18 檻
「キャァアア!!」
空から落ちてきた檻に捕まった私は、叫び声をあげました。
「何? なにこれ」
おそるおそる、檻に触れると、冷たい鉄のような感触がします。腕の震えが止まりません。
「月詠!」
アシャがホーンラビットに止めをさして、こちらに助けに来てくれました。
すると、
「あ……?」
檻は、足元からすーっと消えて、まるで何もなかったようになりました。
「大丈夫? 月詠」
「う……うん。何だったんだろ」
辺りを見渡しますが、なにもありません。
一瞬だけ、現れた、私の不安の権現だったのでしょうか? 手を、ぎゅっと握ります。
「月詠、今度は私のそばにいて。絶対守るから」
「わかった」
私は、アシャの側にぴったり寄り添いました。
すると、また茂みの向こうから、ホーンラビットがぴょこんと現れます。
「ここは一匹か二匹しか出てこない。そして向こうは行きどまり。人は滅多に来ない。穴場の練習場」
アシャはそう言いながら、じりじりとホーンラビットに近づいていきます。
「大丈夫。側にいる。だから……試させて」
試す?
すぐ側に来たとき、アシャはほんの切っ先を、ホーンラビットに差し出しました。
ホーンラビットはバッとこちらを見ると、威嚇するように鳴きました。
そして。
「ひっ」
ヒュン ガシャーンッ
また、空から檻が落ちてきて、今度はアシャも一緒に捕まえました。また驚いた私は、今度は叫び声の代わりに、アシャに抱きつきました。
「ひゃっ、アシャ、また」
「うん……見て、月詠」
震える私が抱きついたアシャは、冷静そうな顔をして、前を剣で示しました。
檻の、棒の一本一本は、とても細くて、直径一センチぐらい。それが五、六センチぐらいずつの間隔で並んでいて、天井と下の方には精緻な蔦の模様が、恐らく棒と同じ材質で作られています。
外から見れば、とてもきれいだろう、銀色の檻。
その向こう、アシャの剣が指す先には、ホーンラビットが鋭い視線を向けています。
そして、 ギキューッという鳴き声とともに、飛びかかってきました。
「きゃっ」
思わず目をつむります。
ガンッ
ギキュッ ぼてっ
金属の板に何かがぶつかったような音。
そのあとに、ホーンラビットの短い鳴き声がして、柔らかいものが落ちる音がします。
そっと、目を開けました。
ギキャウ!
飛びかかるホーンラビットと目が合いました。
「きゃあっ」
ホーンラビットは、ぬいぐるみのラビたちより少し小さなぐらい。いえ、もふもふ加減で大きく見えるだけで、体高は同じぐらいのようです。
それが、こちらに角を向けて、鋭い目付きで飛びかかります。
ガン
ギキュ
しかし、その鋭い角はこちらに届くことなく、檻の棒がある辺りで弾かれています。
この金属の音は、檻の弾いた音だったようです。
落ちたホーンラビットは、また体制を整えて飛びかかり、弾かれてはまた整え、飛びかかるのを繰り返しています。
「これ……どういうこと」
そのすべてを防いでいるのは檻。
空から降ってきた鳥かご。
「うん、やっぱりね」
アシャは長く息を吐くと、腕に絡み付いた私に笑いかけました。
「アシャ?」
「オルゴールだよ、月詠」
……え?
「オルゴール?」
「月詠、オルゴールの説明文思い出して」
オルゴールの、説明文。
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守護の檻のオルゴール〔アイテム〕☆唯一
美しい曲が流れるオルゴール。戦闘時には、常に所有者を『守護の檻』で護る。
ただし、所有者は防具装備不可になる。
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「つねに『守護の檻』でまもる」
「さっきステータスに『守護の檻』ってスキルあったよ、効果見た?」
私は首を振ると、ステータスからスキル欄を見ました。
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『守護の檻』〔スキル〕MPなし(戦闘フィールド内パッシブ)
『守護の檻のオルゴール』所持者限定スキル。戦闘中、所持者を完全防御の檻で護る。檻にいる間、所持者はけして傷つくことはない。
所持者の召喚獣、従魔、それに準じるものと、パーティーメンバーは出入り自由。ただし効果は所持者の他5人(体)まで。
『守護の檻のオルゴール』がインベントリ内でも発動。発動後、移動不可。
――――――――――――――――
ああ、知ってる。
私、こういうの何て言うか知ってる。
「チートだ」
「うん?」
私の呟きに聞き返すアシャに対して首を振ります。
「とりあえず、『パーティーメンバーは出入り自由』だって。アシャ」
「うはw 便利だね、了解」
アシャは好戦的な笑顔を見せてから、一歩前に出ると、また飛びかかってきたホーンラビットを、一刀のもと両断しました。
するとまた、檻はすーっと消えます。
私は、驚いた拍子に手放してしまったらしい、二体のぬいぐるみを拾いながら、『守護の檻』の説明文を読み上げました。
ホーンラビットは、こちらから攻撃を仕掛けなければ、襲ってこないらしく、少し離れた場所で、草を食んでいます。
「成程、チートだね」
説明文を聞き終わったアシャは、ニヤリと笑いました。
「さっきね、わざと檻の中から攻撃したんだ」
「……あ」
そういえば、檻から出ないまま攻撃してた。
「パーティーが戦闘中でさえいれば、どこにでも安全地帯が作れちゃう、チートだね」
「それってすごいこと?」
「ものすっごいこと。他の人がやってたら、ズルい! って言っちゃう」
「ズルいんだ……」
エルフさんがくれた、古代の遺物のオルゴール。
本当にとんでもないものでした。
「持ってていいのかな……?」
やっぱり返した方が。
「むしろ、月詠はそれぐらい持ってないとダメでしょ。身を守るすべがないんだし。守る側からしても、安心だわ」
大きく頷かれて、返す、という選択肢を引っ込めました。
うん、もうズルい、って言われるほどのアイテムです。使いこなすほど、使い倒しちゃいましょう!
お読みいただき、ありがとうございました。
そんなわけで、ぶっこわれスキル付きアイテム『オルゴール』でした。
次の更新も、二日後です!
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