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プロローグ

新連載です。

よろしくお願いします。

 

「るなのお母さん、今度はVRのヘッドセット当てたの?」


 親友のあゆらが、聞き返す言葉に、私は頷きました。

 学校の昼休み。給食のあと、私たちは中庭に来て、いつもの木陰でのんびりおしゃべりです。

 周囲の所々にあるベンチや木陰には、同じように談笑する誰かがいますが、それぞれに距離があり、話し声や笑い声が聞こえても、内容までは分かりません。


「うん、しかも最新型なんだって」


「うわぁ、いいなぁ! たしかPC(ノート)も懸賞だったでしょ、るな」


 座っていた木の椅子から、身を乗り出していたあゆらは、はぁ、とため息をついてのけぞりました。

 けれども、羨ましいのは私の方です。だって彼女は、たしかもう、いくつかのVRゲームをプレイしている、というのだから。


「うん、だからね、あゆらッ」


 私は、両手をパンッと合わせて、お願いのポーズをします。

 そうすれば、我が意を得たりと、あゆらはニヤリと笑ってくれますから。


「おっけー、この、あゆら様が、オススメの最新作を案内してあげよう!」


「やったー!」


 得意気なあゆらに、私は腕をあげて、少し大袈裟に喜んでみせました。

 それから、おたがい顔を見合わせて、くすくす笑います。


「全然わかんないし、あゆらが頼りだったんだよー」


「まー、スマホで無課金アプリしてるぐらいだっけね、るなって」


 あゆらは、おもむろにスマホを取り出して、くるくるといじり始めました。いい感じのところを、早速探してくれているみたいです。


「興味がないわけでは、ないんだけどね……」


 ため息を吐くように言うと、ふふふと、柔らかい瞳がこちらに向けられます。


「VRって、どうしてもPS出るしねぇ。そういうの、なくても楽しいとこで選ぶね」


「PS?」


 知らない言葉が出てきました。ゲーム用語?


「プレイヤースキル。現実で運動神経とか、動体視力とか、いい人の方がやっぱりうまいんだよ。つまり、結局そういう人の方が強くなっちゃうわけ」


 それを聞いて、私は肩を落としました。私の体育の成績は、「がんばりましょう」ばかりなので……つまり。


「あうう……あゆらはいいなぁ、運動神経いいもん」


 あゆらは、それに対して首を振ります。


「VRの魅力は戦闘だけじゃないから。例えば……現実ではなかなか行けない絶景だとか」


「絶景」


 頭の中に、大自然が広がりました。


「現実だと、滅多に食べられない美味しいものとか」


「美味しいもの!」


 頭の中に、いろんなごちそうが浮かびました。


「現実じゃ飼えないペットとか」


「ペット!」


 頭の中に、もふもふダイブする自分が浮かびました。


「そういうのを体験できるのが、VRなのさっ」


「体験した~い!」


 テンションMAXで両手を振り上げる私を見て、声をあげて笑う親友。


「あはは! うん、やっぱりあたし、るなと一緒にプレイしたい。効率だとか、攻略だとか、そういうのぜーんぜん考えないで、ただ楽しくゲームしたい!」


 すごくいい笑顔。

 何だかわからないけれど、私の答えは決まっています。


「うん、私も、あゆらと楽しくゲームしたいよ!」


 笑い返す私に、あゆらは自分のスマホ画面を見せてきました。


「ねぇ、これにしようよ、るな。あたしのゲーム友達に誘われてたヤツなんだけど、のんびり出来ていいよ、って言ってたから」


 あゆらのスマホ画面には、カラフルなかわいいキャラクターたちと、『祝1周年』の文字が踊っていました。


「へぇー、かわいいね!」


「よくあるリアルフェイスじゃなくて、2Dアニメ風だからね。アニメの世界に入ったみたいな気分になるんだって」


 たしかに、VRといえば、まるで現実かと思うような、リアルな映像を売りにしているところばかりをよく聞きます。

 てっきり、そういうのしかないのだと思っていました。


「リアルじゃない、ことを利用して脳を騙して、他のゲームじゃできない駆動も可能になってる、って話題だったかな」


 スマホを自分の手元に戻して、あゆらが続けます。

 言っている内容が良くわからず、首をかしげていると、よしよしと撫でられました。撫でられるのは好きです。和みます。


「まぁ、あたしたちに一番関係あるのは、グロ表示が軽微なのと、モンスターが可愛いこと。あとは、月額で、学割が利くことかな」


「ゲームに学割……!?」


「いや、今どき普通だから」


 お金を払うゲームに詳しくないから、ぜんぜん知りませんでした。普通なの?

 あゆらに教えられたURLを、自分のスマホで見ると、1周年記念で学生は2ヶ月無料という文字が。ただし、普段の料金も割引つきなら、私のお小遣いでなんとかなります。学割は期間限定ではないらしいし。


「うん、これ。しよ、あゆら!」


「うん! やろう、るな!」


 私たちは、笑顔で頷きあいます。

 URLをお気に入り登録すると、待ち合わせは、チュートリアルが終わってから連絡して決めようということになりました。






 ○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*






 世界初のフルダイブ型VRMMORPG。






 が、発売されてから、7年。





 初期にあった様々な問題が解決されるにともない、VRと相性のよいシューティングやスポーツ一辺倒だったタイトルばかりだった企業から、年々、参入が相次ぎ、続々とタイトルが発表されていくことになる。

 内容も様々で、近未来的なもの、人間が存在しない亜人だけの世界、宇宙空間、海中都市、ただただ田舎でスローライフ体験するだけのものなど、多種多様な「現実にはできない経験」を味わうことができる。



 けれどもやはり一番人気は、剣と魔法で魔物を倒すような、西洋の物語のような異世界を冒険するもの。



 もはや発表されるたび、「また似たような」「劣化○○」「定番すぎる」「またお前か」等と言われても、必ず売れてユーザーを獲得するため、VRMMORPGタイトルの約80%はその形式だし、人気RPGタイトルの上位もほぼ独占している。


 それらは、ちょっとしたマイナーチェンジと、ほんの少しの、けれども確実な進化を繰り返しながら、新しい異世界をどんどん人々に届けていった。



 そして、それはVRゲームに馴染みのない人々にも、異世界への切符を手渡していくことになるのだ。





 そう、本作主人公、本宮(もとみや)るな、14歳。

 彼女もまた、これが家庭用VRゲーム初挑戦となる。






 ――ほんのちょっとした勘違いで、とんでもないことに巻き込まれるとも知らないで。




『かきだしのみ倉庫』(https://ncode.syosetu.com/n7196fq/3/)に置いたものの、連載版です。


のんびり、更新します。


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