02 チュートリアル……のはずが?
再び目を開けると、そこは広場の真ん中でした。
人々の声、柔らかく爽やかな風が頬を撫で、暑すぎず、寒くもない空気に、林の中のような緑と、ほんのり土の香りがします。
アイボリー調の石畳の向こうには、まるで絵本に出てきそうな、石積みの家が立ち並んでいて、そこを目に優しい色合いの、服装をした人々が行き交います。
「うわぁあ~!」
アニメの中のような、通行人の姿がなければ、現実だと疑わなかっただろう、そんな感覚を私は受けていました。
思わず声をあげた私に、何人かが振り向いたものの、そのまま行ってしまいます。
けれども、気にせず、私は歩き出しました。
すると。
≪まずはチュートリアルを受けて、この世界での体に慣れましょう。チュートリアルを開始しますか?≫
一歩進んだところで、女性の音声と共に、目の前に透明な板が現れ、そこに『yes/no』が書かれたものが、立ちふさがりました。
チュートリアル、って、受けた方がいいよね?
ええと、でもどうすればいいのかな? こう?
私は『yes』の文字に人指し指をあてました。
≪初チュートリアルの特典として、職業に応じた初期装備と、いくつかのアイテムを配布しました≫
≪チュートリアル終了までは、既定のNPC以外との会話はできません。チュートリアル終了と同時に、他者に認知されるようになります≫
≪これよりチュートリアルを開始します≫
音声と共に、目の前の板が白い煙に包まれ、ぽん、という音に合わせて、水色のハムスターに羽が生えたような、可愛いぬいぐるみが出現しました。
『ジャジャ~ン♪ チュートリアルの妖精、チュアルだよ! しばらくよろしくね~♪』
すっごく明るい自己紹介に、面食らっていると「おやおや~?」と顔を覗き込まれます。
『ノリが悪いよ? 月詠ちゃん。ここは新しい世界なんだから、パァ~っとホラ、ハッピーに!』
え?
突然、身に覚えのない名で呼ばれて、面食らいます。
「いや、私は……」
『ホラ、ボクに続けて~「私は、月詠ちゃんだよ~☆」』
いやいやいや、何?
何言ってるの? ハムスターちゃん。
「あのっ、私はつくよみ、なんて名前じゃないです」
『へ?』
いやいや、ポカーンとされても困ります。
どういうこと?
『えっとー、あのね? さっき、設定スペースで入力した名前で、ボクは呼んだんだけど……』
「入力してないですね」
軽く首を振り、正直にそう言うと、頭が痛そうに、ハムスター妖精ちゃんは、手を届かない額にやりながら、続けました。
『ええと……まず、君のステータス開いてみようか』
「ステータス?」
こくこくと頷く、ハムスター妖精ちゃん。
『うん。『ステータス・オープン』って言ってみて。さっき設定したステータスが出てくるから』
ふむ。ええと……。
「ステータス・オープン」
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[名前] 月詠
[種族/性別] 猫天使 / なし
[レベル] 1
[職業] (設定前)
[HP] 50 [MP] 50
[STR] F-
[VIT] F-
[INT] F-
[MND] D
[DEX] F-
[AGI] E+
[LUK] C+
[スキル] -
[称号] 封じられし女神の化身
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『おまかせ』にしたキャラメイク、名前まで決められちゃったの!?
「あの、全部おまかせにしちゃったので、名前もはじめて聞きました……」
申し訳なさげに、ハムスターちゃんに自己申告してみると。
「おまかせ……? ランダムのことかな? 名前から、ステータスから、全部ランダムにして、確認しないできちゃったのか。ふむふむ」
申告したら、なんか納得してくれたみたいです。ほっ。
『ええと……48時間以内なら、キャラクターを作り直すことも出来るよ。どうする?』
ハムスターちゃんは、少し不安そうに聞いてきました。
キャラクターを作り直す、か……。
私は改めて、ステータス画面を見直します。
……。
……種族、猫天使。
猫 天 使 。
私は、自分のキャラ名にしようと思っていた、お気に入りのぬいぐるみの姿を思い出します。
これは偶然? いえ、きっとルーニャが導いてくれたんです。
「いえ、このままでいいです」
名前がルーニャじゃないのは残念だけど、姿がお揃いなのだから、大丈夫!
大……丈夫? ん?
「あの……私が今、どんな姿か見てみたいんですけど、鏡とかありますか?」
『鏡? ああ、姿なら、ステータス画面でも確認できるよ。装備タブを触ってみて』
言われるまま、装備と書かれた所を押すと、画面が切り替えられました。
「わああ! かわいい!!」
そこに映し出されたのは、銀色の髪を腰まで垂らした女の子。耳と尻尾は先だけ黒く、藍色の瞳をしていて、背中に小さめの白い翼を生やし、黒ベースに白と水色のアクセントがある、ゴスロリ風ミニワンピを着ています。
確かに、下をみれば、同じドレスワンピ! 素敵です!
まさに、ルーニャとお揃い!
すごく嬉しい!!
「すごい! すごくいい!! 気に入りました、絶対に変えません!!」
『そ……そっか』
ハムスターちゃんに、引かれたような気がしますけど、想像以上に理想的な姿に、偶然になれたことに運命を感じます。
まるで神様が導いてくれたような……。
神様が……。
ん?
「ええと、妖精ちゃん、質問してもいいですか?」
『ん? まだなにか見つけた?』
慌てた雰囲気で、ハムハム妖精ちゃんが言います。
ええ、なんか、変なものがついてます。
「[称号]に『封じられし女神の化身』って書いてあるんですけど、これ、何かな?」
『……』
ハムスター妖精ちゃんは、そのまましばらく固まったあと、私に一度ログアウトして、運営のメールを待つように、案内しました。
今日は、ここまで!
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