警戒感を薄れさせる、黒髪黒目の王太子殿下。


「……そんな恐れ多いこと、考えたことなどございませんわ」


 エリザベスが言葉を選びながら慎重に答えると、アンソワ殿下はニコニコと笑いながら言った。


「そうなの? それは残念だなあ」


 ――言葉遊びが過ぎますよ、殿下……!!


 アンソワ殿下の発言のせいで、エリザベスは誰もいないことを確認するために、もう一度周囲を見回すこととなった。






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