22 目的じゃないもの
首をかしげるアシャに、私は指を突きつけました。
「あゆらが私に言ったでしょ? 『VRの魅力は、戦闘だけじゃない』って」
それは、私をこのゲームに誘ってくれた時のことです。
「現実では、なかなか行けない絶景を、一緒に見に行ったり、滅多に食べられない美味しいものを、一緒に食べたりするんだよね!」
「……るな」
アシャが、私の本名のほうを呟いたのは、私が、あゆら、と言ったからでしょうか。
目を見開いて、唖然としていますが、続けますよ。
「私、戦うのは目的じゃないもの」
そうです。私の目的は、モンスターをいっぱい倒したり、たくさんレベルアップすることではないのです。
「現実にはできそうもない、もふもふダイブは、できる目処がついたし、他だってできるよ!」
私の目的は、そう! 素敵な景色を見ること、美味しいものを食べること、もふもふダイブをすることです!
「戦闘は、足引っ張っちゃうけど……あ、アクティブモンスターって、全部不意打ちしてくるのかな?」
Wikiを開こうとすると、先にアシャが、いや、と言いました。
「少なくとも、この辺りで不意打ちをしてくるのは、レッサーエイプだけ」
「あ、じゃあ、森の奥以外なら、戦闘でレベル上げもまだできるね!」
レベルは別の場所に進むための手段で、目的ではありません。最低限があればいいのです。
戦ってあげられなくても、クエストがありますしね。
にっこり笑うと、でも、とアシャが言いました。
「私、守れなかったよ、る……月詠のこと。約束したのに。それでもいいの?」
情けない顔してますよ、アシャさん。
そうか、そのあたりが気になってたんですね。
「え? でもアシャ守ってくれたし、私が、戦闘不能になったら、すぐ駆けつけてくれたし、泣いたら慰めてくれたし……何がダメなの?」
戦闘不能になったのは、ぼんやりしていた私のせいで、アシャが気にすることでないです。つまり、
「どちらかといえば、私が謝るべき」
「いや、それはない」
即否定に、声をあげて笑ってしまいました。よし、その調子!
「ご迷惑おかけします!」
「いや、だから……現在進行形?」
「えへへー」
だってだって。
「私、アシャに頼る気満々だから!」
「月詠……」
満開の笑顔での、頼る宣言に、アシャも目を真ん丸にして固まっています。
でもでも、私のできることはこれなのです。
「これからも、お願いね! でもって、きれいな景色と、美味しいもの一緒に食べよう!」
あゆら。私、知っているのです。
あゆらは、慰められるより、頼られる方が好きなんだって。
頭をナデナデされるより、する方が落ち着くんだって。
変に同情されるぐらいなら、煽られた方が元気が出るって、知っているのです。
だから、頼りにしてる、って伝えて、ナデナデしてもらうのです。
戦闘はできないけれど、その他で私のできることは、なんでもするよ。
やがて、アシャは浮上したようです。
「わかった。月詠がそう言うなら、私が、きれいな景色の所に連れていく。美味しいご飯のある町にも。だから、まかせて」
「うん、ありがとう、アシャ!」
私が笑えば、アシャも笑ってくれました。
うん、私は親友の笑顔が好き。
この子が笑ってくれるなら、いくらでも頼っちゃうよ!
第一、原因は私だから!
……自慢して言うことじゃありませんでした。
うう……また借りが増えます……。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
ログアウトしました。
一旦休憩にして、昼時間帯にもう一度、一緒に戦ってみよう、ということになったからです。
時計は午後2時半頃。約一時間半……いえ、4~5時間近く、森を駆け回っていたことになります。
外は、明るい日差しが照りつけていて、さっきまで、真っ暗な町の中に、一人たたずんでいたのが、嘘のようです。
実は、宿題がひとつ残っているのですが、する気が起きなかったので、私はPCを開きました。
見るのは、ゲームのWiki。
いくつかの調べものをしようと思います。
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〔首狩兎〕〔アクティブモンスター〕〔周辺〕
角兎型モンスター。同型モンスターの中で、現在確認されている中、最も強敵。敏捷が高く、好戦的で、アクティブになる範囲が広い。
四色おり、攻撃力に優れた『桃』、防御力に優れた『青』、隠密に優れた『緑』、バランス型の灰色のもの(無印)。灰色のものが最も数が多い。
攻撃手段は、角兎特有の『突進』の他、風属性を纏った蹴りを放つこともある。
≪以下ステータスとスキルの代表例≫
(略)
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〔白虎〕〔フィールドボス〕〔フィールド〕
〔フィールド〕に稀に出現するボスモンスター。
ボスクラスモンスターの中では小型で、ボスと思わないまま近づき、狩られるプレイヤーが続出した。敏捷が高く、また風属性範囲攻撃や足止め系統など、多彩なスキルを持っている。
未討伐。
≪以下は従魔進化による入手で判明した代表例ステータス≫
(略)
― * ― * ― * ―
……ユクウェシャさん。
ぬいぐるみだけど、とんでもないモンスターです。
渡されるときに、どれかひとつ、と言われた理由が分かりました。強力すぎるんですね。
「でも、まだティガは動いてなかったよね。一体ずつなのかな?」
……と、言いつつ、檻とアシャばかりに注目していたので、ハッキリと思い出せません。
それに。
「ラビとティガ、どこにいっちゃったんだろう」
戦闘不能になって、スタート地点に戻ってきたら、いなくなっていた、ふたり。
あんなにしっかりと掴んでいたのに……すごく、寂しいです。
――結局、ログインしたあとに、インベントリに入っているのを、発見するんですけれども。
それを知らない私はまた、ちょこっとだけ涙したのでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
二人の不思議な関係性、少し描いてみました。
ちなみに、この時、プリ○ュア観ながらでした。そんなテンションで、すみません。はぐプリを最初から観たい。
次も、二日後です。よろしくお願いします!
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