第10話 元魔王、社長の前で魔法を披露する
専務は「ここで待っていてください」と言うと再び社長室に入って行った。と思ったら直ぐに俺も呼び戻された。
「ごめんさないね。用事はスマホだけじゃなかったわ。あなたのマジックがどこまでできるのか確認したかったのよ。ここで何でも良いからやって見せて頂戴」
そう言う事か。社長も俺の魔法が見たかったのか……。ではとっておきの物をお見せしよう。
「社長の好きなものは何ですか?」
「お金よ」
「わかりました」
俺は社長の目の前で手を合わせるせ「召喚!」
大きく手を広げると社長の目の前に山の様な札束が現れたのだった。
「ちょっと、何これ…… 全部本物じゃない! どこから出したの?」
ふふん~ 驚いているね。俺の魔法ではこんなの朝飯前の夕飯後だ。
「あなた、こんなにもお金を持っていてどうして漫喫暮らしだったのよ」
「社長、いくら本物でも小道具に使っている物は大事ですから」
「それでも限度ってあるでしょ。これ、いくらあるのよ~~」
「落ち着いてください。椿君、他にも見せてくれないかな。出来れば普通のマジックらしいものを」
普通のマジックってどんなのだ?? 聞くか……
「例えばどんなものだ?」
「そうですね、例えばここに在るコップにコインを入れるとか、トランプのカードを当てるとかさ」
「なんだ、そんな事で良いのか」
「準備が居るなら少し時間を取るよ」
「時間など要らん。簡単にできるぞ」
俺は空間収納から小銭を取り出すと、コップの上からコインを入れた。
「「ブハハハハ~~~~~~~」」
「あなた、ギャグも出来るのね~」
「それ、俺にでも出来るわ~」
何処がおかしいのかさっぱりわからん。コップにコインを入れろと言われたから入れただけなのに……
「意表を突かれたわ~。今度はちゃんと見せてね」
「ちゃんとと言うと??」
「ほら、コップの横からとか底から貫通させて入れるとか有るでしょ?」
あぁ~ 普通に入れるなという事か。それならそうと言ってくれたら良いのに……
俺は小銭を数枚取り出すとコップを逆さにテーブルに置き、あらゆる方向からコインを入れて行った。単にコインを瞬間移動させるだけだから。魔族なら子供にだって出来る。
「「…………」」
用意したコインが無くなったからもう良いかと二人を見ると目が皿のようになっていた。
「ねぇ、こんな数をいつの間に仕込んだの?」
「それより、ふつうは色付きの5円とか10円は使いませんよ……」
「椿君、これのネタを教えてくれないかしら?」
「ネタって何だ?」
「仕込みよ。予めこうなるように準備をしていたんでしょ?」
「何もして無いぞ」
「「…………」」
「どうかしたか」
「い…いえ、じゃ~他のコップでも同じことが出来る?」
「できるぞ」
そう言うと社長は別のコップを持ってきて同じように伏せてテーブルに置いた。
「いま私が用意してそのまま置いたからネタを仕込む間がなかったわよね。この状態でも出来ると言うの?」
疑うように聞いてくる社長の目の前で次々にコインを入れてやった。と言うか、移してやった。




