17 はじめてはじめて
せーの、という掛け声とともに、両足でぽんっとジャンプして、前に出ました。
「初、町の外っ!」
アシャが小さく拍手してくれましたが、門番のひとは不思議そうに見ていました。
私は、このゲームを始めて、初めて外に出ました。
初日に出てる人も普通にいるのに、私の初日はチュートリアルで終わりましたからね。
で、翌日はアシャと出会って、オルゴールを見つけて……その次の日、昨日はお金集めるのに必死で。
「はじめてはじめて、って変な感じ」
テンションアップしたまま、草原を談笑しながら行きます。
動きやすいように、ぬいぐるみは二体だけ。ホワイトタイガーの『ティガ』と、ピンクウサギの『ラビ』です。
夜の草原は、風が草を揺らす音ばかり……と、思いきや?
「たー!」
「えいっ」
「このー!」
あちこちから、掛け声が聞こえます。
顔の判別ができるほどではありませんが、あちらこちらに、月明かりで影が浮かんでいます。
「学生は、やっぱりこの時間にレベルあげしてるよね。まぁ、昼時間帯より少なそうだけど。」
アシャは、慣れたもので、その辺りをスルーして、ぐんぐん歩いていきます。
「アシャ? 道はこっち……」
「道沿いは人が多いから。町の柵を辿って反対側が穴場」
慣れてるなぁ、さすが、レベル7……あ。
「そうだ! アシャ、私、レベル上がったよ!」
「えっ! 本当? おめでとう!」
えへへ、言い忘れてましたが、昨日のクエスト中に上がったのです!
アシャに、ステータスを見せます。
……って、んん?
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[名前] 月詠
[種族/性別] 猫天使 / なし
[レベル] 2
[職業] ぬいぐるみますたぁ
[HP] 60 [MP] 100
[STR] F-
[VIT] F-
[INT] F-
[MND] D+
[DEX] E+
[AGI] D
[LUK] B-
[スキル] ぬいぐるみエール,『守護の檻』
[称号] 封じられし女神の化身
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「なんか、レベル上がったときより、強くなってる……」
MPは、まだ二桁だったし、[DEX]も変化がなかったはず。
「あー、職業補正じゃない?」
「あ、そっか」
職業『ぬいぐるみますたぁ』。見た瞬間になった、お気に入り職業。見ればスキルもついています。
「ぬいぐるみエール……」
「何だろ、説明は?」
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ぬいぐるみエール Lv.1〔スキル〕MP1
名前をつけたぬいぐるみを応援する。
通常時、ぬいぐるみの毛づや、やわらかさアップ。戦闘時、パーティーメンバーのHP小回復。
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「おー、回復スキル!」
「ぬいぐるみ限定じゃなくて、パーティーメンバーにも効果あるの嬉しいね。スキルレベル上がれば、効果が増えるかも」
「じゃあ、いっぱい使わなきゃ!」
さっそく、私はティガとラビに使ってみることにしました。
「『ぬいぐるみエール』」
キラキラとしたエフェクトが広がって、二匹のもふもふ感がさらにアップしました。
「わぁい! かわいさアップだよ~♡」
「いや、アップしたのは、毛づやとやわらかさだよね?」
「だからかわいくなったんじゃない」
アシャのツッコミに、素で返しました。何をいっているのかね。
「MPあんまりかからないから、便利だね」
「そういえば回復系スキルの最低MP5だったはず」
「え」
「ホント、ホント。でも、レベル上がったら、MP消費量も上がるかもしれないね」
えー! いわゆる良スキルですか? ラッキーです!
きっと、長くお世話になりますね。
「『ぬいぐるみエール』『ぬいぐるみエール』」
結局、穴場ポイントに着くまでかけ続けていたら、レベルが上がりました。
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ぬいぐるみエール Lv.2〔スキル〕MP2
名前をつけたぬいぐるみを応援する。
通常時、ぬいぐるみの毛づや、やわらかさアップ。戦闘時、パーティーメンバーのHP小回復。
――――――――――――――――
「MP消費量が上がった……」
「やっぱり?」
「のに、説明文が同じ……」
「あー……それでも低いけどね」
ちょっとした不安が出てきました。
「ちなみに、MP5消費する回復スキルって、どんな効果?」
「たしか、『対象のHP微回復』」
ん? び?
「微?」
「うん、微回復。ただし、戦闘中じゃなくても、町中でも使えるよ」
「あ」
確かにこれは、人に対しては戦闘中にしか回復できません。なんてこと。
「うわぁ、良スキルだと思ったのに!」
「でも、小回復スキルってMP10だし。スキルのレベルMAXって10だし」
え? ってことは、MAXまで変わらなくても、同程度ってこと?
「え、そうなんだ。じゃあ……ちょっとお得?」
「お得、お得。そもそも、戦闘時の回復手段が多いのは、安心感が段違いだから」
ふふふ、とアシャが笑います。
そっか。それじゃあ、大丈夫かな。
「うん、足手まといじゃないんだね?」
「月詠が? まさか。まず、やってみようよ」
「うん!」
良かった! よし、回復がんばろう!
茂みの向こうから、角のついた白いウサギさんが出てきました。
ラビたちと、色違いですね。
「あれが、草原の夜のモンスター、ホーンラビット。私が切りかかるから、月詠はそこからサポートお願いね」
剣を抜き放ちながら、アシャは言います。
「わかった」
返事をして、ホーンラビットとアシャに注目します。
少しでもアシャにダメージが出れば、すぐに回復する!
アシャが、軽くホーンラビットに切りかかりました。
ホーンラビットは、牙を剥いてアシャを威嚇します。
と、
「え」
ガシャーンッ
「キャァアア!!」
天から、
鳥かごの檻のようなものが落ちてきて、
私は捕まってしまいました。
お読みいただき、ありがとうございました。
主人公が捕まってしまった!
待て、次回!!
土曜日更新予定です(*´ω`*)
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ありますので、ぜひご活用くださいませ!




