21 『守護の檻』の弱点
夜の広場の真ん中。
どこかから漂う、緑と土の香り。
夜の闇に褪せた、アイボリー調の石畳の向こうには、まるで、絵本に出てきそうな石積みの家が、黒く立ち並んでいて、そこを目に優しい色合いの、明かりがほんのり、灯っています。
私はそこに立ちすくんだまま、今、何が起こったのかと、考えようとしました。
アシャとふたり、森を進んで、モンスターが現れたらアシャが走り出して、檻が降りてきて。
腕から、耳と手足の先だけ白い、ピンクの角付きウサギさんが飛び出して、アシャと一緒にすぐ、みんな倒してくれる……
「あれ?」
そこで、気がつきました。
「ラビ? ティガ!?」
ずっと手元にいた二匹がいません。
周りを見ても、落としたのかと足元を見ても、二匹はいませんでした。
それどころか、人影が全くないのです。
「ふぇ……ラビぃ……ティガぁ……アシャ……!」
誰もいない。
夜の真っ暗い町の中、一人きりです。
膝の力が抜けて、そのまま、崩れ落ちるようにしゃがみこんで泣いてしまいました。
「月詠っ! 大丈夫!?」
遠くから、足音と共に声が聞こえて、顔をあげました。
「アシャ……ッ!」
「うっわ! 月詠、大泣きじゃんッ! 怖かったよね、大丈夫だった?」
近づいてきたのは、もちろんアシャ。
ひどく心配そうな顔で、こちらに全速力で駆け寄ってきてくれます。
私は、すぐそばまで走ってきてくれたアシャに抱きつきました。
「アシャぁ~!」
「ぅお、あはは。よしよし、怖かったね」
アシャは嫌がりもせずに、掻きつく私を抱き締め返して、頭を撫でました。
ううう……怖かったよ~!
「いきなり、真っ暗になるし」
「うんうん」
「気がついたら、町の中だし」
「うんうん」
「アシャいないし、ラビもティガもいないし」
「うんう……ん?」
「夜だし、誰もいないし、一人きりだし」
「あ~……うん、?」
「怖かったよぉ~!」
抱きついて泣きじゃくる私を、アシャはゆっくり優しく撫でてくれます。
少し困っているような雰囲気もありますが、腕は止まりません。私の涙も止まりません。
思えば、お気に入りの自分の服を間違って破ってしまったときも、テストの項目をほぼ全部ずれて答えてしまったときも、アシャはずっとそばで慰めてくれました。
後から考えると、私でも、何でそこまで泣いたんだ、という理由なのに、じっと根気よくそばにいて、慰めてくれたんです。
失恋したとか、ひどく誰かを傷つけた、とか、誰でもわかるような理由で泣くなら、そばにいるのも分かりますが、よくわかんない理由でそばにいるのは、本当に根気のいることだと思います。
それを、アシャは、あゆらは、ずっといてくれて、安心させてくれた。
何て得難い親友なのだろう、といつも思います。
そう、感謝を込めて、顔をあげると、困ったような、心配げな、そういう目をした美形さんが、こちらを覗き込んでいました。
「……心臓止まるかと思った」
「そこまで、怖かったの?」
なんか、話がずれていますが、指摘しないでおきます。驚きで、涙が止まったから良し。
「けど、良かった。初めてのVRでの死亡って、人によっては、すごくショックみたいだから」
「へ?」
しぼう?
「プヨプヨ?」
ほっぺを引っ張ってみますが、特に太った感じはしません。アシャに、ベタすぎるとツッこまれましたが、どういうことですか?
「戦闘不能になりました、ってアナウンス流れなかった? 月詠、レッサーエイプに、不意打ち受けたんだよ」
たしかに、戦闘不能に、というアナウンスは聞きました。
なるほど、いわゆるゲームオーバーになってしまったようです。
一瞬で、真っ暗になってしまったので、死亡したような記憶はないのですが……。
「レッサーパンダ?」
「エイプ! 猿だよ。狼の他にも出てくる、って言ってたやつ。私は、そこからすぐに逃げてきたけど。あれ、戦闘になると数を呼ぶから、一人だときついのよ」
状況を聞けば、なるほど、おサルさんに、後ろから不意打ちされて、私の弱小防御力が消し飛んだようです。
「あれ? でも、檻は?」
戦闘になれば、落ちてきて、私を守ってくれる『守護の檻』。
あれがあれば、私は傷さえつかないはずです。
けれども、アシャは首を振りました。
「あれは、戦闘になってから出現するから、出てこなかったんだと思う。不意打ちされるまで、戦闘は開始されないから」
「そうなの?」
つまり……『守護の檻』は、不意打ちに弱いということですか? それは思わぬ弱点です!
「『不意打ち』が失敗……つまり、死角からの攻撃をいち早く察知すれば、襲われる前に、戦闘開始することもできるけれど、月詠、戦闘スキルとれないんだよね?」
「うん」
女神さまの称号効果で、戦闘スキルは取得不可です。
「不意打ちや、即死を防ぐ装備もあるんだけど、月詠、装備品つけられないんだよね?」
「うん」
女神さまの称号効果で、装備欄に乗るものは、着けられません。
アシャが、頭を抱えました。
詰んだ……とか言ってます。
「『気配察知』もアクセサリもなしで、不意打ち予防は難しいわ……」
私もわかりました。もはや、これは限定キャラっていうより、呪われキャラって言うんじゃないでしょうか……。
けれども、私は言います。
「大丈夫だよ」
アシャが、安心できるように、にこりと笑いました。
「だって、私、もともと戦闘苦手だから」
にへら、と顔を崩す私に、アシャは首をかしげました。
お読みいただき、ありがとうございました。
ちょっと文字数の関連で、中途半端な所で切ってしまったのですが、自然に引きになってたらいいなぁ。
ちなみに、このゲームの武器装備には、一切の例外なく、弱点が設定されています。
次も、二日後に、更新します。よろしくお願いします(*´ω`*)
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