2話
2話です!
「それで、ご用件は?」
セリが聞くと、青年はおずおずと口を開いた。
「そ、その」
しかし、なかなか言葉が出てこない。セリは苛立つわけでもなく、静かに待っている。ドロップウォルトにくるお客さんの中には言いにくい依頼を持っている人もいる。たとえば、婚約指輪をなくしてしまった人や、愛人の行方を探したいだとか。表沙汰にするには少し面倒ごとがついて回りそうなことを抱えていたりする。だから、無理に焦らせることはしないのだ。青年はいい身なりをしているし、おそらく平民ではないのだろう。そういう人には言いにくいことも多いのだろう、セリはそう思った。
「話す踏ん切りがついてからでいいですよ」
セリはそう声をかけて、キッチンに向かった。
花雫のジェルに蓋を閉める。透明なジェルの詰まった小瓶を籠にいれる。
「あの…」
「はい?」
花雫のジェルにラベルをつけていると、青年は声をかけてきた。
「お願いがあるんです」
「何でしょうか?」
セリは手を止めた。
「働き口を探しているんです」
「は?」
口が思わず開いてしまう。これはまた、働き口とは…唖然としていると青年は言った。
「お察しのようなので先に言います。僕はアルザス・アクロイド、公爵家の次男坊です。訳あって、家から身一つで追い出されまして、晴れて今日から平民と相成った訳なのです」
今日の天気は晴れてますね、洗濯物にぴったりですよ、とでも言うようにさくっととんでもないことをアルザスは宣った。しかも、アクロイドといえば、このクリプネスの町も治める現公爵様であるディドロ・アクロイド様のご子息…。
「そ、それは随分と波乱万丈な…」
「いえ、そんなことは。とりあえず食い扶持を稼げるようになりたいのですが、こんな身なりと名前ですから、どこも雇ってくれなくて…」
職業紹介所には行ったのか尋ねてみたが、紹介所でも、「君みたいな特殊な人は紹介できるとこがないね…ごめんよ」と言われたらしい。
「はあ、確かに大変そうですね…。ですが、紹介所で見つからなかったとなると…」
「どうにか、お願い出来ないでしょうか。せめて、セリ様に伝えていただくことは…」
どうやら、アルザスはセリが目の前にいるとは思っていないらしい。大方、人々の評判を聞いてやって来たのだろう。腕が立つなんて言ってもらっているらしいから、男性だと思い込まれることは少なくない。
「申し訳ありませんが、セリは私です」
「え…貴女のような優しい方が?」
「ふふっ、私は優しくなんてありませんよ」
「優しくない方が、疲労回復や肌の調子を整えるローズヒップティーを出してくれますか?」
セリは口をつぐんだ。アルザスは気づいていたらしい。ハーブティーの効能を知っているとは、流石お貴族様とでも言うべきか。
「あの、失礼を承知で申しますが…セリ様、フードを外さないのですか?」
セリは固まった。
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