04 めざせ! ネタキャラ
「チュートリアル、難しかった?」
あゆらは、2つ隣のクラスだから、休み時間に話すときは、間のクラスの廊下と決まってます。
「それがねぇ……」
私は、昨日のことを話しました。もちろん、隠れキャラの入手法だけは内緒です。
「はぁ~。まさか、るなが隠れキャラとはねー」
あゆらは目を見開いて、呆れた声。
「他のゲームにはたまにいる、って聞いたことあるけど、実際に会ったのは初めてだわ」
大きく息を吐いて、壁にもたれます。
私もその隣にもたれかけました。
「GM? の、人に、いつでも連絡してね、ってコード貰ったよ」
「直!?」
「直。」
「スゴい運営、本気だね」
「大丈夫なのかな、って思ったけど、キャラ可愛いし、いっぱいしてもらったし、やってみようかなって」
照れたように言うと、あゆらはふぅんと呟きました。
「はぁ、それで、るなは出来ないとか言われたら、凹んで私もやめるとこだったよ」
ため息をするように、言葉を吐き出した親友に、私は首を振ります。
「あ、それは大丈夫。2キャラ目無料権貰ったから」
「ちょ、運営フォロー、パない!」
ですよね。
調べたら、2キャラ目枠の値段が、一万円でしたので。できるだけ、キャラは一人でしてほしいみたいです。
「やっぱり、かなり特別扱いなんだね。ここまでされると、止めにくい……」
そういう私を、軽く笑って親友は慰めてくれました。
「んー……。まぁ、別にガチでやるわけじゃなし、楽しむには、隠れキャラってピッタリじゃない? 確か、特殊な設定がつけられるだけで、強さは他のキャラと変わらないんでしょ?」
「うん」
そうなのです。隠れキャラだからって、特別強いキャラクターに育つのかと言えば、そうでもないみたいなのです。
姿が可愛かったり、専用のアイテムやクエストがあったりするぐらいで、簡単に言えば、単なる稀少なキャラクター(強制)。
まぁ、隠れキャラがクエストすることで、他の人にもできるクエストやイベントが、発生したりもするようですが。
すると、あゆらはこんなことを言い出しました。
「私もネタに走ろうかな」
「ネタキャラですか」
「ネタキャラ確定です」
二人で笑いあいます。
「よっし! ネタキャラで、オンラインを楽しもう!」
「おー!」
あゆらと私が、片腕を振り上げるのを、回りはどう思ったのでしょうか?
きっと、いつものノリだと思われたんでしょうね。ちらほら、おー、と片腕を振り上げてくれる同級生がいて、ノリの良さに嬉しくなりました。
オンラインの中にも、こんな雰囲気があったりするでしょうか?
ちょっと、楽しみです。
「ところで、その隠れキャラって、どんなの?」
「猫天使だよ」
「え?」
「猫天使」
親友はとてもあきれた声で、こう言いました。
「……それは、るなが手放すわけがないね」
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
家に帰ると、早めに宿題と夕食を終わらせ、タイマーをかけるとダイブしました。
絵本のような、かわいい赤い屋根の家の前。
昨日、チュートリアルを終わらせて、水色ハムスターのチュアルくんと別れた、その場所です。
待ち合わせには少し早いので、のんびりマップを見ながら歩きます。
昨日はお使いクエストで、町のあちこちに行きました。
冒険者ギルドに登録して、薬屋でポーションを貰うために、雑貨屋と武器屋と防具屋におつかいに行って、宿屋の食堂でお皿を洗ってから、戻ってきました。
そう、この可愛い赤い屋根は、薬屋さん。
とってもかわいい、おばあちゃんが、お店番をしています。
「んー……、待ち合わせには早いかな。どこに行こう?」
辺りを見渡しますが、よくわかりません。
チュートリアル中よりも、少し増えた人通り。ちょっと注目されている気もします。
「わかんないから、のんびり待ち合わせ場所に行こうっと」
あゆらが来るまで、のんびり待つことにしました。どうせ、何をすべきなのかとか、わかりませんからね。
ゲーム初心者としては、上級者にいろいろ聞きたいところですが、誰が上級者なのかはわからないし、それが正しい情報か、判断もできませんから、きちんとしたひとが相手でなければいけないし。
ならば習うべきは、親友です。
うっすら注目を浴びながら、待ち合わせ場所である、町の中央の噴水広場前、青い屋根のおうちにやってきました。
ここは雑貨屋のとなりの、特になにもない家です。
噴水広場は待ち合わせの定番だそうで、はじめて会う場合には、それぞれ工夫して少し細かい待ち合わせ場所を決めるのだそう。
ちなみに、ゲーム中は、ゲームのキャラの名前で呼ぶのがマナーだとかで、お互いの名前は、教え合いました。
あゆら、ではなく『アシャ』と呼ぶ!
心で繰り返していると、声をかけられます。
「素敵な衣装だね。どこで手に入れたの?」
二人の男のひとが、なんの気もなく話しかけてきました。緑色の髪の人と、赤みの強いオレンジの髪の人で、どちらもイケメンさんです。
ええと……。
「あ、オレレベル25の剣士、こっちはレベル24の弓術士ね。君は?」
「すみません、あの、待ち合わせ中なので……」
「待ち合わせ? 女の子?」
遠回しに言っても、男のひとたちは、どこかに行ってくれそうにありません。
逃れたくても、待ち合わせ場所はここ。あまり離れては、あゆらに会えなくなってしまいます。
困りました。衣装と言われても、隠れキャラのことはあまり言えないのです。
「よければPT組んで、一緒に狩りに行かない?」
誘われますが、どうしたらいいんでしょう。
わわ、パーティー申請なんてのが出ましたよ?
「許可よろ♪」
わー! どうしたらいいんでしょう!?