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仕事を終えた鳴海家の母、美希は家に向かう車の中にいた。
「あの人、車に乗っていないけど美穂は知っていて?」
「社長は今日も早く終えられ、既にご自宅の方にいらっしゃいます」
美希と一緒に同乗している美穂。
美穂は実は鳴海家の当主で父である和樹の第1秘書である。
しかし、たまに秘書がいない美希に同行したりと忙しない人物である。
「またなの?
あの人、この頃は業績も落ち着いてるから暇を持て余しているんじゃない?」
「暇なのか、よくネットショッピングしています」
美穂は最近の和樹の様子を教えた。
「はぁ…
暇なら最近、考えていた事を実行させようかしら」
「奥様、着きました」
今まで無言で運転をしていた長内が美希に家に着いた事を知らせる。
「ありがとう」
長内にお礼を言い、先に降りた美穂が開けてくれたドアから車を降りると玄関へと向かう。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。
ホナ、あの人は?」
玄関を開け美希を出迎えたのはメイド長の穂奈美。
実は美穂の妹なのだが美希の元同級生でもある。
「旦那様はお食事をお済みになられた後、自室にてお寛ぎしています」
「じゃあ、美穂。あの人を呼んでもらえる?
私はこのまま食事するわ」
「「かしこまりました」」
2人同時に返事をし、美穂は階段をのぼっていき、穂奈美は近くに控えていたメイドに美希の荷物を頼むと美希の後へと続いた。
食事をしている美希の元へ「社長をお連れしました」と美穂が和樹と共に食堂に入ってくる。
「何かあったのか?」
呼ばれた理由がわからない和樹は首を傾げながら美希の前の椅子に座る。
「あなた、最近あまりやる事がなくて暇してるそうじゃない?」
「い、いや〜」
和樹は美希から目を逸らし口ごもる。
「社長、私が全て報告しているので誤魔化せませんよ」
少し離れた所に座っている美穂が誤魔化そうとしている和樹に口を挟む。
「ちょっ!
美穂さんっ、あんたは俺の秘書じゃないの!?」
「そうですが?」
「なら俺の味方をしようよぉ」
縋る様に言う和樹に美穂は冷めた目を向ける。
「私は社長の秘書ですが社長の会社、鳴海電気の管理もしております。
会社を発展させるのも私の仕事です」
「という事であなた、そんな暇ならアメリカに行って会社を海外進出させなさい」
これは決定事項だと言う美希。
「いやいや、俺の会社なのに何でお前が決めてんの!?」
「あら?文句ある?
暇なのでしょう?」
「いや…それは……」
納得のいかない和樹。
「社長、あちらにはこちらにないものが沢山あります。
それはデザインや技術など、日本の者には考えのつかないものがあるでしょう。
それを取り入れることで会社はもっと発展するのでは?」
「はぁ…わかった。
だけど、日本の方の会社はどうするんだ?」
「それでしたら大丈夫です。
社長の部活達はたいへん優秀でいらっしゃいますので、社長がおられなくてもやっていけます」
「あたしが社長代理もするし大丈夫よ」
鳴海家の当主は和樹であるが、妻である美希に勝てないのである。
「それでは早朝、役員達に会議を開くことを通達しておきます」
「あぁ、よろしく頼む」
「それでは私はこれで」
頭を下げると美穂は食堂を後にした。
「さぁ、これで忙しくなるわよ」
「はぁ………」