09 ピンクのたれ耳うさぎさん(甘ロリ)
それから、私は片っ端から、オススメされたクエストをやりまくりました。
周回できるものは、限度上限まで。同時にできるものは受けて、時間短縮で。
そうやってできた22,000gzがここにあります。
「足りない……」
必死にやったクエストで、稼ぎ出した金額がこれ。私を、絶望が包みます。
あと、一時間しかありません。ゲームの中での時間です。あと一時間で、あのオルゴールが売られてしまう。
アシャに借りることも、ちらりと考えてしまいましたが、ダメです。
ずっと仲良くしたい友人とは、お金の貸し借りは慎重にしなければならない、と叔父さんが言っていました。お金のトラブルのために友人と縁を切ることになった話を、待ち時間にされたのです。
ゲーム内であっても、変わらないと言われました。アシャはとても仲良くしていたい親友です。
些細なトラブルで別れたくなんかありません。
焦りから、あたりをウロウロとしていると、ふいに隣から声をかけられました。
「そこの猫天使さん。ちょっと寄っていかない?」
そこにいたのは、ピンクのたれ耳ウサギさんでした。
ピンクのボブカットに、赤いぱっちりとした瞳。甘ロリ衣装が、すっごくカワイイです。
彼女がいたのは露店でした。
お店の呼び込みさんでしょうか。
「すみません、お金がないので……」
私は断ります。当然です。何も買えません。
けれども、たれ耳ウサギさんは、喜色満面として、続けました。
「なら、なおさらだよ! ねぇねぇ、君の話、僕に聞かせてよ! いい値段で買うよ!」
「へ?」
……。
なんか今、とても突っ込みどころの多いことがたくさん起こりました。
ええと……。
めっちゃかわいい、甘ロリファッションで、僕っ娘なのか、それとも男の娘なのか、それともネカマくんで、思わず素が出てしまったのか、とにもかくにも、
「お話しするだけで、お金をいただくような商売はしていません」
「え、君、けっこう年上だったりする?」
何で今の返しで、年上認定なのかはわかりませんが、叔父さんの教えてくれた言い回しなので、ある年代以上ならわかる言葉が含まれていたのかもしれませんね。
否定せずにそのままにすると、悩み顔をしていたたれ耳ウサギさんが、空中に画面を開きました。
「このサイト知ってる?」
?
表示されたのは、Wikiのページのssです。
私は見ていないけど、アシャがガンガン見てるのを知っています。
ので、うなずくと、そっか良かった、と呟いて、こう続けました。
「このサイト運営してるの、僕のギルドなんだ」
へ? Wikiのサイト? 運営? って
「ゲームの運営さんとは違うのですか?」
「違うよ、普通の一般プレイヤーだよ」
「ほへー! ああいうのって、ゲームの運営さんが作ってると思ってました!」
ええー! あんなの、一般の人が作れるものなの?
「あはは! すっごい、ゲーム初心者なんだね。もしかして、初MMO?」
「はい、スマホアプリではゲームしたりもしてましたけど、それはWikiとか見なかったですし」
「そっかそっか」
すると、たれ耳ウサギさんは、笑いながら、何やら紙を出してきました。
見ると、契約書、と書かれています。
「僕たちは、ゲームの中で、いろんな情報を集めて、それを売り買いしたり、ある程度集まったらWikiにまとめたり、っていう活動をしているんだ。つまり、情報屋さんだね」
そうして示された契約名には、『ギルド【うさぎの情報屋さん】代表:ロップイヤー』と書かれていました。
そして、
≪ロップイヤー さんから、個別チャットの申請が来ています≫
というアナウンスが流れました。
これは、昨日はアシャと使いました。二人で話している内容が、他の人には聞こえなくなる機能です。
別窓で開いたWikiの一番下には、『(c)うさぎの情報屋さん』の文字がありました。
私の判断できる限り、本当のことのようです。
私は、申請の許可をしました。
「ありがとう。明らかに、レア情報持ってる人だから、ぜひインタビューしたかったんだ」
ロップイヤーさんは、ホッとしたように言い、契約内容を説明してくれました。
曰く、リアルの個人情報は聞かないこと、提供された情報は、どこまで公開するか、きちんと許可をとってから『うさぎの情報屋さん』内で扱うこと。Wikiにのせる際は、再度許可をとること、などが書かれているようです。
しっかり読んで、構わないなら許可をしてほしい、と言われましたが……あれ?
「あの、許可ボタンが灰色で押せません」
「あれ?」
ロップイヤーさんも、首をかしげます。
これは……。
「すみません、GMさんに、相談してもいいですか?」
「うう……GMコール怖いけど、不具合っぽいもんね。どうぞどうぞ」
私は直通コードに内容を書こうとして……。
『はいはーい! 月詠ちゃん専用ヘルプGM、チュアルくんだよ~☆』
と言って、羽の生えた水色のハムスターが現れるのを見ました。
お読みいただき、ありがとうございました。
甘ロリ僕っ娘、ロップイヤーさん登場と、
水色ハムスター(翼つき)、チュアルくん再登場です。
この二人は、これからも折々に出てくる予定です。