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19 ピンクうさぎのラビ

「それに、その子達もいるし」


 ん?


「その子達って?」


「え? 名前もつけて、可愛がってるでしょ?」


 そしてアシャが指すのは、私が腕に抱くぬいぐるみ、ホワイトタイガーのティガとピンクうさぎのラビ。


「その子達、ホーンラビットが飛びかかって来てる間、警戒しながら、攻撃命令待ってたよ」


「えっ?」


 攻撃命令を待ってた? この子達が?

 もふもふのぬいぐるみの、柔らかいところを抱きます。


「召喚獣相当の力があるんだよね?」


「だっ……ダメだよ、こんな柔らかいんだよ。戦うなんて。破かれちゃう」


 首を激しく横に振りました。

 こんなふわふわたちが戦うなんて。

 そんなことできません。


「んー……まぁ、ぬいぐるみを愛する月詠には、ハードルが高いか。じゃあ、場所移して練習続けよう」


 そう言ってアシャは先に進み出しました。

 慌てて追いかけます。



 しばらく歩くと、草原の向こう側に見えていた木立に近づきました。

 アシャは、木立の向こうをちょこちょこ覗いていましたが、やがて頷き、振り返ります。


「森の中に入ってみよう。『守護の檻』があれば大丈夫だと思う」


「大丈夫?」


「うん。昼間はレベル4~8ぐらいの適正だけど、夜は6~12ぐらいになるというし。浅いとこなら私でも余裕かな」


「え、それ大丈夫なの?」


 私はまだレベル2ですよ。


「『守護の檻』がなかったら、絶対入らなかったよ。でも、だから大丈夫」


 それに、とアシャは艶やかに笑って追加しました。


「上に障害物があっても、発動するのか見たいじゃない」


 ……。

 たしかに、檻は空のどこかから落ちてきますものね。ちょっと気になります。


「わかった、行こう!」


「うん!」



 そして、二人で藪の中へと足を踏み入れました。



「現実じゃ、虫とか気になって、こんなとこ入れないね」


「だね」



 藪を越えると、所々に地面の見える、あまり管理された様子のない林になっていて、草原のような見通しの良さがありません。

 少し先には、倒木も見えます。


「ここには、何が出るの?」


「昼間は、さっきのホーンラビットと、グラスウルフっていう狼。夜はグラスウルフと猿って聞いたよ」


「おサルさん?」


 そんなかわいいものじゃないよ、とアシャが言ったところで、ピタリと止まりました。


「アシャ?」


「しー」


 アシャの指差す先に、影がありました。


 背中と頭の上だけ、色が薄くなった狼です。


「あれが、グラスウルフ。焦げ茶色の体毛に、頭と背中だけ黄緑になってるの。今は夜で、色がわかりづらいけど」


 頭の中で、学年で草引きをした時のことを思い出しました。黄緑色の草の下に、ごっそりてくっついてきた焦げ茶色の土。


「まさに(グラス)(ウルフ)って配色だね!」


「そう? 他のゲームだと、焦げ茶色じゃなくて、汚れた灰色が定番なんだけど……」


 そのグラスウルフが一匹だけ、のっそりと歩いています。

 どうやらこれを狙うみたいですね。


「あいつは『アクティブモンスター』と言って、ホーンラビットと違って見つかったら襲ってくるタイプのモンスターだから、気を付けるよ」


 そぅっと近づき、アシャが剣を振り抜きます。


 ギャンッ


 グラスウルフは、一瞬のけぞり声をあげると、眼を真っ赤にしてアシャを睨みました。


 ガシャンッ


 ……すっかりその様子に注目していた私の上から、檻が降ってきました。どこから落ちてくるんだろう……。


 アシャは、なんと言うこともなく軽々とグラスウルフの攻撃を避け、二撃目であっけなく倒してしまいました。


「こいつは、群れが怖いタイプのモンスターだから、一匹だけなら余裕だね。もう少し進んでいい?」


 ウキウキと楽しそうなアシャを見ると、私も楽しくなってきます。もちろん、と言って頷きました。




 少し進んだ所に、二匹のグラスウルフがいて、さっきのと同じようにウロウロしています。


 どうする? と言われたので、行こう、と言いました。

 先ほどのアシャの戦いぶりからすれば、全く余裕でしょう。


 アシャが私たちのいた藪から飛び出します。


 グラスウルフたちは気がつき、アシャに向かって、ガウガウと吠えました。


「ありゃ」

 ガシャンッ


 ……まだ、アシャの剣が届く前に、檻が落ちてきました。吠えるのも、攻撃なんでしょうか?

 そういえば、アシャが、こいつらは見つかったら襲ってくるとか言ってましたし、そうかもしれません。


 私はそこでおとなしく、戦いの行方を見守ることにしました。



 が、


 グァウガウ!


「えっ?」


「クッ」


 別の方向の藪から、さらに二匹のグラスウルフが出てきました。

 合わせて四匹。さすがにアシャでも対処できるとは思えません。


 思わず駆け寄ろうとしますが、それを檻が阻みます。

 どうやら、所持者(わたし)は、出入りできないようです。


「えっ、ど……どうしよう」


 避け続けるものの、攻撃のタイミングを見極められずにいるアシャ。

 助けたい。けれど、どうしたら……と考えていると、腕の中から、暴れる気配がしました。


「きゃあっ」


 ピョンと私の腕を蹴って、飛び出したのは、ピンクのウサギ、ラビです。

 地に降り立ったラビは、腕を腰にあて、鼻息をフンスとしそうな様子でした。

 そして、戦うアシャとグラスウルフをチラチラと見ながら、何かを待っているようです。


「ラビ」


 その様子を見た私は、決断しました。



「お願い。アシャを助けて」



 私の言葉を聞いたラビは、アシャに向かって一直線に駆け出すと、グラスウルフに蹴りを食らわせました。

 そして、そのまま戦いはあっという間に、決着がついてしまったのです。



 私は、消えていく檻の中で、へなへなと座り込みました。

お読みいただき、ありがとうございました。


やっと、戦闘ウサギが動きました……!

ちなみに、青と緑は『ボゥ』と『パル』。


次の更新は、また二日後です!



誤字脱字その他、ご指摘ありがたいです。


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