05 アシャ
訳がわからなくて、泣きそうになったとき、少し離れた場所から、声が聞こえました。
「月詠?」
誰かが、寄ってくる気配です。親友の顔が浮かびました。
が、声が、彼女の声よりずっと低いです。おかしいな?
「すみません、その子ツレです。どうかしましたか?」
現れたのは、透き通るような肌をした、薄い金髪で長身の男性でした。
まっすぐなストレートの髪を背中が隠れるほどに伸ばし、左右の瞳が紫と青になっていて、切れ長です。通った鼻筋と薄い唇が、一見冷たく見えるぐらいに整った配置で収められています。
エメラルドグリーンの不思議な衣装を、軽く羽織った体は、細身ですが男性らしい硬さもうかがわせていて、はっきり言って素敵すぎます。
見惚れるほど美しい姿をしていますが、耳がとがっているので、エルフでしょうか?
二人の男のひとは、何でもないと言って、立ち去っていきました。
エルフの男性はふぅーと息を吐いて、こちらに向き直ります。
「大丈夫?」
「ええと……はい」
知らず知らず、顔が赤くなります。
ゲームのキャラはどれもカッコいいけど、この人はさらに輪をかけたように美しいので、まともに見るのも恥ずかしくなっちゃいます。
ところが、彼は、ちょっとムッとした顔をしました。
「月詠、私が誰かわかってる?」
「へ?」
誰? って、今はじめて会った人に言われても、わかるはずがありません。
ところが彼は続けます。
「ここで、誰と待ち合わせてたの?」
そんなの……
「あゆ……親友の『アシャ』とです」
「ん。言い換えたし、ギリギリセーフ?」
すると、目の前に画面が浮かびます。今度は、フレンド申請。
「え」
「私の名前出てるから、確認して」
フレンド申請の申請者は、『アシャビラ』となっていました。
……『アシャビラ』?
「それとも、リアルの名前、呼ばなきゃダメ? るな」
「え……あゆら!?」
こくんと頷いた、金髪キラキラの美形さんは、やがてまた見惚れるほどの笑顔を私に向けたのでした。
「ええええええええええええッッ!?!?」
私が声の限り叫んだって、おかしくないですよね。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
「びっくりさせようとしたけど、そこまで叫ばなくても」
呆れたような顔のエルフが、ため息をついてますが、私のせいじゃありません。
かわいい猫天使と、目も覚めるような美形エルフ。目立たないわけもなく、場所を移動しました。
少し路地に入った場所にある喫茶店に入ります。
「びっくりさせようって、限度があるでしょ。ホントもう」
「あはは、それはゴメン」
明るく笑うその顔に、ちょっとだけ親友の面影はあるものの、やっぱりあまりにも違いすぎて、また顔が熱くなります。
その様子に、首をかしげる彼。
「月詠って、メンクイだったっけ?」
「アシャが美しすぎるんです」
その回答に、いたずらそうな笑顔をされます。
「なるほど、こういうのが好みなのかー」
軽口でごまかしますが、やめてください、その顔でほっぺ引っ張ったりとか、ブタ鼻にしたりとか、あはははは
「笑った。良かった、この姿変えなきゃかと思った」
「いや、それは……」
申し訳ないと言おうとしたら、キャラの作り直しは、同じアカウントからは10日間空けなければならないらしく、一緒に遊べないのは嫌だと言われました。
「だから慣れてね」
「美人は三日で飽きるというから、がんばる」
「よっし、頼んだ」
……がんばるけど、自信ないよ、とは言えませんでした。なんで髪の落ちる様子までふつくしいのですか。尊い。
気を取り直して。
「このゲーム性別変えられるのね」
「けっこうVRだと、変えられないの多いけどね。自由度半端ない、が裏コンセプトらしいよ」
裏コンセプトって。
「これ、私他のゲームで誘われた、って言ったでしょ。そっちでも私、エルフなんだけど」
「ふんふん」
そういえば、そんなことを言っていた気もしますね。覚えてますよ?
「本当なら、エルフの男がやりたかった、って言ったら紹介されたんだわ」
「あー、なるほど」
私を驚かすためだけではない理由があったみたい。それを先に言ってくれれば良かったのに。
「それを先に言ってくれれば良かったのに」
「あはは、でも言わずにいたら、どんなリアクションか興味あって」
「ぐぅ! ドS炸裂か!」
怒ってみせると、屈託のない笑顔が返ってきます。
うん、自信ないって言ったけど、慣れてきました。中身は親友なのです。そう思うと、肩の力がやっと抜けたのがわかりました。
すると、その瞬間、ほっという音が聞こえました。この喫茶店は穴場らしく、他にひとは少ないです。見ればアシャは、少し切なげな表情をしていました。
なにそれ尊い。
「戻った」
「何が?」
よくわからないので、首をかしげると、口を尖らせたエルフが不満げな声をあげました。
「月詠、緊張が続いてるんだもん。やっぱり作り直すかな?」
緊張? ああそうか。それでずっと、なんだかこんな感じで話していたのは、緊張を解すためなのですか。ふむふむ。
作り直しだと?
「やめて。諦めて鑑賞させて」
「本音でた!」
ふふふ。
私の親友は、ネタキャラじゃなくて、鑑賞用キャラになりました。
『月詠』も、鑑賞用のかわいいキャラなので、ネタキャラコンビじゃなくて、鑑賞キャラコンビ結成ですね。
これはこれで、素敵です。
お読みいただき、ありがとうございました。
とりあえず、GLタグを入れる予定はありません。