第1話 魔王、名古屋の地に降り立つ
「審判の結果を発表します。魔界法第336条の特記事項により魔王・マカロニア3世を魔界より追放とする」
今の発表をしたのは魔界の政治を司る最高決定機関、魔界審議会である。
魔王と魔界審議会の議員は100年に一度の住民投票で選ばれる。罷免もまた住民投票で行うことが出来るのだ。
そして本日、先程まで行われた魔王の罷免を問う住民投票が即日開票され、魔界放送による生中継の中、その結果が発表されたところだ。
そして、この中継を見ていた人たちは一堂に言葉を失い、中にはあまりにもの驚きで倒れる者が続出した程この結果が衝撃的で、到底信じられない結果だった。まさか現職の魔王が罷免を超え、魔界を追放されるとは…… 過去の歴史を見ても初めての出来事だった。
審判にある魔界法第336条と言うのは簡単に言うと魔王を罷免するための住民投票制度だ。
賛成票が有効投票数の半数を超過したなら魔王は罷免。半数以下なら留任できる制度だが、附帯として賛成票が90%以上を超えると魔界を追放になると特記されているのだ。
もちろん、魔王は何も悪くはなかった。ただ、あまりにも魔力が豊富で全属性の魔法を極め、過去の魔王も追随できない程の能力を持っていたため住民達から嫉妬はされていた。
では、ただの嫉妬がどうしてここまでの追放騒動となったのか……
今までは人間界から英雄とか勇者とか言われる者が魔王を倒して名を上げんとばかりにやって来ていたから魔界で一番強い者を魔王にしていた。ところが、ここ千年程はそう言った猛者が誰も来なくなり魔界に平和が訪れたとの認識が広まったことで、強いだけの魔王は要らないと一気に世論が魔王罷免に働いたのだが、まさか追放になるほど賛成票が集まるとは誰一人思っても居なかった。そして、魔界の住民は誰もが知っていた。マカロニア3世が君臨しているから魔界の平和が保たれていることを……。ではどうしてこうなったのか??
いわゆる『俺一人が賛成しても他の皆は反対するから……』という興味本位の何も考えないおバカ票がこの結果を奇跡的に作り上げてしまった。後悔先に立たず。後の祭りである。
もちろん審判が下った以上、あれは間違って投票しましたと誰も言えるわけも無く、おまけに追放処分である。再び魔王に推すことも出来ない。最強魔王の不在でこれから魔界がどうなってしまうのか不安に駆られる住民たちを他所に当の本人であるマカロニア3世は「やっと魔王の座から解放され自由になれる」と心密かに喜んでいた。
審判が下った翌日、多くの人がマカロニア3世の家にやって来たが、すでにもぬけの殻。昨日の内に家財すべてを空間収納に収め魔界を出ていた。追放者がいつまでも魔界に居ては元魔王として住民達に示しが付かないと判断したからだ。
そして魔界を出たマカロニア3世は「何処に行こうかな……。そうだ、名前も改めねばならんな……」などと独り言を言いながらランダムに地名を書いて空に投げると爪楊枝をそれに向かって投げた結果……
名古屋駅前に立っていた。
新作開始記念で本日18時に第2話を投稿致します。