ツイてなかった話
ある日ある町ある宿屋で。
イストは一人、部屋の扉を閉めた。
こじんまりとした宿の一室だ。ニスを塗った柱と白塗りの壁は故郷の建築を思い出させる。
ふ、と息をつく。気が緩んだせいだろう。じんわりと溜まった旅の疲れに気がつく。
「シャワーでも浴びようかな」
イストは荷物を置いて浴室のドアを開けた。
長い黒髪の女が俯きがちにたたずんでいた。
「あっ失礼」
イストはドアを閉めた。そして我に返った。
今日は一人部屋をとったはずだ。
イストは悲鳴を上げて隣の部屋へ転がり込んだ。
ソルとウィザがぎょっとしてベッドから立ち上がる。
「し、ししし知らないレディが! オレの部屋に!」
「くだらねえ自慢してんじゃねェよ」
「してないよ!!」
イストは這うようにして二人の服を掴んだ。ソルが迷惑そうに身を引く。
「この前も『出る』部屋だったじゃないか! もう嫌だ、怖い! 宿の人を呼んでくれ!」
「もっかい開けて見てみろよ」
「生身のレディだったらどうするのさ!?」
「フツーに不法侵入だろ」
ソルは長剣を片手に立ち上がった。ウィザがため息とともにあとに続く。
三人は廊下に出た。
と、数名の旅人たちが窓際に集まっている。
「どした?」
「表で騒ぎだってよ」
と、窓の外を指差す。
円状の人だかりの中で、細身の女が兵士に両脇を固められていた。
「手配中の通り魔らしいぜ」
「どっかの窓から飛び降りてきたって」
「あの細腕で前科持ちだってよ。怖えー」
ソルとウィザは顔を見合わせた。イストを振り返る。
「ゴメン。生身だった」
イストは卒倒した。




