11 魔法屋さん再び
怪しい魔法屋さんに着くと、ひとつ深呼吸をしてから、中に入りました。
カウンターには、小さな目付きの鋭いおばあちゃん。
睨むように「代金は持って来たんだろうね」と言いました。
すると、目の前にウィンドウが現れて、選択肢が表示されます。
≪
魔女・ティフィーソに
> 20,000gz渡す。
> 40,000gz渡す。
> 60,000gz渡す。
> 全財産渡す。
≫
……。
あれ? クエストに必要な金額はいくらでしたか……。
こうして選択肢にされると、迷います。
うーん、うーん。
もしも60,000だったとしたら、足りません。
仕方がないので、全財産渡します。
「こんなにいらないよ」
眉をひそめたティフィーソさんが、お釣りを渡してきました。
≪特殊クエスト『魔女への支払い』をクリアしました。
魔女・ティフィーソから、35,000gz 返されました。NPC好感度が上昇しました≫
……?
計算が合わない気がします。
「あの、お釣り間違えてませんか?」
「間違えるもんかね」
ティフィーソさんが、そう言うなら、そうなんでしょう。私は、そのまま受けとりました。
「この魔道具なんだがね」
「あ、はい」
っとそれよりオルゴールです!
「オルゴール部分は、どうやらマレビト製なんだが、土台は遺物のようなんだよ」
「……遺物……ですか?」
また知らない単語が……。
ゲームの独自のものなのか、他のゲームでも通じるものなのかわかりません。
私のやっていたRPG風スマホアプリにも、出てきていたんでしょうか? 説明文は適当に流していたので、わからないです。
「遺物ってのは、古代に作られた、今では失われた技術で作られた物品の俗称さ。すでに失われた技術だから、壊れたらあたしらでも直せない。大事に扱うんだね」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってオルゴールを渡されました。
≪綺麗なオルゴール を手に入れました≫
オルゴールは、年代を感じさせながらも、上品な輝きを取り戻した、素敵な宝箱になっていました。
大事に届けなくては。
「けれど、古代の技術ですか。ロマンチックですね」
「……そうだねぇ」
おばあちゃんが気を抜いたように、柔らかく笑ったような気がしますが、気のせいですよね。
私はただ、上機嫌でオルゴールを眺めるのみです。いったい、どんなひとが持ち主なのでしょうか。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
オルゴールを受け取ったあと、隣の明るい魔法屋さんのオネェさんに、お礼を言いに行きました。
「お礼なんて言われるようなことはしてないわよ。でも、素敵な箱ね」
フュカルノさんは、うっとりとした顔で箱を見ています。
そうですよね、うっとりしますよね。
「こんなに素敵な箱で、しかも高価な魔道具なんです。絶対に誰かが探しているはずなんですけれど……」
すると、フュカルノさんは思いがけないことを言ってくれました。
「実は、私も気になったものだから、友達をたよって探してみたのよ」
「えっ!」
これから、どうやって捜索しようかと考えていたのに!
「探しはじめてくれていたんですか!? ありがとうございます!」
「いいのよ、これは私の興味本位……しかも、特定できたわけではないし」
「特定……ですか?」
その言い方、もしや、候補はいる、ってことですよね!?
「詳しく聞かせていただいても良いですか!?」
「いいわよ。ただし……」
あ、対価ですね? 大丈夫、今なら余裕があります。
「そのオルゴールの曲を、聞かせてもらっている間、でいいかしら?」
微笑むオネェさんは、とても綺麗でした。
曲を聴きながら、フュカルノさんが聞かせてくれたのは、三人の候補でした。三人とも、ここ二年ほどの間に、箱状の物をなくしたらしいとのことです。
一人目は、領主の娘さん。二年前に、おばあさまの形見の宝石箱を、移動中に盗賊に襲われたことで、盗まれて以降行方不明だとか。
ギルドに、クエスト票が貼られているそうです。
二人目は、偏屈な縫製師。一年前に、近所のひとの所に、オルゴールを盗んだと怒鳴り込みにきたとか。結局、疑いは晴れたらしいのですが、オルゴールは見つからず終いだとか。
ちなみに、この方、エルフなのだそう。
三人目は、町の靴屋のおかみさん。代々伝わる箱状の魔道具を無くしてしまったそう。たぶん、家のどこかにあるはずだと言いながら、二年ほど経つそうです。
とても評判のいい靴屋さんで、フュカルノさんも愛用しているそうですよ。
さて、どこから行きましょうか……。
「おすすめは、靴屋ね。と、いうかそこしかないわよ。領主の娘さんはギルドに依頼があるとはいえ、煩雑な手続きが必要で、そうなのか違うのかわかるのに時間がすごくかかるし、エルフは、人間や獣人が嫌いみたいだし。なかなか会ってくれないわ」
ふむふむなるほど……そうですか。
「情報をありがとうございます。会いに行ってみますね!」
「ええ、こちらこそ。素敵な曲をありがとう」
私は、頭を下げて、笑顔で魔法屋さんを後にしました。
さてさて……彼女に連絡してから、行くことにしましょうか。
お読みいただき、ありがとうございました。
次は靴屋さんですかね?