03 隠れキャラクター
猫天使のぬいぐるみ、ルーニャを撫でながら、事情を知った叔父さんと、部屋で待機していると、運営からのメールが届きました。
内容を読むと、キャラクター設定時に、珍しい行動をした人に送る、隠れキャラクターを、開発者が運営に内緒で作っていたそうです。
猫天使『月詠』は、世界のどこかに封じられた女神の化身、というコンセプトで、このキャラクターにしか現れない特殊なクエストもあるのだそうですよ。
驚かせたお詫びに、本来なら有料で追加できる、2キャラ目の作成も、無料でできるように設定してくれたそうです。けれど、良ければ、このキャラクターででも、楽しく遊んでほしい、というお話でした。
あと、キャラクターの入手方法だけは、内緒にしてほしいそうです。了解です。
「隠れキャラか……あっちにもあったなぁ。この運営、好きなんだな、そういうの」
叔父さんが、メールを読みながらぼやいてました。
「ええと……普通に遊んで、大丈夫なんでしょうか?」
「うん。変なバグとかじゃないと、確認できたからこのメールなんだと思うよ。むしろ、遊んでもらって、データ取りたいんだろ」
「……普通に遊んで、大丈夫なんですよね?」
「むしろ、普通に遊ぶべき」
なんかちょっと不安なんですけど、大丈夫というなら、大丈夫なんですよね。
「かわいくって、気に入ったんでしょ? 大丈夫。なんかあったら相談して」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれて、ちょっと照れます。
大丈夫、なんですよね?
ステータス画面で見た、キャラクターの画像を思い出して、そして、手元のぬいぐるみを見ます。
ルーニャは白猫のぬいぐるみ。小さい頃、お店で一目惚れした私に、おじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれました。耳の先と手足の先が黒くて、水色のアクセントがある、黒いふわふわのミニワンピを着ています。背中には羽。まさにあのキャラクターとお揃いでした。
あれが、新しい私の姿。気分が上がってきました。
「うん、このまま、この子で遊ぶことにする!」
「そっか。もう、大分遅くなってきてるから、僕は帰るけど、チュートリアル終わったら今日はおしまいにすること。いいね?」
「はぁい、ありがとうございました。ぁ、あゆらにメッセ送っておこう」
運営のメールを待つ間に、夕食も食べちゃいましたからね。
そうだ、ゲームに入るのは、お風呂に入ってからにしよう。機材をはずしたら、そのまま眠れるように。
私は、あゆらに、今日中にチュートリアルが終わらなそうなこと、明日、学校で詳しいことと待ち合わせ場所を決めようということを、送信しました。
外で送ったメッセが、ゲームの中にも届く不思議。
お風呂から上がると、あゆらから、OKの返信に、町の探索中だという画像がついてきました。
いいなぁ。私も、早く冒険したいなぁ。
枕やクッションの位置を確認して、タオルケットをかけると、機材をつけてダイブしました。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
『おっかえり~! 月詠ちゃん、びっくりさせてごめんねー。まぁ、ボクもビックリしたんだけど』
ゲームの中に戻ると、水色羽根つきハムスターの、チュアルが、ハイテンションで話しかけてきました。
「ううん。すっごく気に入ったから、いいよ! 名前は自分でつけたかったけどね」
こちらも、ハイテンションで返します。
別世界なんだもん。遊園地みたいに、楽しんだもの勝ちだよね!
私の様子に微笑んで、妖精ハムちゃんは、一通のメッセージコードを渡してきました。
『これGM……運営の、ゲーム内の見守り隊の人のコード。困ったことや、相談があったら、ゲーム内のGMコールかこれでメッセージください、だって。GMコールだと、直接話すことになるから、それが躊躇われる時用だね』
えっ。
「そんなの、貰っちゃっていいんですか?」
『是非もらってー。別のゲームでも、隠れキャラをゲットしちゃった人が、トラブルに巻き込まれたことはあったし、15歳以下の人が、隠れキャラをGETというのも初めてだしね。皆で護るから、安心してね』
それを聞いて、とっても嬉しくなりました。
メッセージコードは「登録」すると、すぐに空気に溶けて消えてしまったけれど、できれば記念に、形にして残しておきたかったなぁ。
『さぁ! じゃあ、チュートリアルの続きしようか! 明日も学校でしょ? ちゃちゃっと終わらせるよ!』
照れたように、わちゃわちゃ動く、チュアルちゃんが可愛いです。
「はいっ!」
私は頷いて、チュートリアルを開始することにしました。
『ええと……まず、手足の動きに違和感はないかな?』
「ありません」
『ステータスは開けられるね? HPMPとかの詳しい解説は、メッセージで送るよ。次は職業のところを、タッチしてみて』
言われた通り、ステータス画面の職業の文字をタッチします。
「なんか、いろいろ出てきた」
『それが、今、月詠ちゃんがなれる職業の一覧だよ。このゲームにはたくさんの職業があって、それぞれに得意なこと、苦手なことがあるんだ。色がついている職業には、いつでもなれるからね』
「へえぇ」
何種類もの職業が並んでいて、緑がかった水色のものと、灰色のものがあります。
「灰色のものはなぁに?」
『なれそうだけど、なるための条件がまだ満たされていないもの。例えばレベルやステータスが足りないとか』
「なるほど……」
つまり、水色の中から今は選べばいいんですね、うーん。
『職業によって、レベルアップするステータスが違うから、この先なりたいスタイルによって決めるといいよ』
「んー、スタイル?」
『魔法使いになりたいとか、剣を持って大暴れしたいとか』
「んー……」
このゲームで、どんなことをしたいか、かぁ……。
「……わかんない……今決めなきゃダメ?」
『決めなくてもいいけど、次の戦闘が辛いよ? スキル補助がないから』
「そっか……」
んー……でもなぁ。
「なしで、やってみていいかな?」
『分かったよ! 大丈夫、サポートするからね!』
チュアルちゃんは、大きく頷いてくれました。
お読みいただき、ありがとうございました。
これだけ保護が厚いのは、主人公が15歳以下だからです。たぶん18歳以上なら直コード(感覚的には、ラインのアドレス。とある権限持ちの運営社員にリアルに通じる)はなかったかな……。
まぁ、そうでなくてもしばらくは、ゲーム中の行動は、運営に見守られています。
誤字脱字その他、ご指摘いただければありがたいです。
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ありますので、ぜひご活用くださいませ!