14 謎の靴屋のチェーンクエスト
私が、ぬいぐるみたちに顔を埋めて、幸せに浸っていると、アシャが今回のクエストの名前を尋ねてきました。
「ええと……『なくなったオルゴール』だよ」
さっき、クエストクリアのアナウンスが流れましたからね。ログを見ながら伝えると、クリアしたのか、聞かれました。
「うん、クリアって流れたよ」
「やっぱりそうか……」
ん? やっぱり、って?
首をかしげていると、このクエストは、Wikiでは『謎の靴屋のチェーンクエスト』と紹介されていると教えられました。
この町の人気靴屋さんをゴールにしたクエストで、けれども手間のわりに報酬が以降の靴屋での買い物が二割引、という微妙なものなので、あまり人気のないクエストなのだとか。
「しかも、アナウンスは『『なくなったオルゴール』をクリア?しました』っていうもので、本当はクリアできてないんじゃないかって噂なんだって」
「へぇ……」
でも、私のログには、?なんてついていません。
「本当のゴールは、あのエルフ、ってことだったのかな。ねぇ、月詠はなんで、靴屋じゃなくてエルフのところに行ったの?」
「え? うーん……」
何でだったかな? ……あぁ、そうそう。
「確か、貰った情報で、オルゴールを探してるのが、エルフさんだけだったから」
「ん?」
アシャは、ちょっと難しそうな顔をしています。
「それで、エルフさんは人間や獣人が嫌いってヒントを貰ったから、アシャに付いてきてもらえばいいかなぁ? って」
うんうん、そうそう。人間や獣人が嫌いでも、同じエルフなら会ってくれると思ったんだよね。
けれど、アシャは、頭を押さえると、どう言えばいいのかなぁ、と呟いています。
ん? なんか違ったのかな?
「うん、ええとね。私を頼るのは正解だと思うよ」
「えへへ、やっぱり?」
得意気に胸を張りますが、アシャからは見えませんね。私は今、ぬいぐるみ4体を両腕いっぱいに抱えていますから。
しかし、アシャは続けました。
「でも、貰った情報は三人分だったんでしょ?」
「うん、そうだよ?」
確か、宝石箱を探してる領主の娘さん、箱型の魔道具を探してる靴屋さん、そして、オルゴールを探してる、エルフさんの三人分です。
ああ、そうか。どうして三人の中で、エルフさんを選んだのかということですね。
「これを探してるなら、宝石箱とか箱型の魔道具じゃなくて、オルゴールって言うと思うんだよね」
「ああ……なるほど」
オルゴールは今、ピンクのウサギさんと、水色のウサギさんの頭の間に埋もれています。
簡単に蓋が開く空っぽの箱は、宝石箱というよりオルゴールと言った方がいいし、魔道具とは一見わかりません。
「だから、私にはエルフさん一択だったんだよね」
へへ、と笑うと、優しく微笑まれて、頭を撫でられました。
現実より身長差がありますからね。撫でられる角度がちょっと違います。でも、優しさが同じ。えへへ♪
「しかし……と、なると、そのオルゴール……」
ウサギさんたちに挟まれた、オルゴールをじっと見ながら、アシャは言いました。
てか、この子たち、何か持ち方を考えないとですね。インベントリに入れて、交代で出すのもいいんですけど。
「初回クリア特典だと思うから、たぶん性能のいい魔道具だと思うよ。詳細は見た?」
「忘れてた」
はうう。
でも、クエスト中には見たんですよ。『不思議な力を感じる』とか書いてありましたけど。何か変わってるのかな?
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守護の檻のオルゴール〔アイテム〕☆唯一
美しい曲が流れるオルゴール。戦闘時には、常に所有者を『守護の檻』で護る。
ただし、所有者は防具装備不可になる。
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「!?」
えっ、なにこれ。なんかこの説明文、既視感。
「どうしたの?」
心配するアシャに、気になる説明文を読み上げます。
「『ただし、所有者は防具装備不可になる。』」
「!?」
「これって、呪いのアイテム?」
月詠は、もともと防具を装備できないキャラですが、もし普通なら、とんでもないデメリットです。
考えるように、口元に指を当てていたアシャは、こうアドバイスをくれました。
「ちょっと、そのぬいぐるみたちの説明文も、確認してくれる?」
すると、
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首狩兎(桃)のぬいぐるみ〔アイテム〕☆5
攻撃力特化の首狩兎のぬいぐるみ。戦闘時には、召喚獣『首狩兎(桃)』と同等の力を発揮する。
使用中は武器装備不可になる。
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白虎のぬいぐるみ〔アイテム〕☆7
白虎のぬいぐるみ。戦闘時には、召喚獣『白虎』と同等の大きさになり、同等の力を発揮する。
使用中は武器装備不可になる。
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ぬいぐるみたちも、呪いのアイテム化してます!?
「あわわわ、こっちは『武器装備不可』だよぉ」
「落ち着いて。アイテム借りるね。所有者でない私でも見られるか確認してみよう」
オルゴールを持ち上げたアシャは何かくるくると操作すると、じっとオルゴールを見ました。
「どうやら、所有者の許可があれば見られるみたい。で、このアイテムなんだけど」
一息つくと、私を見て首をかしげます。
「たぶん、月詠専用アイテムになってるんじゃないかな?」
……へ?
専用アイテム?