13 ぬいぐるみ師さん
エルフのぬいぐるみ師さんの家は、町の東側にある大きな木の下にある、ログハウス調の家です。
昔は小人族の家族が住んでいたそうですが、旅に出るときにレンタルハウスにしたようで、エルフさんも、実はもうすぐ旅立つところだったそう。三日後に返す手配をしていると言いながら、ポットを傾けます。
「これを作ってくれたマレビトが、困った状況になっているらしくてな。会いに行くのだ」
優しい瞳でオルゴールを見るエルフさんは、情報にあった偏屈さは全く見られず、とても美味しい紅茶を私たちにいれてくれました。
んー、これ、周りのひとが、エルフさんに失礼しちゃってたパターン?
だって、ここにあるぬいぐるみは、みんなモンスターの形をしているけれど、優しい目をしているものばかりなのですから。
やっぱり、一匹ほしいなぁ。
けれども、次のエルフさんの言葉で、私は一度ぬいぐるみを思考から追い出しました。
「しかし、なぜわざわざ魔道具師に磨いてもらったのだ? ただのオルゴールなのに」
「「え?」」
このオルゴールの箱が、魔道具なのを知らない?
「あの、このオルゴールに使われている箱は、古代の遺物で、魔道具だと言われたのですが」
「そうなのか?」
エルフさんは、箱を持ち上げて、首をかしげています。
「私は『精緻な細工の古い箱』に、友人が作ってくれたオルゴールの部品をつけただけだからな……遺物とは気づかずにいた」
全く貴重な遺物だとか、魔道具だとか、気にしていないみたいです。それよりも、友人からの贈り物だというのが、大事だったのかもしれませんね。
「月詠は、どうしてこれが魔道具や遺物だと思ったの?」
アシャが、聞いてくるのに、私はどうしてだったのか記憶を探ります。
「んーと、そうだ。木材屋さんだ!」
確か、木箱を扱うお店を知りたくて、近くの木材屋さんに寄ったら、これは魔道具だと、壮年のひとが教えてくれたのでした。
エルフのふたりにそう伝えると、ぬいぐるみ師さんは、なにか心当たりがあったようです。
「それは……もしかして鑑定士のギギルではないか?」
聞けば、凄腕の鑑定士さんが、あの木材屋さんの店主の弟なのだとか。たまに手伝いに来ているそうです。
「確かにギギルならば、一見そうとはわからぬものも、一目で見抜くであろう」
「そういうことだったんですね」
なんともラッキーなことです。
「鑑定士……」
アシャは、さっきからなにか考え事です。
「しかし……そうか」
エルフのぬいぐるみ師さんが、なにか思い付いて、席を離れました。
そして、六つのぬいぐるみを持ってきます。
それは、玄関先にも飾ってあった、ウサギのうち三種と、鷲頭に猫科の体のと、ホワイトタイガーのぬいぐるみでした。どれも、私が片腕で抱えられる程度の大きさです。
「君に、このオルゴールと、このぬいぐるみたちのうちどれかひとつを譲ろう。ウサギは、三つセットだ」
「えええ!」
もらえるの!? やりました!
「いいんですか? そのオルゴールは、とても貴重なものでしょう」
「うむ、だが遺物で魔道具なのだろう? 冒険者には役立つはずだ」
マレビトはたいがい冒険者だからな、とぬいぐるみ師さんは言います。もっふもふ!
しかし困りました。どれにしましょう?
ぬいぐるみ師さんの作ったぬいぐるみは、どれもとてもカワイイです。
さっきまでその体毛と耳としっぽの柔らかさを堪能した、ホワイトタイガーちゃんにするか、はたまたカッコ良さともふもふ感が同居するワシ頭くんを選ぶか、はたまた、数量の分だけもふもふが増量されたウサギセットを選ぶか。非常に悩ましい。
困っていると、目の前に選択肢ウィンドウが出てきました。
≪
>三種の首狩兎 のぬいぐるみをもらう
>グリフィン のぬいぐるみをもらう
>白虎 のぬいぐるみをもらう
≫
名前。
どうやらどれも、すごいモンスターのぬいぐるみのようです。
ぐぬぬ……しかし……!
「オルゴールはいらないですので、ぬいぐるみを全部貰えませんか?」
だって、大事なオルゴールでしょう? と、手を合わせてお願いすれば、ぬいぐるみ師さんは、含み笑いのままこう言いました。
「では、同胞にひとつ、君に、ひとつ、だ。さすがに三つともは困るでな」
おおお! 二つに増えた! これは嬉しい。
浮かれていると、アシャがぬいぐるみ師さんに尋ねます。
「貰ったあと、所有権は移せますか?」
「ふふ、どうしてもこの子にやりたいのだな。いいだろう、どちらも所有権はこの子だ」
所有権? よくわからないけれど、アシャは私にプレゼントしてくれるみたいです。ならば、と言ってアシャはひとつを選びました。
「このホワイトタイガー、気に入ってたみたいだし、これにするよ」
さっき、アシャが選んでくれたホワイトタイガー――本当は『白虎』みたいですが――を、再度選んでくれたみたいです。
えへへ、嬉しいな。
さて残り二つなら……。
「じゃあ、私はこちらを」
三匹のウサギさんセットを指さしました。こちらの方が、モフモフ成分が高いですから。仕方ないですね。
すると、エルフぬいぐるみ師さんが、ウサギさんたちをひょいと持って、私に渡してくれました。
「ありがとうございます」
両腕に抱えるウサギのぬいぐるみたち。幸せに浸っていると、アナウンスが出ました。
≪首狩兎のぬいぐるみ(三種) と 守護の檻のオルゴール を手にいれました≫
「えっ」
≪白虎のぬいぐるみ を手にいれました≫
えっいやいや待って。オルゴールは……。
すると、ぬいぐるみ師さんはクスクス笑って、
「実は、無くしたと言ったら、友人が新作を作ってくれたらしいのだ」
と言いました。
「君は、良い冒険者になるであろう。是非使ってくれ」
そう言って頭を撫でてくれました。
えええー、いらないんだけど。
困った顔で、アシャを見ると、せっかくだから受け取りなさい、と頷かれたので、お言葉に甘えて、と貰い受けることにしました。
≪特殊クエスト『なくなったオルゴール』をクリアしました≫
≪職業『ぬいぐるみますたぁ』になる条件を満たしました。転職できます≫
お読みいただき、ありがとうございました。
もふもふ成分、ゲットです~♪
ええと、そうなんです。
このお話の、モフモフの半分はぬいぐるみでできています。