3話
3話です。
「…個人の自由でしょう。貴族の方は人の触れられたくないことに首を突っ込むお方が多いのですか?」
「まさか。人の触れられたくないことを遠回しにチクチクとつつく生き物ですよ。…今のは僕が貴女を知りたかっただけで」
くつくつと面白そうにアルザスは笑う。その様子にカチンときたセリはフードを脱いだ。
ぱさり
フードから胸元まである黒髪がこぼれる。長めの前髪から覗く瞳は深紅。
セリはこれまで、この色合いのせいで死神やら悪魔の子やら、心無い言葉を浴びせられてきた。今の生活になってからは、むしろ魔力の象徴や、腕が立つことを間接的に表しているように思われていたのだが、やはり、隠したくなってしまう。だから、こうしてフードをかぶっていた。
…この色合いは、セリを敬遠する象徴のようなものだったから。
「…綺麗な」
だから、アルザスがぽつりとこぼした言葉に驚いた。
「は…?」
「綺麗な色です」
どうやら、心からいっているようだった。
「おだてたって、どうにもなりませんよ。本当に貴方を雇えるようなところを知らないんですから」
「ここでお世辞を言って貴女がどうこうしてくれるとは思っていません」
ふわりと微笑みを浮かべたアルザスに、セリは一歩引いた。
ーこの人は危険だ。
近くにいたら、自分の根幹を崩されてしまいそうだった。傷つけられまいと隠してきた弱い部分まで、さらけ出されてしまう。そんな恐怖心に駆られ、距離を取る。どうか、私に近づかないで、と。
「すみません、調子にのりました。隣の領にいってみることにします。僕のことを知らないかもしれないですし」
アルザスはあっさりと引いた。セリの怯えに気づいていたのかもしれなかった。
その時。
「セリちゃん!あんた、早く逃げなっ!」
扉が勢いよく開けられて、常連のおばちゃんが駆け込んできた。
そのただ事ではない様子にセリはおばちゃんの顔を真摯に見つめた。
「森に狼の魔物の群れが来てるんだよ!」
「群れ?」
「そうさ、ざっと見ただけでも、あれは20はいるね」
それを聞いて、セリは少し考え込んだ。しかし、すぐに顔を上げる。
「おばちゃん、私が行きます。町のみんなに、避難を呼び掛けてください。ちょうど花雫も効果が薄れるころですから、それで現れたんでしょう。」
「セリちゃん、」
「大丈夫ですから。だって、私はあの二人の娘ですよ?」
自信ありげに笑顔を浮かべると、心配そうな顔をしたおばちゃんの目が揺らいだ。
「ですから、避難の呼び掛け、よろしくお願いしますね。」
「……気を付けるんだよ」
「はい」
おばちゃんが避難の呼び掛けのために店を駆け出して行ったのを確認すると、セリは準備を始めた。
ー狼ごときにこのまちを壊させてなるものか
セリの深紅の瞳には強い意志が宿っていた。
読んでくださってありがとうございます!
次回、アルザス視点となります。
気長に読んでいただけたら幸いです。