16話 夜の広場で
ログインしました。
今日は土曜日です!
昨日はお金を用意するのに、アシャとは遊べませんでしたからね。午前中、エルフさんの所に行って、お昼ご飯を食べたあと、一度いっしょに戦闘をしてみようということになっていました。
待ち合わせ場所は、あの、花がいっぱいの小さな広場です。
「あれ? 暗い……」
周囲が暗く、あちらこちらに明かりがついています。
「そっか、夜か……」
このゲームでは、現実の一日の間に、三日が過ぎます。
朝の6時から、お昼の2時までで一日。
お昼2時から、夜の10時までで一日。
夜10時から、朝の6時までで一日。
この、朝6時、お昼2時、夜10時の前後二時間が、夜になります。
今は、お昼一時頃。夜の時間帯です。
まだアシャはログインしていなかったので、私はベンチに座って、新しく就いた職業の説明文を眺めていることにしました。
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〔職業〕 ぬいぐるみますたぁ
ぬいぐるみを愛し、ぬいぐるみに愛される、もふもふマスター。
所持するぬいぐるみの数で、強化。
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見るたびに、ニンマリしてしまいます。
なんて素敵な職業なんでしょう。
ぬいぐるみに愛し愛される。まさに理想的な職業です。
他にもたくさんある職業の中で、見た瞬間、私がなるべきはこれだと悟りました。
この前アシャに相談した時にはなかったと思うんですが……。
ふと、両腕のウサギさんとトラさんを見ます。
この子たちを手に入れたからかもしれません。
ふわふわと撫でれば、癒しの柔らかさが、手のひらから伝わります。
ギュッとすれば、夜の広場に一人、というシチュエーションも、全く怖くありません。
くすくすと笑いながら、しばらく過ごしました。
「月詠、夜の広場で女の子がぬいぐるみに話しかけながら笑ってるとか、怪談だから」
アシャにそんなことを言われてしまったので、場所を移すことにしました。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
「夜になるの、失念してたね……今までのログインだいたい昼間だったし」
町の北西にある、プレイヤーの露店が多い地域に向かいながら、これからどうするか話し合います。
「夜だと、よくない?」
「初戦闘には不向きかな。夜の時間帯のモンスターは強くなるから」
ああ、なるほど……昼の時間帯と夜の時間帯で、モンスターが変わっちゃうのか。
「でも、まぁ……珍しいアイテム使うしね。周りから見えにくい夜の方がいいかも」
珍しいアイテム。
そっか。このオルゴールは☆唯一だし、ぬいぐるみが召喚獣の代わりになるとか、珍しいですよね。
「効果はどちらも戦闘時のみだし、HPMPポーション多めに持っていけば大丈夫」
「そっか。あれ? じゃあ薬屋さんでいいんじゃ……」
と、ちょうど、薬屋さんのある通りに出ました。
……おやや?
「閉まってるね」
「夜に切り替わる頃に来ると、店じまいしてるおばあちゃんが見られるよ」
「へぇ」
つまり、NPCのしているお店は、夜には閉まってしまうということ。
だから、プレイヤーのお店に行くんですね。
「おもしろいね」
「そうだね」
二人で笑い合いました。
プレイヤーのお店が並んでいる場所に着きました。
「もっと混んでるかな? と思ったけど……」
露店も、人も、ちらほらとしています。
「うーん、土日の昼時間帯の『最初の町』だもんね。そりゃ少ないか……」
アシャは、入り口から少し入った場所にあった露店で、HPポーションとMPポーションをそれぞれ求めると、引き返しました。
「次の次の町、『商業都市のミティガ』や、五番目の町『王都・イツリマ』なら、この時間帯も賑やからしいけどね。だいたい、夜の狩りに行く人か、攻略組が入る時間だから」
「次の次の町?」
聞けば、ここから、『王都・イツリマ』まで五つの村と町があり、ここは『最初の町・サトゥフ』なのだそうです。
『王都・イツリマ』までは、一本道。
『二番目の村・フドゥア』、『商業都市・ミティガ』、『不遇の町・アンパッシ』、そして『イツリマ』と続いていくそう。
「そこからは、三方向に別れて……大丈夫? 無理に覚えなくていいよ」
「う、うん。大丈夫……」
固有名詞がたくさん出てきました。
とりあえず、『商業都市』と『王都・イツリマ』だけ覚えておけば大丈夫らしいです。
あうあう。
「一番、進んでいる人は、その『イツリマ』?」
アシャは、うーん、と唇の下に指を当てると、
「王都から、三つ目の町が最前線だって聞いたよ。まぁ、そこから王都までちょこちょこ戻ってきたりしてるみたいだけど」
「へぇー」
ここから見れば、7つも向こうの町。
次の町へも、まだ行ったことのない私には、想像もつかないぐらい遠くです。
「私たちが行くのは、いつになるんだろうねぇ」
呟くように言えば、アシャがくすくすと笑いました。
「私としては、ゆっくりじっくり行きたいなぁ。今朝の月詠がクリアしたみたいなさ。攻略組が見逃したレアクエストが、まだまだいーっぱいあるかもよ?」
そう言って、アシャがホワイトタイガーのぬいぐるみの額を押します。
「そっか……」
私は口元が緩むのを止められませんでした。
じっくり、ゆっくり、自分のペースで。
ゲームを楽しめば、それでいいんです。
「ゲーム、楽しもうね、アシャ」
「うん、楽しくやろうね、月詠」
いつも学校でしているみたいに、合わせたハイタッチは、ゲームの中では身長差で、アシャの腕は縮んだままになっていました。
お読みいただき、ありがとうございました。
前話までの、エルフさんを訪ねた日の、現実世界で言う午後、になっています。
主人公たちは、いつもだいたい5時から9時まであたりにプレイしていました。
固有名詞いっぱい出でてきましたが、そのうち地図でも書きます。
次の更新予定は、木曜朝8時に予約投稿します。
よろしくお願いします(*´ω`*)
誤字脱字その他、ご指摘ありがとうございます。
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