01 フロックス オンライン
「設定はできてるよ」
「ありがとう、叔父さん!」
私は自分の部屋に、画面の向こうでしか見たことがなかった機械がある光景を眺めました。
これが届いたのは、一昨日の朝。
懸賞を趣味とする母が当てたもので、けれども母はこういう機械には弱い人なため、私がやるならと譲ってくれました。
入っていた説明書を父に見せて、父の弟である叔父さんなら、設定ができるだろうという話になり。早速頼んで、今日、私が学校に行っている間に、環境を含めた設定を全てやってもらっていました。
本当に、ありがとう叔父さん。
「どのゲームをやるんだい?」
私が、あゆらと決めたゲームの画面を見せると、叔父さんは「ああ」と言いました。
「僕は、これ自体はやってないんだけれど、同じ運営のものをプレイ中なんだよ。きっちりしている所だから安心だね」
と、ダウンロードサイトを入力。
必要な登録情報もすべて、入力してくれて、間違いがないかだけ、最後に私に確認させてくれました。
あとはダウンロードさえ終われば、すぐに始められるそうです。
10分ぐらいというし、今のうちに宿題終わらせてしまいましょう。
やがて。
機械の装着と、入ったあとの操作の仕方、緊急時の対応を教えてもらい、枕や布団、クッションを特別な形に配置したベッドに横になりました。
叔父さんは、初めての装着なので、念のために今回のゲームが終わるまで、そばにいてくれるみたい。
安心。
だけど、彼女さんはいいのかな?
さて。
本宮るな、14歳。
はじめてVRの世界に入ります。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
ベッドに横たわって、ゲーム名を選んでエンターを押すと、一瞬だけ体の感覚が薄れて、戻ってきました。その時には、周囲は私の部屋ではなくなっています。
こういうタイプは、フルダイブ型VRというらしいですね。一番、臨場感があるって聞きましたが、そもそもその世界に入り込んでる感じです。
まるで明晰夢のような感覚を受けながら、私は、硬質で無機質な世界の中にたたずんでいました。
辺りが暗いようなのに、自分の姿がはっきり見えるのは……
単に、壁や天井などが黒いからなんでしょう。
壁や天井などとは言っても、部屋の中という感じはしません。無限に広がっている空間、という感じ。黒いけれど。
そんな空間に、突然電子的な直線が走りました。
発光しているように見える、その青白い細い線は、数十本に増えて、私を四角く取り囲みます。
その大きさは小部屋ぐらい。圧迫感はなくとも、少し狭め?
さっきまでは巨大空間だったのに。線はすごく細いし間隔も広いから、それで圧迫感がないのかな? でも、巨大空間から区切る理由って、何でしょう。??
何て考えているうちに、半透明な板に文字が書かれたものが次々と浮かび、最後に薄着の少女の立体アニメーションモデルが浮かんで、ゆっくりと回転し始めました。
≪ようこそ、フロックス オンラインの世界へ≫
今まで、ヴンッという、起動音のようなもの以外なかった空間に、初めて誰かの声が響きました。
聞き取りやすい、女性の声です。
≪キャラクターメイキングを開始します。詳細説明を聞きますか?≫
キャラクターメイキング。
事前に聞いていました。
あゆらも叔父さんも、初めてのVRだから、キャラクターはお任せがいいだろう、って。
だから、目の前の透明板に浮かぶ『yes/no』の表示に触れないまま、私はこう言いました。
「おまかせします」
≪……音声入力確認。回答分析します……ERROR。再分析……音声確認。……ERROR。ERROR:381……検索…ます。おまち……さ…………SCENARIO OPTIMIZATION………… METHOD IN EMERGENCY…………PROGRAM ……。……介入…………認識……CLEAR。プログラムを起動します≫
なにかすごくいろんな、ごちゃごちゃした音声と機械音が流れ続けたと思ったら、急にスッキリとしました。
そして、目の前のモデルや透明な板が取り払われ、電子線がくるくると回転したかと思うと、『ポーン』という音とともに弾け、装飾された透明板が浮かびました。
[ Welcome "Phlox harmony On-line for japan" ]
≪フロックス オンラインはあなたを歓迎します。どうぞ、楽しい冒険を≫
女性のアナウンスが流れたとたん、黒で埋め尽くされていた空間が、みるみると白く塗りつぶされていき、私は、眩しさに目を閉じました。