15 唯一無二
町の東から中央に行くまでに、小さな広場がありました。
色とりどりのカワイイ花が、四方の花壇に咲いていて、それを見られるように、ベンチが中央に四角く置かれています。
ここに二人座って、それぞれのアイテムの検証をすることにしました。
「例えば、初ダンジョン踏破者や、高難易度のクエストを初めてクリアした人なんかに、その人に合った、その人だけの装備やアイテムをくれるの。それが、専用アイテム」
「へぇ」
Wikiをお互いに開いて、教えてもらいます。
ふと、ロップイヤーさんを思い出しました。これを作っているのは、あの人のギルドなんですよね。
おかげで簡単に、情報を調べることができます。ありがとう、ロップイヤーさん。
Wikiに向かって、ぺこりと頭を下げました。
「専用アイテムは、アイテムレア度が ☆唯一 になるらしいから、間違いないよ」
オルゴールのレア度は間違いなく、☆唯一。
Wikiを見れば、一番にクリアさえすれば、誰であっても、隠れキャラではなくても、専用アイテムが貰えるものだとわかりました。
私もほしいな、と、アシャが呟いています。
「じゃあ、ええと、呪いのアイテムじゃない?」
「その理論だと、月詠が呪われてることになるね」
「あう」
そうか、そうなるのかー。
呪われてます、って言われても、納得のキャラですけど。なんで封じられてるんでしょうね、女神様?
「じゃあ、別に他の人にも使えるの?」
「譲渡は不可かな。それに、デメリットがなぁ……まぁ、戦闘になれば、また違うかもしれないけど」
私だけが、このオルゴールを使える?
所有者を護る『檻』。いったいどんなものなのでしょう。……戦闘にならないと、分からないのかな。
「とりあえず、たぶんだけど『月詠』専用クエストではないはずだから、別の人なら別の効果になったかもね」
「えっ、そうなんだ……」
「むしろ、月詠にちょうどいい、オススメの力のはずなんだよ。特にこういう強い制限が入っているアイテムは、他のゲームでもすごい力があるんだけど」
「そう、なんだ……」
うわわ。じゃあ、すごいの貰っちゃったんだ。
え? いいのかな? ……今からでも、返した方がいいんじゃ。
ぐるぐる考えが巡ります。エルフさんのお友達。このオルゴールを作った人。キラキラ綺麗なピアノ曲を、ここに閉じ込めた人。
その人のために、その人のところに送るべきなのでは、という考えが、こびりつきます。
「ぬいぐるみは? ☆唯一 ではなかった?」
アシャの言葉にハッとして、慌てて緑色のウサギさんを渡しました。
アシャはじっと見て、「☆5」「くびかりうさぎ……」と呟きました。
「白虎は、☆7なの」
伝えれば、ふぅん、と眉を寄せて、こんなことを続けます。
「と、いうことは……たぶん、こっちのぬいぐるみは、あのエルフ縫製師さんに売ってもらえば、他の人でも手に入るものなんじゃないの?」
「えっ」
「え?」
思い浮かんだのは、たくさんのぬいぐるみ。
そして、もうすぐ旅に出るところだったというエルフさん。
ああ、あれとあれ、それからあの子とあの子も……。
「急がなきゃ!」
「えっ、ちょ……ちょっと待って!」
私は、エルフさんのログハウスにUターンです。もし、他の人でも買えるものだと言うなら、売り切れちゃうかもしれません!
ぜひとも、くまさんと鷲さん、それから妖精さんとシャチさんは欲しいです!
私は、再び木の下のログハウスにたどり着くと、ドアを叩きました。
「すみません、すみません!」
「ん? さっきの……どうしたね?」
エルフさんが出てきて、訝しげに首をかしげました。
「あの、私……」
ええと、どう言えばいいんでしょう。取り置き……ああでも、いつまでとかわからないし。うーん、うーん。
すると、扉とエルフさんの向こう側に、さっきと同じようにたくさんのぬいぐるみが見えます。
それは、まるで私を励ましてくれているようで。
私は、ひとつ深呼吸をすると、一気に言いました。
「私、きっともっとお金を貯めて、他のぬいぐるみちゃんたちも迎えに来ます!」
いつになるか、わからないけれど、あのかわいい子達と、旅をしてみたい。私はそう思ったのです。
エルフさんは、一瞬目を見張ると、柔らかい微笑みに変えました。
「ふふふ。そうだな。この子たちの中には、すでに主人が決まっているものもあるが」
「そうなんですか?」
あう、先客さんがいるのか……そうですよね、オーダーメイドも、きっとありますよね。
「そうでないものは、私と一緒に行動しているから、そのうち迎えに来るがよい」
その言葉に、息を止めて、エルフさんを見上げました。
ああ、私。
これをこのゲームの目標にする。
たくさんのぬいぐるみたちと、もふもふたちと、旅をするんだ。
「私、月詠です!」
「私は、縫製師……ぬいぐるみ師のユクウェシャだ」
「私、いろんなところを旅して、稼ぎますね!」
「ははは。私もいろんなところを旅しているからな。連絡先を交換するか?」
「よろしくお願いします!」
そうして、私は、ぬいぐるみ師のユクウェシャさんと、連絡先を交換しました。
これで、冒険者ギルドを通して連絡しあうことができます。
うしろで、アシャが「NPCと連絡先交換……」とか、頭を抱えているのには、気づきませんでした。
お読みいただき、ありがとうございました。
予想以上の反響に、クラクラしている作者です。本当にありがとうございます!
誤字脱字その他、ご指摘ありがたいです。
▼誤字報告 機能、ぜひご活用くださいませ!
+*゜。*。゜*+―+*゜。*。゜*+おまけのクエスト設定資料+*゜。*。゜*+―+*゜。*。゜*+
クエスト①
『なくなったオルゴール』から始まるチェーンクエスト
【発生条件】
〔チェスコ喫茶店〕の前にある細い路地に入り、出るまでに『オルゴール』を見つける。
(特殊クエスト『なくなったオルゴール』を開始)
【概要】
〔サトゥフ町の木材屋〕〔ゼフィーの木工屋〕〔サトゥフ町の雑貨屋〕のいずれか(もしくは複数)で情報を集める。→
ルート①
〔ゼフィーの木工屋〕で、オルゴールをきれいにしてもらう。(無料)
→冒険者ギルドでクエスト『形見の宝石箱を探して』を受けて、『オルゴール』を提出する。
⇒二週間後(ゲーム内一ヶ月半後)『探していたものではないが素晴らしい細工なので、貰い受ける』というメッセージと共に35,000gzを得る(徴収エンド)
→きれいにしてもらったあと、『鑑定士ギギル』(出現はゲーム内で四日ごと)が訪れた場合、オルゴールが魔道具だと知ることができる。
⇒ギルドに提出(→徴収エンド)
⇒靴屋の奥さんが、『箱型の魔道具』を無くしたことを聞く。
⇒靴屋に届ける。喜ばれて代わりに靴屋の買い物を二割引にしてもらえる(靴屋エンド)
(実は一般的には、ギルドに届けて、二週間後に35,000gzを得るか、靴屋割引を貰うかのクエストとして知られている)
ルート②
〔サトゥフ町の木材屋〕で『鑑定士ギギル』(出現はランダム)に出会い、オルゴールが魔道具だと教えてもらう。
⇒〔ゼフィーの木工屋〕できれいにしてもらう(→ルート①へ)
⇒〔ティフィーソの魔法屋〕できれいにしてもらう。(特殊クエスト『魔女への支払い』発生)
→〔ティフィーソの魔法屋〕に行く直前に〔フュカルノ魔法店〕を訪ねると、『魔女への支払い』発生時にフュカルノが同席してくれる。支払いクエスト達成後に、〔フュカルノ魔法店〕へ行くと、偏屈な縫製師が『オルゴール』をなくしたことを知ることができる。
(特殊クエスト『魔女への支払い』)
⇒翌日同時間帯(ゲーム内三日後)に40,000gz所持していると選択肢が現れる
⇒所持していない場合、クエスト失敗
⇒支払い時に
> 20,000gz渡す。
→足りないと言われ、さらに20,000gzとられる。
> 40,000gz渡す。
→よく集めたと言われ、そのまま受け取る。
> 60,000gz渡す。
→少し多いと言われ、25,000gz返される(5,000gz安く請け負ってくれる)。ティフィーソの好感度が上がる。
> 全財産渡す。(『魔女への支払い』発生時にフュカルノが同席している場合に出る選択肢)
→こんなにいらないと言われ、22,000gzで請負い、残りを返される。ティフィーソの好感度が上がる。
⇒ティフィーソの好感度が上がると、古代の遺物であると教えてもらえる。
(特殊クエスト『魔女への支払い』クリア)
⇒ギルドに提出(→徴収エンド)
⇒靴屋に届ける(→靴屋エンド)
⇒偏屈な縫製師に届ける。
→エルフがいないと、会うこともできない。
→出てきたエルフ(縫製師)に注目する。→怒鳴り散らされた上で、『オルゴール』を奪われる(→エルフエンド)
→『オルゴール』を持ってきたことをすぐに言う。→無言で受け取られ、扉を閉められる(→エルフエンド)
→ぬいぐるみに注目する。→家の中に案内された上で歓待され、召喚獣の代わりになるアイテム『ぬいぐるみ』を得る。(→クエストクリア)
→古代の遺物と知っている場合は『オルゴール』も譲られる(→クエスト完全クリア)
【報酬】
〔徴収エンド〕35,000gz
〔靴屋エンド〕以降靴屋二割引
〔エルフエンド〕なし
(→『魔女への支払い』を受けた場合、-22,000~40,000gz)
〔クエストクリア〕
召喚獣の代わりになる『ぬいぐるみ』☆3~7(訪れた人数分)
(完全クリア時、+『オルゴール』☆唯一)
【おまけ】
●誰かがクエスト完全クリアすると、クエストが消滅する。
●実は、靴屋の奥さんは、『オルゴール』を質屋にいれている。
●実は、領主は『オルゴール』を娘に渡さず、商人に高く売り払っている。
●木工屋のゼフィーは完全に慈善事業。
●縫製師のエルフは、人間たちや獣人たちに、ぬいぐるみ作りをバカにされてから、どちらも嫌いになった。
●家の中に招かれると、『オルゴール』の機械をつくったのが『マレビト』(→プレイヤー)だとわかる。(β版で、エルフにオルゴールを作ったプレイヤーがいる)
●縫製師のエルフは、三日以内に再度訪ねて「いつかぬいぐるみを買いたい」と伝えると、名前と連絡先を教えてくれる。(名前はユクウェシャ)
●召喚獣の代わりになる『ぬいぐるみ』は、この縫製師のエルフからしか手に入らない。
●召喚獣の代わりになる『ぬいぐるみ』は、どんな職業でも扱え、召喚獣や従魔の上限にはかからない。ただし、一度に8体までしか召喚できない。(召喚師や従魔師の場合、武器による補正がなくなるので、不利になることもある。)
●召喚獣の代わりになる『ぬいぐるみ』は戦闘開始時に取り出しておかないと、効果を発揮しない。(インベントリに入れていると、武器装備不可の効果も消える)
●わりかしこの『ぬいぐるみ』はバランスブレイカー。(ただしだいたいの☆唯一アイテムも、バランスブレイカー。)